夏になると、野生のオルカが鮭を追ってたくさん集まってくる、カナダ、BC州のジョンストン海峡。その中でも、オルカが特に頻繁に通過するハンソン島から、毎日の生活とオルカの様子を、日本の皆さんにお届けします!

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7月29日

 日付が変わった頃オルカたちは東へと進み、コールが聞こえなくなった。わたしたちはいったん眠りについたが、彼らは2時頃またちょっとだけ鳴いてわたしを起こしてくれた。わたしは1時間近くそのまま起きていたけど、もうそれ以上は何も聞こえなかった。

 肌寒い曇りの朝。
 今日はCP交代の日なので、ハナが朝早くに荷物をまとめてラボを発った。みんなで岩の上に立って、カーで送られて行く彼女を見送る。
 さあ、今日の仕事をはじめないと。ヘレナに「子ポールがシャワーを浴びに帰ってくるから、サウナの火をお願いね」と言われたので、モモちゃんとふたりでバスハウスの火をつけに行く。あ、と思い出して、自分の食べ物の中からじゃがいもを2個取り出し、ヘレナの所に戻って「アルミホイルちょうだい」と言って、いもに巻いて、サウナファイアに放り込んだ。
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 ほくほくに焼けたじゃがいもにバターをのせて、すてきなランチのできあがり☆ちょうど子ポールがシャワーのためにCPから帰って来ていたので、みんなで久しぶりに一緒にランチを食べる。最近、風が強いせいか、キャンプキッチンがすごく寒い。みんなぶるぶる震えながらごはんを食べている。ここが「ハンソン島でいちばん寒い場所」でなかったら、わたしももうちょっと料理もできただろうに…。

 子ポールがCPに帰ると、代わりにエヴァンが帰って来た。彼、まだ何もしてないのに、さっそくみんな大笑い。もう、存在自体が笑いを誘っている。何にしろ、男手が戻って来たので今日の力仕事はあっさりと終わったようだった。

 ゲストが午後に到着するのでわたしたちはテントの最終設営。ベッドメーキングがいちばん上手なメラニーが、おふとんをきっちりセットしてくれて、完了。
写真は完成前だけど、この枕元に小さいテーブルを置いて、ランプとお花を飾ったら、できあがり。
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 WDCSツアーのゲストたちは、いちばん若い人が38歳(!)ということもあって、とてもほわ~んとした雰囲気の素敵な人たちだった。岩の上に上陸するのを手伝ってあげて、ゲストハウスに案内して、彼らが内装を見たりして喜んでいるうちに、わたしたちはボートに戻って彼らのスーツケースを運んで、ようやくお出迎え完了。
 ゲストが来ているたけあってディナーは豪華だった。

 オルカたちは東に行ったきりだった。最近、オルカたちは東に行ってもなかなか帰ってこないなぁと思っていたが、その原因のひとつと思われるものが今回浮かび上がった。

 ホエールウォッチングボートのナイアッド・エクスプローラは、ハンソン島より西のポート・マクニールから出てるにも関わらず、遠い東にいるオルカたちも見に行ける高速ボートだ。ボートノイズがすごく小さいことで有名で、水中マイクのすぐ近くを通ってもほとんど何も聞こえない。ハンソン島周辺とロブソンバイト・生態保護区を中心とした「コア・エリア」すなわちオルカを頻繁に確認できるエリアに出るウォッチングボートたちは、このナイアッドを含めてみんなとても経験豊富で、どこから近づいてはいけないのか、どの辺りでオルカに休息をあげるために離れて、他の動物を見に行けばいいのかを、とてもよく知っている。お互いに無線で情報を交換し、ひとつの群れに全てのボートがつきまとうようなことはしない。

 しかし、ジョンストン海峡の東から出ているウォッチングボートたちはちょっと違う。最近始めた会社も多く、どこまで追ってもいいのか、どれだけのスピードで近づけばいいのか、とても経験不足なのだ。今日、東まで出たナイアッドのキャプテンであるビルは、そんな経験不足なウォッチングボートたちが、オルカたちを取り囲み、さらに東へと追って行くさまを目撃した。東が好きなのではなくて、もしかしたら思うように方向を変えて帰ってこられないのかもしれないというのだ。
 ホエールウォッチングは楽しい。野生のオルカを近くで見られるし、ボートの近くで顔を出してくれれば、心まで繋がったような気持ちになる。そしてウォッチング客も増えているのでけっこう儲かるらしい。でも、野生のオルカたちの自由はどうなるんだろう。バンクーバー島南の個体群、サザンレジデントの群れが住むところでは、たった4頭の家族に大小含めて100隻のボートが集まったこともあるらしい。
 そう考えると、彼らのことを良く知り、時間の全てを奪うようなことはせず、知識や経験豊富なウオッチングボートたちに囲まれ、またそんなボートすらも一切立ち入りできない、サーモンたっぷりの保護区のあるコア・エリアは、タグボートの交通量が増えたとはいえ、彼らにとってはまだ素敵な場所だと言えるだろうか…。
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2006-07-30 : 未分類 : コメント : 5 :
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7月28日

 明け方にA30sがまたコールをはじめた。北でA35sと合流したらしかった。
 コールがいったん大きくなって、そしてふっと小さくなったので、わたしは外に出てスコープを構えた。まだ明るくなりきっていない空の下、まもなくオルカたちが現れた。

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 ハンソン島ぞいに現れたものの、彼らは向こう岸がわに流されて行った。ゆったり、のんびり泳ぐA30sとA35sの姿にみんな喜んだが、ジョンストン海峡に入った後、A30sはさっさと方向を変えてブラックニー・パスへ戻って来た。「アシスタント殺し」の文字が頭をかすめる。しかし彼らは特に何の嫌がらせもせずに、そのまま北へと消えて行った。

 今日はタウンラン。ジョンストン海峡に入ったA35sたちは、何故か全くコールを出さなかったので、それはそのまま放っておいてタウンランの準備に走り回る。今日は、メラニーとエリッサが当番。お買い物リストを渡し、洗濯物とごみをボートに乗せて、CPに出す荷物をまとめて全てを海岸の岩の上に並べ、デッキに出て来た咲と遊びつつ、タウンラン組の出発を待った。咲の子供らしきデューは、まだわたしが怖くて近づいてこられない。

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 タウンラン組を見送った後、久しぶりにサウナを炊いてシャワーを浴び、それぞれにランチを食べ、その後手分けして施設の掃除にかかる。明日のゲストが来るまでに、すみずみまで完璧にしておかなければならない。
 デッキを掃き、白いいすを磨き、バスハウスの大掃除をして、ひと息。ラボに戻ると、A30sがまたこっちに向かっているというレポートが入って来た。しばらくするとエコロケーションが聞こえて来た。ラボの前に現れたA30sは、何を思っていたのか今回は猛スピードでジョンストン海峡に消えて行った。
 なにげに今日、これで彼らの姿を見たのは3回目…。

 彼らの声を聞きつけてか、東からA35sが戻って来た。オルカたちは合流して喜ぶと、共に東へと向かい、ラビングビーチで身体をこすって遊んで、また東へと向かって行った。

 タウンラン組が帰ってくると、またまたカートちんの木材が大量に届いていた。また、この重労働か…。シャワー浴びたばかりなのに台無しだよ…。重い木材を船から下ろし、デッキに積み上げる。腰がすっかり痛くなってて気がつかなかったけど、手にはとげがささっていた。

 今日もみんなへとへと。そして、ディナーはなし。オルカたちは東から戻って来て、ちょっとうろうろした。そのうち、遠い東に行っていたA4sとA5sの群れも帰って来た。わたしは缶詰のスープを食べ、メラニーと交代しつつ録音して、倒れるように寝た。
2006-07-29 : 未分類 : コメント : 2 :
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7月27日

 深夜から明け方にかけて、昨日に引き続き轟音ラビングを楽しんだ後、A12sのご一行は東へそそくさと消えて行った。おかげでほとんど寝られなかった。んー。

 電気の残量をチェックし、ラボの辺りまで戻る。今年生まれらしいステラーズ・ジェイが、高い木の枝の陰の中を飛び回っていた。咲がいなくなってから、わけのわからない若い鳥たちが彼女のテリトリーに侵入しようとして困る。その中でもいちばん太ってそうな鳥に「咲じゃないよね?」と聞いてみたが、見事に無視された。もう7月も終わるし、そろそろ現実を受け止めて、わたしもこの子たちと仲良くしなきゃいけないなぁ。
いちばんわたしに興味を示してそうな、今年生まれのすべすべのステラーズ・ジェイに、「Dew」と名付けて可愛がることにした。

 ポールがラボにコーヒーを持って来てくれた。それを飲みながら静かな朝を楽しむ。誰かが起きて来るまでラボ番をしようと、ひとりぼけーっとしていたら、とすっという音が窓の外で聞こえたような気がした。何の気なしに横を見る。ラボのデッキに、青い鳥が止まっていた。え?

「さ、さき?」
 青い鳥は首をかしげてわたしの方を見た。うそ?そういや、2日前に七夕の願いを書き直したんだ。咲に会えますようにって。最悪の場合わたしも天国にいかないと会えないな~、だなんて思ってたのに…。

 わたしはラボを飛び出た。青い鳥はわたしが外に出て来たのを見ると、ひゅーっと飛んで来て、目の前の木に止まった。
私「咲?」
咲「ギャー、ギャー」
うわーっ、ほんものだあ( ̄□ ̄;)!!

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 いつも7月初旬に来る咲が、どうしてこんな遅く、しかも他のステラーズ・ジェイに自分のなわばりを奪われそうになるまで下りて来られなかったのかはわからない。下りてくる直前まで巣作りをしていたのだろうか、彼女の美しい羽はぼろぼろだった。でも、わたしについて来る鳥、そして返事をする鳥なんて、この世に1羽しかいない。野生のカケスはいったい何年くらい生きられるのだろう?
 わたしと咲は1年ぶりの再会をゆっくり楽しんだ。

 太陽の光が強くなり始めたころ、A35sが北からこちらに向かっているという情報が入って来た。昨日確認できなかったのは、散らばっていたからじゃなくて、本当にいなかったからだった。どうして遅れて来たんだろう?誰かを待ってたのかなぁ。

 お昼近くなってさすがに眠くなって来た。モモちゃんに「ちょっと寝るから」と言って、わたしは太陽で温められたぽかぽかの寝袋に潜り込んだ。1時間ほどすると、ヘレナが起こしに来た。
「せっかく寝ているところを起こしてごめんね。ゲストハウスのデッキにテントをはるの手伝ってちょうだい」
なぜこの島には大きなテントを組み立てられる人がいないのだろう。毎年、この巨大テントはりは、なぜかわたしが指揮をとることになっている。大きなテントは、ちょこっとばかり、作りが複雑だからだ。それにしても、説明書と写真を見れば、どこに棒をさせばいいのか、どことどこを繋げればいいのかくらい、わかるだろうに…。

 嘆いていても仕方がないので、テントの設置にかかる。ハナとダニエラとメラニーが、すでにテントを広げてくれていた。テントを組み立て、中をほうきで掃いて、可愛いラグマットを敷く。ヘレナがマットレスとウレタンフォームをもってきた。これを重ねて、シーツをかければ、すてきなベッドのできあがり。
「明日、おふとんとまくらを運び込んで、小さなテーブルにランプとお花を置きましょう。あと一人分ずつのタオルセットを作って、それぞれのベッドの上に置くの。葉っぱが入って散らかるといけないから、仕上げはゲストが来る直前でいいわ」
テントの中はまるで小さなペンションのようになった。大きなテントふたつに、2人ずつ泊まれる。あとゲストハウスの1階と2階にも人が泊まる。これで10人くらいは来ても大丈夫。

 すっかり準備を終えて、キャンプキッチンでひと息ついていると、コールが聞こえて来た。北からやってきたA35sだ。急いでラボに走り録音スタート。しかし、A35sはしばらくしてコールをやめてしまった。ウェイントン・パスを通過してジョンストン海峡に入り、東へと向かったようだった。

 ディナータイム。
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「最近のオルカたちは、ディナーの時間になるとコールをやめてくれて親切だね」とポールがビールを飲みながら上機嫌で笑っているとき、スピーカーからコールが聞こえて来たような気がした。
 ラボに走り、念のために録音スタート。しばらく待ってみたが、コールはない。気のせいかもしれないけれど、テープを回したままにして,デザートを食べに戻る。すると、またスピーカーから何かが聞こえた。今度は確実にオルカっぽい。
「わたしが行くから大丈夫、食べてて」
今度はメラニーがラボに行ってくれた。落ち着いて、ジャムのかかったプディングを食べる。すると、今度ははっきりとしたコールが聞こえて来た。

「これ…A1だよ」わたしは、言いながら固まった。
「そうね」返事をしたヘレナの表情がさっと変わる。今ここで、A1コールが聞こえていることの重大さに、気づいたからだ。A1ポッドであるA12sは、遠い東に向かって行ったはずじゃなかったっけ?スーパーポッドと共に北に向かったA36sの3兄弟は、同じA1でもこんな声ではない。
「まだよ、トモコ。A12sがすっごい勢いでターンして戻って来たのかもしれないから。わたしたちが飛び上がるのは『あれ』を聞いてからよ」
「うん」
 その時、ダダダダと足音がした。メラニーが大急ぎでメインハウスに走って来るのが見えた。コールは止まったままだ。でも、もしこれがフラワーアイランドの水中マイクからなら…飛んでもいいんだよねヘレナ?
「Calls on FI!」
「キャー!!」
 わたしとヘレナは同時に凄い大声で叫んでガッツポーズをして飛び上がった。あまりのうるささに、飲んでいたポールが思わず顔をしかめて耳を塞ぐ。A12sは東に行ったまま。それなのに、北からのA1コール。わたしはラボに走った。ヘッドフォンをつけると、コールが聞こえて来た。ジョンストン海峡を代表するあの家族のコールが。
「A30sだ!」

 ヘレナも大はしゃぎしながらラボに入って来た。ほとんどのAポッドが「ご一行」として海峡をうろうろしている間、彼らだけは北から帰ってこなかった。そしてスーパーポッドにも参加しなかった。彼らがいなくてとてもさみしかった。彼らはジョンストン海峡の大スター、A30s。

 スターたちの姿をひとめ見ようと、アシスタントたちもデッキに集まった。しばらくして、1頭のメスが視界に現れ、わたしたちは歓声をあげた。
が、しばらくして彼女は消えた。そして、彼らのコールも消えた。

 ちょっと待って。なんだか嫌な予感がする。
 彼らは待っても待っても現れなかった。そのうち辺りが暗くなって来た。FIの水中マイクからコールが少し聞こえたが、それはどう考えてもラボの角をまがってすぐ辺りにいるような感じのコールだった。来るのか来ないのか。みんながため息をつきはじめた。わたしはスコープから離れた。もう暗すぎて波すらも見えない。ていうか、今更だけど、A30sって別名「アシスタント殺し」って呼ばれてなかっただろうか?

暗くて何もみえない…。
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 A30sはとっぷり日が暮れてから、ようやくブラックニー・パスに入って来た。目のいいハナでも、暗い海に背びれの影だけ。鳥目の私にとってはただの暗闇。彼らの姿はラボからはるか遠く、波が荒かったのでブローを聞くことも難しく、そして潮に逆らっていたため、動きはとんでもなく遅かった!!最初に視界に入って来てからたっぷり1時間半かけて彼らはブラックニー・パスの7割を進んだが、ついに潮の流れに負けて北へと戻って行った。その間、ジョンストン海峡にいたA35sは、大スターのA30sに会いにこっそり北へと向かっていたらしい。ひっとこともコールを出さず、静かに合流。

 またいつコールを出すかわからない。わたしは不安だったが、ほとんど寝てなかったからとりあえず寝袋に入った。ジョンストン海峡には入れなかったけど、A30sが来た。夏本番がスタートしようとしていた。
2006-07-28 : 未分類 : コメント : 5 :
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7月26日

 ケルプホーンが効かなかったことなんてない。朝いちばんにマルコム島沖からこっちの方にオルカの群れが向かっているというレポートが入って来た。5日間も留守にして、ずいぶん心配させてくれたものだ。わたしたちは半分「もうオルカを見られないのではないか」というような不安にかられていた。

 帰って来てくれたのはやはりA12s率いる「ご一行」だった。彼らはひっきりなしにコールを出しながら、ブラックニー・パスいっぱいに広がって、わたしたちの疲れた心を癒してくれた。やっぱりオルカがいる疲れと、いない疲れでは気持ちよさが全然違う。
ここ最近、肉体労働ばっかりで心身共にストレスがたまっていたわたしたちにとって、オルカたちの姿とその美しいコールは何よりのプレゼントだった。

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ようやくラビングビーチの水中マイクが復旧したので、久しぶりのラビング音がきけるとわたしはウキウキしていた。ロブソンバイト生態保護区には、ラビングビーチと呼ばれる浜がある。そこは丸みをおびた砂利のビーチで、オルカたちはこのすべすべした砂利で気持ち良さそうに身体をこすって、時には「うえぇ~」と変な声を出す。まるでお風呂に入ってるみたい。

ラビングビーチ
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ところが、壊れたマイクのかわりにポールが設置し直したラビングビーチの水中マイクは、とんでもないしろものだった!!
ラビングビーチの音量を上げた時、波の音の大きさが気になった。やけに、うるさいような気がする。満潮だからかな?いつ、コールや砂利の音が聞こえてきてもいいように、もう少し音量を上げる。えっ?ボートの音が聞こえている?

 ラビングビーチは生態保護区内にあるから、徒歩の人間もボートも立ち入りを禁止されている。オルカたちにとってはとても神聖な場所だ。もしこの区域にボートや人が入ろうものなら、あっというまに監視ボートに捕まってしまう。ということは、このマイクは保護区外、かなり沖の音まで拾えるのか。オルカの動きはよりわかるようになるけど、せっかくのラビングの音の間に、うるさいボートの音が入って来たら大変だ。うーん、いいような悪いような。

オルカたちがビーチにやってきた。その瞬間、わたしはヘッドフォンを投げ出しそうになった。
「うあああ」
目の前で何かが爆発したような轟音だった。波がごおおっ、ぐおおっ、ばっしゃーんと音をたて、散らばる砂利の音が音割れしながらラボ中に広がり、耳元でオルカたちが思いっきり叫んでくれた。うわー何だこれは!?
 あわてて音量を下げる。が、もともとの音が大きいので、音割れはいっこうに収まらなかった。わたしはマイクが壊れるのではないかと心配になった。大地震でビルが次々と倒壊するような地獄絵図が目の前に広がった。たっぷりの水の中次々と飛び散る砂利の騒音。オルカたちの巨体が海中でうねっている。いつもならザザッ、ザアアアと爽やかに広がるはずの砂利の音。オルカたちが身体をこすっている様子が安易に想像できる瞬間なのに、ラボにいたわたしとメラニーは何故か「あわわわ」と震えていた。オルカの身体がどんなに大きいか、彼らが身体をひとこすりするごとに、いったいどれだけ大量の砂利が水中に浮いているのか、再確認させられた瞬間だった。しかし、なんにしてもこのままではまずい。興味深い音ではあるけど…。

「音割れしてた?」ディナータイムの時、ポールが聞いて来た。
「してた、音量自体が大きくて、音質もずいぶん違って、ボートノイズも拾って驚いたけど…うーん」わたしは新しい水中マイクに対してなんとかフォローをしようと思ったが、あの小さなビーチに、こんな広い範囲で音を拾うマイクはいらないのではという気持ちをちょっと隠しきれなかった。ポールはため息。
「もう1回修理しにいかないと」
ああ、ごめんじいちゃん…。子ポールがかわりに潜ってくれないかな?

オルカたちは夜中もコールを出し続けた。わたしたちは交代でレコーディングすることにした。1日じゅう録音し続けて疲れたけど、こんな疲れなら大歓迎だった。
2006-07-27 : 未分類 : コメント : 2 :
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7月25日

今日もオルカがいない。

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メラニーとポールは早起きしてラビングビーチの水中マイクの修理に向かって行った。午後からイギリスのテレビ取材が来るので、わたしたちは全員で手分けしてラボ、デッキ、バスハウス、メインハウス周辺を「これでもか」というくらいにきれいにしなければならなかった。
 ラボとバスハウスはほうきで掃いてモップがけし、くもの巣を取った。デッキは、板1枚ずつの隙間につまった落ち葉まで,細い棒を使ってすみずみまで掃除し、ほうきで掃いた。施設はおかげでピカピカになったが、みんなはぐったりして、ランチ後、ラボの2階で倒れ込んでしまった。ここ最近体力のいる仕事ばかりが続いている。

 午後から予定通りテレビ取材が来た。そのころ、ブラックニー・パスにはザトウクジラの「フーディニ」さんと、その赤ちゃんがのんびりと泳いでいた。久しぶりのクジラにわたしたちは全員デッキに並び、スコープを構える。その様子をボートから撮影するイギリスのフィルムクルー。ああ、せめて髪くらい洗っておきたかった…。

カメラを構えるハナ
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 取材陣はラボの中に入り、ポールの説明を受けた。わたしたちはデッキから離れるに離れられず、冷たい北風の中ぶるぶる震えながら、遠くに向かうフーディニと赤ちゃんを見ていた。いつまでたってもフーディニはオルカラボの前の海から姿を消そうとはしなかった。中に入りたいけど、テレビカメラがいるし…。

「決めた!2階から見よう」
ダニエラが1抜け。彼女に続いて、わーっとみんないっせいにラボの2階へかけあがった。途中、取材陣のひとりに気づかれたが「ハァイ!」とにっこり笑ってその場はごまかし、全員2階に登った所でパタンと1回に繋がるふたを閉めた。
「ふー。」
これで安心。いや、汚い姿は撮られなくてすむ…。
気が抜けてしまったのだろうか。そこでみんないっせいに倒れ込み、眠ってしまった。

ディナータイム。
取材陣も無事に帰って(実はけっこうすてきな人たちだったらしい)、ヘレナ得意のラザニアを思う存分いただく。ふと、ポールが気になるメールを読み上げた。
「C21がボートにはねられて殺されたらしい」
「ええっ」
わたしは詳細を尋ねた。7月18日、地元の漁師が彼女の死体をプリンス・ルパート沖で発見したそうだ。死んで間もないと思われる彼女の身体にはボートによると思われる傷が残っていた。C21は、この間のスーパーポッドの時にも来た、C6sのメスのオルカだ。彼女が命を落としたのが18日以前だとしても、21日にC6sがここに来ていたのは確実だから、ずいぶんなスピードでジョンストン海峡の他の仲間に会いに来たことになる。
そして、「もうひとつの迷子」だったルナの死を筆頭に、今年は何故、こうもたくさんのオルカがボートにはねられるのだろう?

 スーパーポッドの時にジョンとグラエムが撮ってくれた写真を解析したところ、7月14日、ジョンストン海峡の東でボートにはねられたオルカは、A82であることが判明した。A82は、お母さんのA59を最近亡くしている。そのストレスのためか、身体はやせ細り、頭ばかりが大きく尖って、「ピーナッツヘッド」と呼ばれる状態に陥っていた。そのうえにボートにはねられていたなんて…。今年はオルカにとって、あまりいい年ではないことは確かだ。まだ若いA59と、ほんの最近まですごく健康だとレポートされていたA12sのA74(Stormy)に何が起こったのかも、全くわかっていない。

 オルカたちは危険な内海から離れて行ってしまうのだろうか…。
 わたしたちはカートと一緒に5本のケルプホーンを吹いた。昨日吹いたときはきっと力が足りなかったんだ。なんか、オルカのかわりに、存在するのかしないのか、見えるのか見えないのか、わけのわからないものが出たけど。
 FIの水中マイクからずうっと小型釣り舟の甲高い騒音が響いていた。
2006-07-26 : 未分類 : コメント : 3 :
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7月24日

晴れた静かな朝。
枕元のスピーカーから同じコールが2回聞こえたような気がして、わたしは飛び起きた。でも、夢だったらしい。オルカたちは今日もいなかった。スーパーポッドの後は、オルカたちがジョンストン海峡を留守にすることも珍しくない。オルカがいない日、これで3日目。CPはスーパーポッドの日にエヴァンとエリッサが交代、ラボは女の子ばかり、6人になった。

 オルカがいないから、ここぞとばかりに大工のカートちんがわたしたちに大量の仕事をくれた。現在、ゲストハウスは工事(修理)中。力仕事がわんさか待っている!

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オルカが来ないと、この力仕事からは逃れられない。しかも男の子2人はCPに行ってしまっている。もちろんCPでも、オルカがいない今のうちに急ピッチでテープのレビューが行われていたり、カメラ設置や水中マイク修理で子ポールが潜ってたりしてとても忙しいのだが「こっちにはめずらしい鳥が20種類はいるよ」と2人からメールが来たときは、さすがに羨ましくて泣きそうになった。去年はあそこに涙が出るほど可愛い雷鳥がいたのだ…(自分ではそんなことないと思ってるけど、オルカより鳥の方が好きでしょ!?とよく言われます)。

ヘレナがラボに入ってきた。
「ケルプホーンを吹きなさい。これは、指令よ」
えっ、いいの!?
スーパーポッドの前日、気まぐれにカートちんが吹いたケルプホーンのおかげで127頭も集まった。これまでケルプホーンが効かなかったことなんてない。1999年のシーズン真っ盛りにオルカが18日間いなくなったときも、ケルプホーンを吹いてから方向を変えたオルカたちが3日でジョンストン海峡に到着した(と思われる)。すでにオルカが来ているのに吹いてしまった年は、8月中スーパーポッドぎみになって、わたしたちは寝られなくなった。ついには「ケルプホーン禁止令」までヘレナから言い渡される始末。
でも、吹いていいんだよね?今吹けば、どんな遠くに行っていてもすぐに方向を変えて近いうちにきっと戻ってきてくれるはず!

わたしとモモちゃんはビーチに走った。

これがケルプ。このあたりの海にいくらでもある海藻。
モモちゃんうれしそう
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両端を切り落として吹きます。オルカに届け!!
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しばらくすると、街に届いた大量の木材を取りに行っていたジューン・コーブが帰ってきた。みんなで並んで重い木材を船から次々と下ろし、ゲストハウスのデッキに運ぶ。
くたくたになってラボで休んでいると、ヘレナが「ブリンクホーン沖にオルカがいるからレコーディングスタートさせて」と言いにきた。
えっ、こんな即効性でいいの?

しかし、待っても待っても、コールはなかった。1時間ほどしてポールががっかりした表情でラボにやってきた。
「たぶん誤報だよ。誰もその群れを見つけられなかった。録音止めていいよ」
誤報…誤報だったのか。早く効き過ぎだと思った…。
「でも、6~7頭の群れというレポートだったんだけどね。何だったのかしら」
デザートを食べている時に、ヘレナが言った。
「トランジェントじゃないの?」
「いくらトランジェントでも、何十分も水中にいられるわけじゃないわ。ほんとうに誰も、その謎の群れを確認できなかったの」
この海域の人がミンククジラやイルカの小さな背びれをオルカと間違うだろうか。また、間違えるとしても6~7頭は行き過ぎではないか?

 謎を残したまま夜はふけていった。
2006-07-25 : 未分類 : コメント : 0 :
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オフィシャルリスト

7月21日のスーパーポッドのオフィシャル・リスト。
IDブックの筆者、ジョン・フォードとグラエム・エリスが確認してくれたのでほぼ間違いないです。

●もともと、ジョンストン海峡にいたオルカたち
A12s、A11sとA73、A35s、A24s、A42s(IDブックではA8s)、A43s(A23s)、A51s(A25s)

オルカラボ前を通過してジョンストン海峡に入ったオルカたち
●A36s、C6s、D7s、G2s、G3s、G12s、G29s、G31s、I31s、R4sとR5s、R17s、Ws

計127頭

わあ!!
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2006-07-23 : 未分類 : コメント : 2 :
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7月21日

霧が出ました
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 たとえジョンとグレアムの言葉であろうが、わたしは「A74も見当たらない」なんてばかげた言葉は信じたくなくて、みんなに八つ当たりしながら寝たり起きたりしていた。A12sのメンバーを亡くすことは、自分の家族を失うのと同じ。ほんの数ヶ月前までとても健康だったA74に何があったというのだろう。こんなに気が散ってるから、知ってる道で迷ったりするんだ。
 わたしの気分が悪いので、みんなが気を使ってラボから逃げて行った。すると、ヘレナがうっきうきでやってきた。
「元気が出るニュースがあるのよ」
 昨日まる1日ジョンストンを留守にしたご一行が、東から帰ってきたのだろうか。
「ジム(ホエールウォッチングボートのルークワ)が北のマルコム島沖で、Rsのコールを聞いたんですって」
えーーーーーーーーーーーー!!Σ(゚□゚(゚□゚*)

 今はまだ7月だ。Rsの時期には早いんじゃないの?
 でも彼らはマルコム島ドネガル沖までやってきているという。わたしは大急ぎで録音を始めた。本当にドネガル沖まで来てるのであれば、すぐにコールが聞こえてくるはずだ。
散らばっていたみんなが、ラボに集まりはじめた。ヘレナがもう1度、ラボにやってきた。
「情報追加。トゥアンに乗ってるジェレッドが、北のグループの後続に山ほどのオルカを確認したそうよ。心の準備はいい?」
 ヘレナがにこにこと喋っているうちに、オルカたちのコールが聞こえ始めた。A36sとRsとWsとBサブクランのオルカのコールだった。

 これは大変だ。もしかしたら、まだ後続がいるかもしれない。わたしとヘレナは並んでリストを作り始めた。ジョン・フォードとグラエム・エリスが来ていたのはラッキーだった。わたしたちはラボで2人でコールを確認し、彼らも2人でビジュアル識別できる。
「Bサブクランはごちゃまぜになっているけど、CsとDsの両方がいるよね。もしこのコールがDsなら確実にD7sだよ」
「そうね、CsはC6sのようだから、そうメモしておきましょう」
ヘレナはグラエムに無線情報を伝えに、ラボから出て行った。次の瞬間、わたしは「キャー」と叫んだ。ひっきりなしにコールを出すA36s、Rs、Ws、C6s、D7sのオルカたちの声の背後から、I31sのはっきりとしたコールが聞こえてきたからだ。
「ちょ、ちょっとモモちゃん、I31sが来たってヘレナに伝えて」
やっぱり後続がいた。ヘレナがすぐにラボに来た。
「グラエムと話したの。オルカが多すぎてごちゃ混ぜになっているから、まだ全部は確認できていないんだけど、ほとんどのGsが背後に控えてるらしいわ。誰がいるかわかったらすぐにメモをとってね」
 全てのクランのオルカが揃った。これは、スーパーポッドだ!!

ん?
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ちょっと…というか、かなりややこしいですが、説明します。


★Aクランに属するオルカたち★
●Aポッド
A1 pod(A36s、A12s、A30s)
A4 pod(A11s、A35s、A24s)
A5 pod(A8s、A43s、A25s)

●Bサブクラン
Aクランの中でも、Aポッドとはかなり違うコールを出すので、Aポッド以外のオルカたちをまとめてBサブクランと呼んでいます。
B pod(B7s)
C pod(C10s、C6s)
D pod(D11s、D7s)
H pod(H6s)
A-I pod(I1s、I22s、I17s、I18s)またややこしいことに、GクランにもIポッドがいるのです。個体識別が始まったときのミスで、血のつながりはありません。



★Gクランに属するオルカたち★
●Gポッド
G1 pod(G4、G3s、G18s、G17s、G29s)
G12 pod(G12s、G2s)

●G-Iポッド
おかしなことに、I11sとI31sのコールはほとんど同じなのに、I15sだけかなり違った、とってもおもしろいコールを出します。
I11 pod(I11s、I15s)
I31 pod(I31s)



★Rクランに属するオルカたち★
●Rポッド
R1 pod(R2s、R4s、R5s、R17s、R7s)
W1 pod(W3s)



 このようにたくさんの群れがジョンストン海峡には来る。でも、常にいるのは主にAポッドとI15sくらい。その中でもジョンストン海峡の主とでも言うべきA1ポッドのオルカたちは、他のオルカたちがこの海峡に来るためのホスト役。例えば今回、これだけたくさんのオルカを探して集めてきたのは、ジョンストン海峡を代表する3兄弟、A36sだった。ここ数年の傾向だと、集め役はA36sとA30sが担当し、A12sはジョンストン海峡で出迎える感じになっている。
 全てのクランから50頭以上のオルカが集まることをスーパーポッドという。たいていは8月半ば、オルカたちの都合によっては行われない年もある。どうやってその日を決め、数を集めて来るのか、またどうして行われるのかはオルカたちに聞いてみないとわからない。が、生息数が限定されている中で、血が濃くなるのを防ぐためのお見合いパーティという説も。

 100頭近くのオルカたちはいっせいにラボの前を通過してジョンストン海峡へと入った。オルカたちはまっすぐ海峡を下り、ロブソンバイトとラビングビーチでいいひとときを楽しんだ。彼らはそれだけで満足してしまったのだろうか、方向を変えて西へと進み、暗くなる前に、プラックニー・パスに入ってきた。

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 ジョンとグレアムはかなり大量の写真を撮影できたらしい。これだけ撮れれば次のIDブックが出るのもそう遠くないかもしれない。わたしたちのコールからの情報も思案に入れ、彼らが出した正式なオルカたちの数は、なんと127頭だった。

 個体識別を終えたわたしたちはスコープから目を離して、北へと消え行く大きな群れを見送った。彼らのブローが北の海に一面に広がっていた。きれいに晴れ上がった空に傾き始めた太陽。それは絶景だった。
 コールはディナー前に途切れた。彼らは今夜も戻っては来なかった。
2006-07-22 : 未分類 : コメント : 9 :
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7月20日

今日はタウンラン。

あざらしのジョーイ三郎
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 ハナとダニエラがタウンランに行くことになった。洗濯物とごみをジューン・コーブに積み、買い物リストを渡して、見送る。今日は犬のリオも獣医さんに足を(小さい頃にバカな人に撃たれた)診てもらいに行くため、いっしょに出かけることになった。わたしとモモちゃんとエヴァンはラボでお留守番。

 お昼ごろ、ヘレナがたくさんのタッパーを持ってラボにやってきた。
「昨日のディナーの残りで良かったら食べなさい。今日はオルカも遠い東に行ってしまっていないし、お天気がいいから、ランチのあとハイキングにでも出かけたらどう?」
わたしたちは飛び上がって喜んだ。行っていいの?お出かけの日だ!!

 ヘレナがくれたスパゲティを温めて皿に盛り、一緒にもらったズッキーニのオムレツとサラダを添え、3人で日当たりの良い海岸の大きな岩の上に並んで座り、ランチを食べた。途中、ブホーッという大きな音が聞こえたので目の前の海を見ると、2頭のザトウクジラが巨体を光らせながら水中に潜って行くところだった。

 ぼうしをかぶり、長ぐつをはき、軍手をはめて準備完了。道を知っているわたしがとりあえず先頭、エヴァンとモモちゃんがそのあとを追う。ドンチョンベイまで20分ちょっとのプチハイキング。

ハイキングに喜ぶエヴァンとモモちゃん
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 まずは千年杉の方まで向かう。ふと、何かが動いたような気がした。
「バンビだ」
ぴょんと飛び出てきたのは鹿2頭と、可愛い子鹿ちゃんだった。彼らはわたしたちの方をじっと見ると、ぴょんぴょんとリズムよく跳ねながら森の奥に消えて行った。
 
 出かける前にヘレナが「ドンチョンベイまでの道は木が倒れててちょっと歩きにくいかも」と言っていたが、その箇所にたどり着いてみると、ちょっとどころではなかった。背の高い細い木が、ちくちくした葉っぱをたくさんつけたまま、あちこち大量に倒れている。道はきれいにふさがり、奥もどうなっているかわからない。
「でも、こっちでいいと思うんだけど…」
去年まではちゃんと通れるようになっていたのだから、とわたしは記憶をたぐりつつ倒れた枝をまたぎ、回り道をして、かつて道だったであろう箇所を進んだ。そのあたりの地質が同じだからだろうか、倒木の箇所はいっこうに抜けられなかった。エヴァンがモモちゃんを助けてくれるので、わたしはちょっと先に走って道を確かめつつ、枝をかきわけて進んだ。しばらくすると、ようやく地質が変わって、目の前には美しい森が現れた。喜んだエヴァンがひとりで走って行ってしまったので、わたしとモモちゃんは辺りの景色をじっくり楽しみつつ、ぺちゃくちゃ喋りつつ、まるでもののけ姫に出てきそうな可愛い森の中を進んだ。

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 森を抜けると、すぐに海の音が聞こえた。スプリンガーのいけすがあった、ドンチョンベイだ。ラボの前の海は岩だけど、ドンチョンはちょっとした砂浜だ。わたしたちは喜んでキャーキャー言いながら海に走り、砂浜を抜けて奥の岩に登った。わたしの持っていたお水をわけあって飲んでひと息。なんて綺麗な日なんだろう。

 エヴァンが自然に帰るくらいに遠くに行ってしまったので、わたしとモモちゃんは並んで大きな岩の上に座り、目を閉じた。いまにもお昼寝ができそうな感じだった。ところが、耳元で不快な音が聞こえてきた。ハチ襲ってきた!!
「やーめーてー(゜O゜;」
実はわたしはアレルギーなのに、何のハチ対策も持ってきていない。エピペン注射も、ポイズンリムーバすら持って来ていない。しかも過去に刺されたことがあるから、もういちど刺されたらいったいどうなるかわからない。なのに油断し過ぎだ。
 わたしの類いまれなるタテの動きによってハチはわたしを見失い、どこかに飛んで行った。

 攻撃からは逃れたけど、わたしはもうここにいるのが嫌になった。
「ウォーラスのキャンプの方まで登る?」わたしは2人に尋ねた。海でちょっとくつろいだからもうけっこう満足していたけど、もう少しくらい遅くなってもヘレナは何にも言わないだろう。わたしたちは美しい坂を登り、さっきの岸とは逆側から海を覗き、もう少し奥まで行こうとしたが、何だか息が切れてきたので戻ることにした。

 帰りはエヴァンが先頭。わたしとモモちゃんはやはり喋りながら後を追う。
 倒木の箇所まで来たとき、わたしたちの足も呼吸も止まった。反対側から見た景色は来るときのそれとは全く違い、目の前には険しい薮が広がるばかりだった。
「どこから出てきたんだろう。これ、まっすぐ行けないよね」
「さっき、回り道した時に枯れた川ぞいに歩いてたと思うんだよね。いちど川におりてみない?」
「そうしないとどっちにしてもまっすぐは進めないしね。じゃ、川までおりよう」
わたしたちはいったん横に進んで薮をかきわけ枯れた川におりてぬかるみを歩き、ラボめざして進んでいた。はずだった。
「ねえ」先頭を歩いていたエヴァンが言った。
「行き止まりなんだけど」

 川は、見事に行きどまっていた。えっどういうこと?キョロキョロするけれど、進むべき道は見つからない。こういうときはいったん戻って、そこからまたはじめなければいけない。でも、下りた場所も薮の中。いったいどこから来たのか、さっぱりわからなくなっていた。
「でもさ、けっこうラボの近くまでは来てるはずなんだよね。コンパス持ってる?」
 歩いてたった20分のドンチョンベイ。もちろん誰も持っていなかった。

 わたしは考えた。とりあえず目の前…目の前どころか、そこいらじゅう…深く茂った薮で、道も方角もあやふやだ。でも、戻ってたんだから絶対ラボの近くであるはず。
「高い所に登れば、千年杉が見えるかも」
「じゃあ、そうしようか」
わたしの突拍子もない意見になぜかエヴァンが賛同し、不安そうな顔のモモちゃんを連れて、横の崖を登って行くことにした。
 のぼってものぼっても、頂上は見つからなかった。これを超えれば、と背伸びして見えるのは、また次に広がる高い丘だ。わたしたちはへとへとに疲れてしまった。誰もが無口になっていた。汗だくになって崖を登りきった時、わたしの目に入ったのははるかに広がる険しい森だった。

 これは千年杉どころではない。はたしてラボが本当に近くだったのかもわからなくなった。しかも、まっすぐではなく、足のかけやすいところを登ってきたため、来た所がまたわからなくなってしまった。今までも「道なき道」を進んでいたような感じだったけど、いま完全に八方ふさがりになった。真剣に迷ってしまった。どうしよう。
「今までの方角的にはこっちだと思うんだけど…」エヴァンがあちこちを指さす。まったくあてにならない。ああ、こんなときヒデじいがいたなら。1日じゅう森ばかり歩いているヒデさんなら、多少木が倒れていたくらいで迷子になんかならなかったろうに。

「でも、島なんだからひとつの方向に向かって歩いていれば、海岸にたどり着くよ。そしたら海沿いに歩いて行って、ラボに戻ればいい」
 迷ってから1時間。わたしはふたりを心配させないようにすずしい顔をしていたけど、内心は「今日はここで野宿なんだろうか…」と思っていた。わたしたちには無線もコンパスも懐中電灯もない。もちろん食べ物もない。こんなことになるなんて思っていなかったから、お水もドンチョンベイでグビグビ飲んでしまって、ちょこっとしか残っていない。
 暗くなる前に大きな木を探して、ヤブ蚊と戦いながら3人でくっついて座っていれば、明日の朝までくらいは生きていられるだろう。明るくなったらまた励ましあいながら歩いて、海岸からどこかの釣り船に助けを求めるのかな。そんな悲惨なことを考えている時、実はあとのふたりも同じことを考えていたらしい。わたしたちは非常に弱っていた。タテ3キロ、ヨコ8キロの小さな島なのに、崖や薮を乗り越えているせいで、歩いている距離は半端なく長かった。2人がパニックを起こすような性格じゃなくて本当に良かったと思った。ちょっと視界のいい森に出た時、わたしの目に太陽の光が入った。

 まぶしい…。

「あ、」わたしは突然気づいた。
「太陽って、こっちに沈むんだよね」エヴァンに尋ねる。
「そう見えるけど」
「じゃあ、ラボはこっちじゃない?」
 ちょっとおバカなわたしたちは、太陽で方角がわかることに「ようやく」気づいた!!
 そうとわかれば、話しがはやい。めざす方角が見つかったので、わたしたちはすごいスピードで一生懸命に茂みの中を突っ切った。曲がったり、回り道したら台無しになるので、目の前が枝の細かい木とこんもり生い茂る草と折り重なる倒木とぺたぺた生えた苔の「壁」でも、容赦なしに体当たりしていった。頭頂部を前に向け、両手でガードしつつ、まるで強敵と戦うボクサーのように壁と戦いつつ走った。首やそでや長靴の中に、杉の葉っぱが大量に入ってちくちくするのがわかった。葉っぱはジーンズの中や下着の中にまで入ってきて、汗でぬれてとても気持ち悪かった。
 どれだけの壁をくぐり抜けただろうか。気がつくと目の前には薄い太陽の光に包まれた視界のいい森があった。わたしは耳を澄ませた。ボートノイズが聞こえる。

 エヴァンがサラウベリーをかきわけてくれたので、わたしとモモちゃんも茂みに飛び込んだ。海はすぐそこだ。風景を見ることができれば、自分の位置がわかるかもしれない。
「あっ、パーソンズライトだ!」モモちゃんの表情が一気にぱあっと明るくなる。ラボまではそう遠くないに違いない。でも気のせいだろうか、やけにパーソン島が近くに見えるような気がする。
「パーソン島、近すぎない?行き過ぎちゃったのかな」
「うん、そう見える」エヴァンが同意した。
「じゃあ左だね、海岸ぞいに左へ進もう。そうしたら帰れる」
左手は崖だった。でも、たとえ崖だろうが何だろうが、進まないと帰れない。わたしたちはいったん、海岸ぞいのサラウベリーの中から歩きやすい森へと戻り、助け合いながら崖を下り、登り、ロッククライミングをして、海を見失わないように気をつけながら、もくもくと森の中を進んだ。
 徐々に、木々の向こうに入り江が見えてきた。わたしは森からサラウベリーの中に飛び込み、風景を確認しようとした。えっ、こ、これはまさか…。
「ドンチョンベイ!?」
わたしたちはいっせいに石碑のように固まった。2時間迷って、死ぬほどつらい思いをして歩いて、たどり着いた場所は出発地点…。
「あのさ~、誰かさっきパーソン島が近すぎるとか何とか言ってなかったっけ…?」
「ごっ、ごめん~」
なんかさっきゲリオ(エヴァン)も同意してたような気がしたけど、なんにしても悪いのはわたしなので、素直にあやまる。ドンチョンベイから見える景色はブラックフィッシュ・サウンド。さっきの、ラボに近いと思われた景色とはまるで違う。ということは、海岸ぞいを逆に進んでしまったんだ…。これは完全にわたしのバカなミスだった。最悪だ。もう6時。ヘレナもさすがに心配し出しただろう。タウンラン組が先に帰ってきたらどうしよう。
「どうする?ドンチョンベイからもう1度、ちゃんとした道に戻って帰る?」
「いや、このまま海岸ぞいに右へ行こうよ。また同じ所で絶対迷うし…」
あんなに怖くて心細い思いは二度とごめんだった。それはあとのふたりにとっても同じだった。わたしたちはぜえぜえ言いながら、海岸ぞいを必死に戻った。30分も歩いたころだろうか、少し視界の良さそうな場所が見つかった。エヴァンが安全な道を探してくれたので、わたしとモモちゃんは後を追ってサラウの茂みの中に入った。そして根元をくぐるようにして、茂みをくぐり抜けた。目の前にハーブルダウン島が見えた。うん、ぜったいラボの近くまで来ているはず。と、突然、エヴァンが1本の木を指して叫んだ。
「あっ、あ、あれは何だ!?」
わたしはその指の先を目で追った。次の瞬間、3人全員が歓声を上げた。
「ローカルレフトの水中マイクだ!!」

 ラボのすぐ角を曲がったところに設置されているローカルレフトの水中マイク。そこから伸びたケーブルが、高い木の上に続いていた。その先には、夕方の太陽に悠然と、きらきらと照らし出された、ソーラーパネルがあった。
 完全に自分たちの居場所をつかんだわたしたちは、歓声を上げながら道を進んだ。
「あ、この木は…」モモちゃんが1本の木に駆け寄り、抱きつく。
「ああ、この木は、これだよ…」エヴァンも木に駆け寄り、モモちゃんごと抱きつく。
 ふたりが抱きついた木は、この間来たフランス人一家を、眺めのいいクリフに連れてきた時に紹介したCMT(Culturally Modified Tree…昔の人が木を大切に生かしたまま利用した跡が残る文化財)だった。ここからならもう、ばかでも帰れる。
 わたしたちはスピードをあげた。枝をかきわけ、坂をすべり、木の根っこを飛び越えて目の前に広がる「街」に歓声を上げた。
「キャンプキッチンだ!!」

 キャンプキッチンも、ジェネレーター小屋も、バスハウスも、当たり前だけど、わたしたちが出かけたときと何も変わらずに佇んでいた。出かける前に3人並んでランチを食べた岩が、満ち潮の透明な海水の底に沈んで揺れていた。オルカラボ一帯が、長時間森の中をさまよったわたしたちにとっては、大都会に思えた。なんて歩きやすい地面なんだろう?障害物が、何もない…。
 わたしたちは汗だくですっかりのどが乾いていたけど、水を飲む前にヘレナのもとへ走った。
「ごめんなさい!!」
「どうしたの?帰りが遅いなと思ってたんだけど…迷ったんじゃないでしょうね?」
わたしたちは口々に、経験したばかりの大冒険を話した。壁を突き破って進んだこと。太陽の方向で海岸を見つけたこと。気がついたらドンチョンベイまで戻ってしまっていたこと。あ、忘れかけていたけど、バンビにも会ったっけ。8年もここに通っているのに、よく知っているたった20分のドンチョンベイからの道で迷うなんて、叱られちゃう…。と思ったけど、ヘレナは笑いながら「なんにしても全員無事で良かったわ」と言った。

 汗をふいて服を着替え、キャンプキッチンに行くと、エヴァンとモモちゃんがお水を用意してくれていた。全身にしみわたる。
 こんなにすごい冒険をしたのは初めてだ。生きて帰れて良かった、そして留守の間にオルカが来ていなくてよかった…。ラボでぼうっとしていたら、ヘレナがコーヒーとチョコレートケーキをくれた。この世でいちばんおいしいチョコレートケーキに思えた。

 満潮になり、タウンラン組が帰ってきた。大工のカートちんがゲストハウスの修理をしているので、木材が大量に届いた。わたしたちは列を作って木材をボートから下ろし、自分たちの1週間分の食べ物と洗いあがった洗濯物を下ろし、へとへとになってごはんも食べずに寝袋にもぐりこんだ。
 オルカたちは、わたしたちの疲れを察してくれたのか、翌朝まで帰って来ることはなかった。
2006-07-21 : 未分類 : コメント : 5 :
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7月18日

 朝、9時過ぎにオルカの群れ(A12sと愉快な仲間たち)が、ボートベイ沖から西へ向かっているのが確認された。ヘレナが情報を持ってきてくれたので、コールが始まる前にわたしは録音を始めた。そして、しばらくしてコールが始まった時、わたしは久しぶりにいすから飛び上がった!!

「ヘレナ、ヘレナ!!」
「な、何?なんかあった?」
ちょうど起きてラボに入ってきたエヴァンが、いったい何事かとびびった様子で聞いてきた。
「いたよ!!これはA51とA61だよ!!やっぱりあの大きな群れの中にいたんだよ~!!早く、早くヘレナに知らせて」
エヴァンがドアを開けてメインハウスへ走ろうとしたとき、ドアの外から大きな歓声と足音が聞こえた。次の瞬間、ヘレナが満面の笑顔でラボに飛び込んできた。
「トモコ聞いた?」
「聞いた聞いた!!」
今年、待望の赤ちゃんを授かったばかりのA51と弟のA61。彼らが来る事をどんなに心待ちにしていたことか。確認できなかったなぞのA5ポッドの正体は、やはり彼らだったのだ。

 オルカたちはクレイクロフト島沿いに戻ってきたものの、方向を東へと変えて、いったん水中マイクのエリアから消えて行った。

きれいに晴れた
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 今朝、ゲストのフランス人一家が帰ってしまったので、ラボは再びポール、ヘレナとわたしたちアシスタントだけになった。本当に素敵な一家で、エヴァンが「…彼を抱きしめてもいいかな?」と言うほどお父さんは尊敬すべき人だっただけに、こんなに早く帰ってしまうのはとても残念だった。

 今日のオルカたちはラビングビーチ~CP間しか動かなかった。でも、とても忙しそうにそのエリアだけ行ったり来たりしていた。いったい何をしたいのかよく分からないけど、とりあえず楽しそうだ。仲間になって一緒にサーモン食べてみたい。
 オルカたちがエリア内から出ないので、コールはぽつぽつと続き、わたしたちは交代で録音しながら美しく晴れた午後を楽しんだ。お昼過ぎにはまたザトウクジラの親子がラボ前に現れ、呼吸の轟音にブラックニー・パスが揺れた。

 夕方、モモちゃんとエヴァンが、CPへの荷物運びの手伝いにちょっとだけ行く事になった。
「長いこと子ポールに会ってないから、みんなの写真を送ってあげようよ」
ヘレナのガーデンの横にダニエラ、ハナ、モモちゃん、わたしの4人が並んで座り、エヴァンがポラロイドのシャッターを押した。
「これすごくいい写真だよ」
「まじで?でもエヴァンが入っていないから、撮ってあげるよ」
「えっ、俺ひとりのを?」
「別にいいじゃん」
「俺がひとりで写ってる写真を子ポールにあげるの?そ、それって何か、ちょっと変な勘違いされないかな?俺、あと何日かでCPに行くのに…」
 嫌がるエヴァンを追いかけ、わたしは無理矢理、彼の写真を撮った。
「この写真、素晴らしい出来だと思うよ。サイドにひとことメッセージ書けるから『ポールへ エヴァンより』って書いてよ」
「やばいって、ぜったい気持ち悪がられるもん」
「じゃあ、A37(A36sの次男)へ、A46(A36sの三男)よりって書いてよ。ちなみにA32(長男)はリオだよ」
「あっそうか、リオも、おっさんだもんな」
 女の子全員で倒れそうになるくらいゲラゲラ、ヒーヒー笑いながら、エヴァンにメッセージを書かせた。今年は彼のおかげで、頬もお腹も筋肉痛になるくらい、みんな笑っている…。

 今日はメインハウスでのディナーはなし。みんな各自でキャンプキッチンで食べる。わたしはあまり食べ物がないので、ヘレナに昨日のサラダの残りをもらった。

 夜、東へ向かうご一行のコールを録音していると、ヘレナがラボに来た。
「今日、グラエムが全てのA5ポッドを確認してくれたそうよ」
「本当!?A43s(もうひとつのA5ポッド)も?」
「そう。でもね、彼はA59を見つけることができなかったんですって。そして、彼女の子供のA82は、見つけたって言うの。A82は痩せて、とてもじゃないけど、いい状態とは言えなかったんですって」
「えっ…」

 A59は、A4ポッドA35sのオルカで、A82という2歳の子供がいる。
 2002年にスプリンガーがアメリカからカナダに帰って来たときも、人や船がいっぱいいるドンチョンベイまで、勇気を出して入ってきてくれたA59。
 2003年にCPの海岸で、岸の岩に身体が当たったまま長時間にわたりサーモンを追いかけるという、目を疑うような素敵な姿を見せてくれたA59。
 彼女は傷のないきれいな背びれを持っているから、今回みたいにたくさんのオルカが来ているときに、見つけ出すのはすごく難しい。いないことを確認するのはさらに難しい。でも、ビジュアル識別の神であるグラエム・エリスがそう言うのなら、きっと間違いないんだろう。
 そして赤ちゃんは痩せているといっても、その状態で今まで生きていて、さらに家族であるA35sと共にいるのだから、きっと誰かが食べ物をわけたり、世話をしていてくれるのだろう。きっと…。

 A59はわたしが大好きなオルカの中の1頭だった。

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2006-07-19 : 未分類 : コメント : 1 :
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7月17日

 4時半ころ、A36sの3兄弟がすてきな声で起こしてくれた。おはよう。
 急いで1階に下り、いつものように録音開始。最近こんなのばっかりだなぁ。昨夜、オルカたちがいったいどこへ行ったのかはよくわからなかったが、よく聞いてみるとみんな東へ行っていたらしかった。「A12sと仲間たち」ご一行のほかに、突然消えたDsのコールまで聞こえてきた。彼らは西へと進み、CP対岸までやってきた。

 ダニエラとエヴァンが起きてきたので、録音をエヴァンに任せてダニエラと喋っていると、ポールがコーヒーを持ってきてくれた。「CPのレポートによると、オルカたちがブラックニー・パスに向かってるみたいなんだ。スコープをデッキに出して用意してくれないか」

 Dsの確認ができるかもしれない。
わたしたちはうきうきしながらスコープを用意し、ジョンストン海峡からやって来るオルカたちを待った。ちょうど明るくなってきたころで、背びれの形もはっきりわかるとわたしたちは思った。しかし…。

 識別は予想以上に難しかった。ジョンストン海峡であんなにはっきりと聞こえていたDsのコールは、今は全く聞こえなくなっていた。どこへ行ったんだろう。もしこの中にDsがいたら、背びれに大きなキズを持ったD9というオルカがいるから、いくら見にくくてもすぐにわかるはずだ。

2004年のD9さん
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 わたしたちはとても苦労して、ばらばら散らばる背びれの中からA36s、A12s、A11s、A35s、A24s、A8sを見つけたが、それは明らかに今までと変わらない、ただの「A12sと仲間たち」ご一行だった。
「でも、少し多くない?」
「多いよね」
わたしとヘレナは最後の群れに注目した。ボロボロ背びれのA13、ぴょこんと飛び上がるスプリンガー、すなわちA11sに混じって、少なくてもプラス3頭以上のメスの背びれがぞろっと混じっていたからだ。

 北へ消え行くオルカたちの目視を新人アシスタントたちに任せ、わたしとヘレナはラボの中に舞い戻った。ふたつのヘッドフォンで、息を飲みつつ、何ひとつ逃すまいと聞き耳を立てる。でも、期待しているBサブクラン(Dsの属する群れ)のコールは聞こえてこなかった。録音始めたときは確かにいたんだよ…。いったい、どういう事だろう。

 最初のグループはA36s。
 次はA4ポッドのA24s、A12sの娘家族であるA34s、そしてA5ポッドのA8s。
 その次にハッスルばあちゃんA12と息子A33プラスA4ポッドのA35s。
 そしてA4ポッドのA11sとスプリンガー。プラス、謎の何頭か。

 オルカたちが順番をゆずりあわなければ、先ほど確認した通り、この順番にコールが聞こえて来るはずだった。そして、だいたいその通りに聞こえていた。コールの主がA11sとスプリンガーにさしかかった時、わたしとヘレナは顔を見合わせた。一緒に聞こえてきたのはA5ポッドのコール…???

 識別のできなかった群れは、A5ポッドの誰かである可能性が高まったが、群れを断定できるようなはっきりしたコールは出してくれなかった。オルカたちはそのまま遠い北へ向かった。Dsは、わたしをおちょくっているのだろうか、実はウェイントン・パスを通って北へ向かったらしかった。

 午後、ラボでモモちゃんと喋っていると、2階から「ウオォウゥ!!」という悲鳴が聞こえてきた。なんだなんだ?
「どうしたの?大丈夫?」2階に向かって、声の主、エヴァンに尋ねる。
「ザトウクジラがブリーチしたんだ!!」
今日もラボ前にはザトウクジラの親子が来ていた。外は冷えるので、2階の窓からその様子を見ていたエヴァンの双眼鏡に、とつぜん宙に舞うザトウクジラの全身が映ったのだ。
「わっほーい!!まただ、おい、まただよ!!」
2階のひとり歓声が止まらないので、わたしとモモちゃんは外に出てスコープを手に取ろうとした。その瞬間、再び宙に舞った子供ザトウの姿が肉眼で見えた。
 美しい…。

「モモちゃん、目で見た方がいいよ、もったいない」
わたしとモモちゃんはカメラを持って来るのも忘れて、その後しばらく、大きなクジラの親子の姿に見入っていた。

しっぽでごめんなさい
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ディナータイム。
朝、北へ抜けたオルカたちはポートハーディ沖まで進んでいたらしかった。すっかり油断して美味しいスープをもりもり食べていると、ホエールウォッチングボートのルークワから無線連絡が入った。
<オルカたちはもうマルコム島のドネガルヘッド沖まで戻ってきているよ>
わたしは録音を開始してそのままラボにいようとしたが、ポールは「メインハウスにいなさい、コールが聞こえたら行けばいいから」とわたしを連れ戻した。代わりにヘレナが「あなたがラボにいなさい」とエヴァンをラボに追いやり、アシスタントは女の子だけでコーヒータイムを楽しんだ。

メインハウスで使用されている今岡タオル。ヘレナのお気に入り
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 A4sを筆頭にコールが聞こえてきた。やがて彼らはラボの前に現れたが、全員すごいスピードで多方向に散らばり、頻繁に方向を変えながら魚をとっていたため、識別は朝よりもはるかに困難で、A12sとA11sくらいしか、まともにわからなかった。しかし、そのコールはいつものご一行、A12s、A4s、A5sだけのものだった。
 A36sの3兄弟は、どうやらDsを北に送りに行ったようで、その場にはいなかった。ご一行はジョンストン海峡に入ると東へと進み、夜中はずっと静かだった。
2006-07-18 : 未分類 : コメント : 0 :
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7月16日

田中君、松ぼっくりはおいしい?
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 朝7時前にコールを聞いて起きた。コールの主はもちろん「A12sと仲間たち」ご一行だ。東から戻ってきた彼らは、クレイクロフト島沿いに西へと進んできた。そしてCPの前を通り過ぎたあたりで方向を変え、ロブソンバイトへと向かった。

 ゲストのフランス人一家が「散歩に連れて行ってほしい」というので、モモちゃん、エヴァンと一緒に、彼らを千年杉とクリフに連れて行く事にした。
 7歳と9歳の小さい女の子に、こんな険しい道は歩けるだろうかとちょっと心配していたのに、その心配は無用だった。わたしたちよりも明らかに足が速い!!
「この子たちは山が好きで、いつも5時間くらいは平気で歩くんだよ」
お父さんのブルーノが教えてくれた。しかも、先頭を歩いていたエヴァンが道を間違い、後続のわたしたちもキョロキョロしている時にも、「こっちじゃないの」と道を教えられる始末。わたしたちはここに住んでるのに。恥ずかしい…。

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 女の子たちは険しい森をどれだけ進んでも、文句ひとつ言わず、両親と話しながら倒木を乗り越え、水たまりをまたぎ、登れそうにない急な斜面はお父さんに抱え上げられて、楽しそうに歩いていた。ふつうの都会に住む日本の子供は、こういう所をどれだけ歩けるかな。というかそれ以前に、そういう機会に恵まれるだろうか…。

 千年杉の奥をぐるりと回り、ちょっと道に迷って小さなアドベンチャーを体験した後、わたしの知ってる道に出てみんな笑いながら戻り、そのままクリフへ。眺めのいい場所でひと休みし、ラボに戻ってきた。ラボの中でオルカのコールを聞いているのもいいけど、こうしたお散歩もやっぱり楽しい。

 ラボに帰ると、CRPTの水中マイクからコールが聞こえていた。ロブソンバイトで遊んだ後、ちょっと東に行っていたご一行が帰ってきたらしい。もうお昼。
 オルカたちがロブソンバイト~カイカシュ川沖で遊んでいる間に、ラボの前にはすてきなお客様が現れた。ザトウクジラだ。
 親子のザトウクジラは6隻のボートに負われながら、ラボ前を行ったり来たりしていた。ボートには腹が立ったけど、彼らの姿は美しかった。ずっと「ザトウクジラを見たい」と願っていたハナは大喜び!

ザトウクジラは仕事じゃないからリラックスして見られるよね。
(ラボの窓に映ってるわたしのかげ)
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 アシスタントも、ゲストもデッキに集まってみんなで笑っていると、ヘレナが新しい情報を持ってきた。北から、Bサブクランの群れがこちらに向かっているという。

 嬉しいニュースに、ザトウのことをさっさと忘れてわたしは録音に戻る。5時半をまわったころ、とうとう彼らのコールがCRPTの水中マイクから聞こえてきた。ウェイントン・パスを通過してジョンストン海峡に入ってきたらしい。彼らを迎えにきたご一行のコールも大きくなった。彼らは興奮してCP前までやってきた。

 ところが。

 Bサブクランのコールは、それが(Cs、Dsの)誰かはっきりする前に突然消えてしまった。ご一行のコールも突然小さくなり、CRPTに入ったA36sのコールを最後に消えてしまった。

 お客さんが来ているからか、それとも今日ここにはいない博士夫妻の娘、アナの誕生日だからか。テーブルはごちそうでいっぱいだった。わたしたちはすごい勢いでごちそうを食べ、ヘレナが焼いてくれたチョコレートケーキを食べて、コールのない静かな夜を送った。
2006-07-17 : 未分類 : コメント : 0 :
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7月15日

 5時半に目が覚めた。昨日の夜、ジェネレーターが止まっていたことを思い出し、念のためにラボの電力の残量チェックをする。少ないまま放っておくと停電になってしまうが、昨日の夜ずっと録音していなかったから大丈夫そうだ。

背伸び!!
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 ところで、この海域でよく確認されるオルカは、3種類にわけられる。
●レジデント…この海域に「住んでる」と言ってもいいオルカたち。トランジェントに比べると行動範囲は狭く,好きなエリアからあまり遠くまで行かない。おもに鮭などの魚を食べる。とってもおしゃべりでコールを頻繁に出し、仲間を見つけては騒いだり遊んだりして、すごく社交的。ただしトランジェントやオフショアとの交流はない。
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●トランジェント…広い海域を自由に泳ぎ回る、もの静かなオルカたち。おもにほ乳類を食べる。自分より大きいクジラも余裕で襲ってしまう。オルカの怖いイメージは彼らのせいかな?レジデントと関わることはないが、出会うと道をゆずることが多い。背びれがまっすぐでとがっているので、慣れると見た目でもレジデントとは違うのがわかる。
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●オフショア…レジデントとトランジェントの存在が明らかになってしばらくしてから、突如見つかった第3の群れ。生態はほとんど明らかになっていないが、イカなどを食べているらしい。40頭ほどの大きな群れで行動し、よくコールを出す。オスの背びれはあまり大きくならない。
(画像ないの。ごめんなさい)

 昨日確認されたトランジェントと思われる2頭のオスは、トランジェントのIDブック(おもな個体の背びれの写真と個体番号が載っている、識別に必須の本)には載っていないことが判明した。彼らはこの海域では3回しか確認されておらず、成熟したオスだと思われるのに、オフショアのように小さい背びれを持っている。1頭は背びれ上部が曲がり、もう1頭は背びれの後ろがうねっている。
 彼らは2頭だけでコールも出さず、ザトウクジラの親子の匂いを追っていることから、トランジェントであると考えられている。が、目撃されている回数が非常に少ないこともあり、詳しいことは何もわかっていない。

 一方、東に行っていたA12sのご一行(A12s、A36s、A4s、A8s)は西へと進み、ケルシー・ベイ沖まで戻ってきていた。まだまだ水中マイクのエリアに戻って来るまでは時間がかかるけど、きっと今日のうちにコールを聞かせてくれるだろう。
 しかしひとつ、心配なニュースが入っていた。ボートのプロペラがオルカに当たったらしい。誰かが大きなケガをしていなければいいけど…。

 午後になって、ヘレナが急いでラボにやってきた。
「T14がクレイクロフト島沿いに西へと進んできてるわ」
「ええっ」
 思いもよらないすてきなニュースにみんな舞い上がった!!
 すぐにスコープを外に運び出し、待機。いくばくも待たないうちにT14はラボの前に現れた。

 背びれ前部に、過去に取りつけられた無線機によるふたつのキズがあり、識別しやすい
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 T14は、ひとりきりで泳いでいるオスのトランジェントオルカだ。ふつうレジデントのオスはマザコンで、お母さんが死んでしまうと、男の兄弟がいない限り、自分も気落ちして死んでしまうのだが、トランジェントは精神的にも強いのだろうか。ずっとお母さんとふたりで泳いでいたT14は、お母さんを亡くしてからは、ずっとひとりで泳いでいる。
 大きく強く、寡黙で、ちょっと影を背負った…そんな彼に心ひかれる人続出。

 夕方、モモちゃんとヘレナと3人でゲストハウスの掃除とベッドメイキングをしていると、突然スピーカーからコールが聞こえてきた。ヘレナが「行ってらっしゃい!!」と言うのでわたしはラボに飛び戻り、録音スタート。A4sのコールがCRPTの水中マイクから聞こえていた。どうも、A12sのご一行全員が、東から戻ってきたようだった。

 掃除とベッドメイキングが終了し、ゲストハウスの暖炉に火がともり、ようやく準備が整ったころ、タウンランに出かけていたポールがプライベートゲストを伴って帰ってきた。一家揃ってのここでの滞在、楽しんでもらえるといいけど。

 ジョンストン海峡では別のトランジェントの群れが出現し、A12sのご一行は接触を避けて東へ戻った。トランジェント情報の多い日だったが、結局なぞのオス2頭がなんなのかはわからなかった。タウンランに出かけたアシスタントはへとへとで、ラボにかんづめのわたしの代わりに、数々の外仕事をこなしたハナとモモちゃんも疲れきっていた。わたしは1時過ぎまで録音し、再び東へと消え行くコールを見送った。

2006-07-16 : 未分類 : コメント : 2 :
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7月14日

 6時半に目が覚めた。ヒーターをつけ、窓の外ざあざあ降る雨を見ながらしばらくぼーっと過ごす。

なかなかやまないな~。
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 夜の間じゅう、コールは聞こえなかった。昨夜のコールの消え方からすると、たぶんオルカたちは東へ向かったと思う。みんなを寝かせてくれてありがたかった。
 今日は、CPスタッフ交代の日。子ポールをサポートする新人アシスタントは1週間ごとに交代する。ダニエラがCPから帰ってきて、ラボからエリッサが派遣される。CPに行くのをとっても楽しみにしていたエリッサは、まるで遠足へ向かう子供のようにウキウキしつつ、朝8時には荷物をまとめて、準備万端でラボに待機。

 10時前に、みんなで朝ご飯を食べていたら、キャンプキッチンに取りつけられているスピーカーから、ヘレナのボイスノート(録音を始める際にテープに吹き込む情報)が聞こえてきた。慌ててラボに戻り、状況を聞くと、マルコム島のドネガルヘッド沖で2頭のオルカが目撃されたという。録音を交代してそのまま1時間半ほど聞いていたが、結局コールはなかった。どうもトランジェントだったらしい。

 東に消えたオルカたちの情報も、なかなか入ってこなかった。ログブックをスキャンする仕事はエリッサがやっているし、雨が落ち着くまで外仕事もできないので「なんだか手持ちぶさただなぁ」と思ってパソコンをいじっていたら、いいタイミングでCPにいる子ポールとチャットがつながった。本当は「いつまでも時間を使ってしまうし、仕事に集中できなくなるから」とラボでは禁止されてるチャットだけど、今ちょっとヒマだし、何やってんだろう?と面白くなって、こっそり返信。
「何してるの?」エヴァンも2階に上がってきた。男どうしで話したいことも募るでしょ、と、エヴァンにパソコンを渡す。わたしとエヴァンのキャーキャーはしゃぐ声を聞きつけて、ハナとモモちゃんも2階に上がってきた。この一週間の間に起こったことをお互いに報告しつつ、CPにいる子ポールとダニエラ、こっちのエヴァンとハナとモモちゃんとわたしで、全員お腹がひきつるくらいにゲラゲラ笑いながら夢中でメッセージを交わした。
 ダニエラは今日ラボに帰って来る。わたしたちが到着してすぐ、彼女はCPに派遣されてしまったから、あまりよく知らないけど、他のアシスタントが言うには「彼女は最高!!」らしいので、すごく楽しみ。

 午後になり、CPへ行くエリッサと、ラビングビーチの修理の手伝いに行くハナは、ジューン・コーブに乗せられてジョンストン海峡へと向かって行った。わたしたちはボートを見送ると、大きく背伸びをした。いつのまにか雨があがっている。

 モモちゃんを連れて海岸へ行き、お風呂をたく用と、ゲストハウスのストーブ用の流木の集め方を教える。満ち潮だったので、手頃なサイズの流木がたくさん流れてきていた。潮に流されない所まで流木を上げ、バスハウス(お風呂)用と、ゲストハウス用にわける。流木の下に潜むハチに刺されないように気をつけながら。

 ラボに戻って書類の整理をしていると、ジューン・コーブがCPからダニエラを連れて戻ってきた。みんなで彼女を出迎え、荷物をボートからおろして、ついでに明日のタウンラン(買い出しと洗濯)に持って行く洗濯物をボートに乗せた。

 カートちんが釣りに出てくれたおかげで、今日のディナーはタラのソテー。これが、めちゃくちゃ美味しい!!カートのひみつソースおかげだろうか。

 ディナーの後、わたしたちは全員で1997年に和歌山の太地で行われたオルカの生け捕り作業のビデオを見た。泣き叫ぶ子供オルカと、もう自由の身なのに、彼らの間を阻む網から離れようとしない家族たち。笑う漁師たち。なんだか吐き気がして最後まで見られなかった。10頭の群れから若い5頭が選ばれ、水族館に売られた。現在まで生き残っているのは2頭、名古屋港水族館のクーと、伊豆三津のアスカだ。オルカが人間に与えてくれるものは計り知れないけれど、人間はオルカにいったい何をしているのだろうと正直思った。

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  結局、今日はコールは聞こえなかった。
 明日はオルカ戻ってくるといいな。
2006-07-15 : 未分類 : コメント : 0 : トラックバック : 0
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7月13日

 午前3時にエヴァンに起こされて目が覚めた。CRPTからコールが聞こえてきたらしい。ずっと録音していたのかと思ってログブックを見ると、エリッサがエンドボイスノートを入れないままテープを止めていた。わたしの脳はテープを止めたことを知らなかったのだ。録音していないことを知っている状態、すなわちコールが聞こえてきたらすぐに起きなければいけない状態でないと、脳みそはコールに反応してくれないらしい。エヴァンが起きてくれるまでどれくらいミスったのだろう。もう最悪。

「はいっ、やりますやります、僕がやります」と、夜型少年エヴァンがはりきっているので、コールの主がA12sのご一行であることだけ確認し、そこはゲリオン(命名・モモちゃん)に任せていったん寝に戻る。が、コールの頻度が変わる度に何度か下に降りて「いま鳴いてるのはA36s」とか、いちいち伝えにいかなければならなかった。誰がそこにいたか、がはっきりしていないと、朝起きてから夜の何時間分ものテープを聞き直すはめになるからだ。

夜間、朝方はかなり冷え込むので、ラボにはヒーターが登場した
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 ようやくちょっとは落ち着いたかな、と思った5時半過ぎ、再びエヴァンが起こしにきた。コールがCPから聞こえてきたという。オルカたちは東のどこかで方向を変え、クレイクロフト島沿いに西へと戻ってきていたらしい。

「CPにこれだけ近いコールとなると、すぐにラボの前に来ると思う!!PIの水中マイクの音量を上げて、ちょっとスタンバイしてて」
わたしはポールとヘレナの寝床に走り、いま聞こえているコールがCPの水中マイクからであることを伝え、ラボに戻って2階に上がり、寝ていたモモちゃんを叩き起こしてデッキに出てもらい、1階に戻ってコールがPIの水中マイクに移っていることを確認し、もう一度ヘレナのところにバタバタ走ってドアを開けると、何も言わないうちに上の寝室から
「コールはPIね、オルカたちが来るのね?」
とあからさまに「わかってるわよ☆」的な声が返ってきた(笑)。

 全員が起こされ、デッキに集合した。A36sの3兄弟、全てのA4s、A8sがラボ前に現れた。明け方で完全に明るくないとはいえ、水路中央を通った彼らの姿は比較的確認しやすかったので、その中にハッスルばあちゃんの一家A12sの姿がないことは一目瞭然だった。そういえば、夜中に東に向かっていたときは確実に彼らのコールが聞こえていたのに、西に向かってきてからは聞こえていない。A12sだけ方向を変えずにそのまま東へと進んで行ったのだろうか。
 A12sの行方を謎としたまま、オルカたちは北へと進んで行った。

データ管理の仕事。昔のログブックをスキャンするエヴァンと、今聞こえているコールの録音をしつつログブックに情報を書き込むモモちゃん。
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 わたしはあまり寝ていなかったので、お昼ころに昼寝しようと寝袋をかぶった。1時間もウトウトしたころだろうか、エリッサが2階に来て「オルカ来るよ」と起こしにきてくれた。北で方向を変えたオルカたちが、レスティングライン(横一列に並んで浮いて、休みながらゆっくり移動すること)を組んでハンソン島沿いにラボに近づいているというウォッチング船からの情報が入ったからだ。

 そのころ、ジョンストン海峡の東では、2頭のオスを含む8頭前後の群れが、西へ向かっているのが目撃されていた。行方不明になっていたA12sだ。

 オルカたちはラボ前にさしかかると共に目覚め、泳ぎ出した。スプリンガーを含む、全てのA4ポッドとA8sが一緒に、少し沖をA36sが泳いでいた。

今日のスプリンガー。もう6歳だけど、背びれは他のオルカより小さいかも。
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 オルカたちがジョンストン海峡に入り、東へと進んで静かになると、CRPTの水中マイクからはA12sのコールも聞こえ出した。ようやく、水中マイクのエリアまで戻ってきてくれたらしい。
 彼らは再び「ご一行」として合流しいったん西へと向かったが、やはりロブソンバイトに行きたいとまた方向を変えて東へと進んできた。
 興奮した彼らのコールはなかなかやまず、またロブソンバイトからも動かなかった。
 11時過ぎてみんなの瞼が重くなるまで、オルカたちは何時間も美しいコールを出し続けた。そして日付が変わる前に、水中マイクのエリアから出て行ったようだった。
2006-07-14 : 未分類 : コメント : 0 :
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7月12日

今日も雨
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 5時半にひとつのバーク(「わふっ」と吠える感じのAポッドのコール)で目ざめた。すぐに下に飛び降りて、録音開始。ハッスルばあちゃんのA12sと、すべてのA4s(sをつけて複数形にしましたが、すなわちA4ポッド)、A5ポッドのA8sが、東から水中マイクのエリアまで戻ってきたらしい。
 オルカたちは1時間後にCPの前を通過すると、ウェイントン・パスを通過して、北へと向かって行った。

 ところで、最近ラボとメインハウス周辺には、頻繁にシカが出没する。
 シカの被害に悩まされるようになったのは、以前の愛犬、フレディが亡くなってからだ。フレディの後を継いだ現在の愛犬、リオは、シカに対して全く興味を持っていない、愛すべき気まぐれわんこちゃんなのだ。
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 海岸で海藻を食べるシカ
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 シカは夜中にヘレナの大切にしているガーデンに侵入し、二度と忘れられないような柔らかくておいしい花や葉っぱを食べ、ボロボロにして帰って行く。ポールが夜中に起きた時、侵入していたシカが走り去り、楽しみにしていたバラの花の頭が全て食いちぎられているのを見たときは、そりゃもう大変なショックだったらしい。
 現在はシカがガーデンに入らないよう、寝る時にはフェンスを下ろしてから寝る。

 日中は通路の網を巻きあげ、夜は下ろす
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 しばらく雨が続いたので、貴重な水を得ることができた。今季初、サウナに火が入る。サウナの中にはパイプが通っていて、水を温めることができる。シャワーの日だ。
 わたしはかゆくなるのが嫌なので、海岸に行き、手をつけるだけでも冷たい海でそのまま髪をざばざば洗っていたのだけど、それを恐れる他のみんなにとっては初のシャワー。みんなが平等にきれいになった。

 オルカたち(A12s、A4s、A8s、そして、北で合流したA36sの3兄弟)は、夕方になって、ウェイントン・パスを通過してジョンストン海峡に戻ってきた。CPの前を通過した後、突然コールは小さくなって消えた。クレイクロフト島沿いに東へと向かったらしい。

 食事が終わったころ、再びオルカたちのコールが聞こえてきた。東で方向を変え、水中マイクのエリアまで戻ってきたくれたらしい。彼らはCPの前を通過すると、そのままブラックニー・パスへ入ってきた。雨で霧がかっていたせいか、ボートひとつない静かなブラックニー・パスには、神秘的な響きのブローがいくつも、あちこちで弾けるように聞こえていた。

 デッキでみんなと一緒に、現実とは思えない響きのブローを聞いていると、突然ヘレナに中に呼び戻された。
ヘレナ「A51と61のコールを聞いたような気がするの」
 その言葉にちょっとびっくり。A5ポッドのA51とA61は、お母さんを亡くしてから姉弟だけでがんばって生きてきたたった2頭の群れだった。2000年にスプリンガーがアメリカから帰ってきた時、まるで自分の子供のように大切に預かってくれたのもA51だった。彼女は今年望みの子供を授かり、3頭の群れとして広い海を泳いでいる。
 しかし、今回ハッスルばあちゃん率いるご一行「A12sと仲間たち」に参加しているA5ポッドは、A8sだけだと思ったが…?
 もしいるのだとしたら、いったいどこで合流したのだろう。
 かんじんのA5sはなかなかコールを出さなかった。12時を回ったころ、FIの水中マイクからコールは聞こえなくなり、オルカたちは北の海に進んで行った。
2006-07-13 : 未分類 : コメント : 2 :
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7月11日

 海の日。
 昨夜12時くらいにコールはなくなった。ハッスルばあちゃん率いるA12s、全てのA4s、A5s(おそらくA8s)は、水中マイクのエリアから出て、東へと向かったらしい。

 今日は、朝からしとしと降り続く雨。枯れた小川も、へたりきったガーデンも、少しはうるおっただろう。
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 お昼過ぎにヘレナが情報を持ってきた。北のリザード・ポイント沖と、西のコーモラント島沖で、オルカの群れが確認されたらしい。

ヘレナ「ところで昨日、わたしたちはA36sのコールを聞いていないわよね?」
わたし「うん。一昨日の夜北から来て、ラボの前を通過して、ジョンストン海峡に入ったところまではコールが聞こえてたんだけど、その後、消えた」
ヘレナ「わかったわ。彼らはきっと、その後コールも出さずに北に戻ってたんでしょう。A12sの群れと一緒にいないことは確かだと思うわ。北で目撃されたのも彼らかもね」

 わたしはふと、あれ?と思った。仮に、リザード・ポイントで目撃されたのが彼らだとしても、コーモラント沖にもなぞの群れがいるということになる。
 そしてジョンストン海峡に入りかけては北に戻って行くA36sの3兄弟は、いったい誰を待っているのだろう?

 A36s
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 雨がやまなくて寒いので外仕事も満足にできず、アシスタントたちはラボに集まって、今年の仕事のメインでもある、過去のデータ管理の仕事をしながら、お互いの好みのタイプについて語ったり、写真を見せあったりしてゲラゲラ笑って午後を過ごした。

 夕飯の時、ヘレナが七夕の時に書いたたんざくを渡してくれた。ちょっと遅くなったけど、ハンソン島スタイルの七夕だから今からでも大丈夫。

 ラボに戻ったわたしは、2人の願いが「地球の健康」と「地球の平和」だったことに驚き、同時に自分が「ヘレナのブルーベリーマフィンが食べたい」だとか、「好きな芸能人に会いたい」とか、とってもちっぽけでセルフィッシュな願いを書いてしまったことに、とても恥ずかしくなった…。

 天候の変化からか、誰もが疲れていた。ハナとエリッサは10時には床につき、エヴァンは「今日はしっかり寝たいから」と言って、テントで寝た。わたしとモモちゃんはラボに残って日本近海のオルカについて話し、日付がかわったころようやく寝袋に潜り込んだ。
2006-07-12 : 未分類 : コメント : 0 :
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7月10日

 停電で音がなくなって目が覚めた。
 寝床からはい出して、1階に下り、目をこすりつつ発電機小屋に向かい、ジェネレーターのガソリンが満タンなのを確認して、エンジンをかける。

発電機小屋
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ジェネレータ(発電機)
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ラボに戻る頃には音も戻っていた。ここのところよく朝方に音が落ちる。夜中まで録音しているから電力が足りないのだろう。

 まだ誰も起きてこないので、ラボでぼーっとしていたら、ポールがラボにやってきた。
「おはようトモコ。CPから電話があって、オルカの群れが東からクレイクロフト島沿いにCPの方へ向かってるというんだ。コールはないけど、録音だけ始めてくれないか」
「わかった」
「コーヒーを持ってくるよ」
 録音をはじめてすぐに、エコロケーションが聞こえてきた。本当に近くまで来ていたらしい。A11sとA24sのふたつのA4ポッドが、CPの目の前、豊かな海藻の森の中に現れた。スプリンガーもその中にいた。もちろんA11sと一緒だったけど、長い間一緒に泳げなかった実の家族とも共に、彼女はケルプの森で遊んだ。そしてハンソン島寄りにブラックニー・パスの入り口も通り過ぎて、そのまま西へと向かって行った。

 子ポールが今朝撮ってくれた写真。手前がスプリンガー。大きくなった!
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 お昼ころまで録音し、ももちゃんに代わってもらって彼女の録音の様子をチェックしつつ、エバンも含めた3人でラボでしゃべっていると、ラボの扉が開いて、入ってきた人が「トモコ!!」と言った。
「えっ!?」
「久しぶりだね、僕だよ~」
「にっ、ニコ!?」

 突如現れたのは、2000年と2001年のアシスタントだったニコちゃんだった!!
 2000年、彼はテレグラフコーブでポールに会い「僕の名前はニコラです。オルカラボに行ってもいいですか?」と声をかけた。その頃にはアシスタント選びには慎重になっていたポールだけど、初めて自分が名前を付けたオルカ「ニコラ」と同じ名前の人に、オルカラボに来たいと言われて、断ることはできなかった。そんなわけでニコちゃんはその日のうちにラボにやってきた。
 ヘッドフォンの音が右か左かわからなかったり、ちょっと、足がくさかったりもしたけど(笑)彼は、手伝いでラビングビーチに行っても「オルカたちのために残しておかなければ」と、記念の石ころひとつ持って帰って来ることができないほど、心の優しい人だった。

「お母さんを連れてきたんだ」
ニコちゃんは、自分の大好きだった場所に、お母さんを連れてきてあげたらしい。フランス語しかしゃべれないお母さんは、ニコちゃんに通訳してもらいながら、ラボの中をとても嬉しそうに見て回っていた。聞けば、ふたりは仲良くなった漁師にここまで乗せてきてもらい、6時にその漁師さんが迎えに来るまで、ハンソン島にいられるのだという。勉強なんかできなくても、こんな優しい孝行息子を持ったら幸せだよなあ。わたしは近頃の日本の悲惨なニュースを思った。

 ジョンストン海峡ではA11sとA24sが引き続き一緒に泳いでいた。彼らは西で方向を変えると、ぽつりぽつりとコールを出しながら東へと進んできた。

「でね、スプリンガーがカナダに帰ってきたとき、ドンチョンベイまで迎えにきたのが、A35sとA12sだったんだよ。A35sはほら、スプリンガーの親戚。ドンチョンは、そこの角まがったすぐね」
 わたしはラボの窓から見える島の角を指した。
「まじで!?でも、スプリンガーは今A11sと一緒に行動してるでしょ?」
エヴァンが驚いた声で聞き返してくる。ももちゃんはいつものようにぼけーっとしてその様子を見守っている。

 A11sとスプリンガー
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「うん、最初はA12sとA35sに混じって泳いだんだけど、しばらくしたらスーパーポッドが起こってたくさんのオルカが来て怖かったのか、またひとりになったの。そしたらA36sの3兄弟がひとりぼっちで浮いてたスプリンガーを迎えに行って、3頭の間に大事そうに囲ったままA51のもとへ連れて行って、そのときA51は赤ちゃんを亡くして気落ちしてたから、子供が来たのが嬉しくって、そのまま何日か本当の母親みたいに一生懸命、面倒見てくれたんだよね。で、最終的には親戚のA11sに落ち着いた。A11sに入ってもう4年になるのかな」
「まーじで!?」
新人アシスタントのエヴァンは、何故みんなが、スプリンガーの動きに注目し、まるでプリンセスであるかのように話し、見るたびに喜んでいるのかがわからなかったらしい。
「わかったよ、何故みんながスプリンガーのことが好きなのか。人間だけじゃなく、オルカたち全員、スプリンガーのこと好きなんじゃないか。みんなが心惹かれるのも当然だね」

 ディナーはタコスとコーンブレッドという簡単なものだった。が、いつものように味は国宝級だった。わたしはお腹が痛いのに2回もおかわりし、太るのを心配していたももちゃんは、お腹がぱんぱんになるまでおかわりし続けた。

 オルカたちは西でいったんコールをやめ、北に抜けるのかと見せかけたが、時間をかけてゆっくりと東に戻ってきた。
 スプリンガーを含むたくさんのA4sの透き通ったコールが、夜の海に響いていた。
2006-07-12 : 未分類 :
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7月9日 ワールドカップ・ファイナル

 朝7時に、空耳が聞こえたような気がして目が覚めた。ラボにしばらく座っていたら、30分後、本当にコールが聞こえてきた。空耳だと思ったのも、コールだったのかもしれない。A4sが東から戻ってきたらしい。

 何だか遠いし、覇気のないA4コールだなぁ、A24sでもないのにと、自分も覇気のないあくびをしていたら、窓の外の岩の上に人影が見えた。
 え?まだ誰も起きてきてないよね?

 急いでヘッドフォンを起き、スコープをデッキに出す。メインコーブを挟んで向かい側、ラボの大工さんのカートの家の横の岩の上に、3人遊んでいるのが見える。女の人が座っていて、男2人が遊んでいる。わたしたち以外にこの島にいる女の人は間違いない、島の中央に住む仙人、ウォーラスの娘のマナちゃんだ。あとふたりが息子のアキとユキ兄弟であってほしかったが、残念ながらわたしのよく知っているふたりには見えなかった。

 ラボに戻って録音を続けていると、ポールがコーヒーを持ってきた。
「トモコ見なさい。引き潮だから、マナとその友達が、朝ご飯にウニをとって食べてるんだよ!!」
 ポールはアーッハッハッと笑いながらラボから去って行った。友達…やっぱりそうか…。今年の夏来るっていう噂をちらっと聞いたから、アキとユキに会うの、楽しみにしてたのにな。
 次にこの島で会えるのは何年後かわからないから、わたしはちょっとため息をついた。

 9時半になったころ、突然エコロケーションがPIの水中マイクから聞こえてきた。ジョンストン海峡を西へと進んでいたオルカたちは、ラボの前…ブラックニー・パスを通って北に向かうことに決めたらしい。
 急いで、ラボの2階で幸せそうにすやすや寝ていたエヴァンとエリッサを叩き起こし「オルカ来るよ!」とデッキに出てもらう。モモちゃんはいつのまにか寝床から抜け出していて、いなかった。仕方がないので、そのままスタンバイに入る。
 思ったより早くオルカたちはやってきた。
「オールカー!!」
 エヴァンとエリッサがありったけの声で叫ぶ。モモちゃんがそれを聞きつけてデッキにやってきた。ポールとヘレナもデッキに出て、みんなで個体識別に入る。
 最初に現れたのは、A4ポッドA11sのオス、A13だった。去年に続いて、彼は今年も背びれ上部を傷つけていた。遠目にはわからないけれど、背びれのトップの真ん中がぽっこり欠けている。まわりに小さなキズも目立つ。いったいどんな冬を過ごしたのだろう。
 次にメスと子供たちの集団が現れた。迷子を克服し、アメリカからカナダに戻ってきたスプリンガーも中にちゃんといた。4頭のA11sだけにしては、数が多い。おかしいな、コールはA4コールだけだったけど、独立した娘家族であるA35sもいるのだろうか。
 彼らがブラックニー・パスを進んで、ラボの真正面、いちばん見分けやすい位置に来たとき、わたしとポールとヘレナは、はっと息を飲んだ。
「オープンサドル??」

 オルカの背びれの後ろには、サドルパッチと呼ばれるグレーの模様がある。その形は1頭ごとに違うので、これをたよりにある程度、個体を見分けることもできる。
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(写真は、同じく「フィンガーサドル」のハッスルばあちゃん)

 そのオルカは、オープンサドル、とくにフィンガーと呼ばれる、めずらしい形のサドルパッチを持っていた。そんなオルカは、A4ポッドには1頭しかいない。
「A24!?」
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 わたしたちが驚くのにはちょっとわけがある。スプリンガーがお母さんを亡くして迷子になったとき、彼女をひとり置いて行ったのは、実のおばあちゃんであるA24だった。スプリンガーがカナダに戻ってきても、ダメダメおばあちゃんは(その時、妊娠していて気が立っていたという事情もあったかもしれないけど)可愛い孫を受け入れることができなかった。でも、スプリンガーはいろんなオルカに優しく保護され、最後はA24の妹であるA11の群れに引き取られることになった。あれから4年。その事件が起こるまでは一緒に仲良く泳ぐことが多かったA4ポッドだけど、スプリンガーを含むA11s、その娘家族のA35s、そしてスプリンガーの実の家族であるA24sは、別々に泳ぐことが多くなった。でも今日、そんなA11sとA24sが、ごちゃまぜになって一緒に泳いでいる。

「いいサインね」
「そうだね」
ポールとヘレナはにこにこ笑っていた。

 10時半過ぎ、お腹がすいたので、キャンプキッチンでモモちゃんと共にパンを食べていたら、朝方に岩の上で遊んでいた3人がこっちに向かって来るのが見えた。
「ハロー」
 わたしは女の子に向かって声をかけた。マナちゃんには、遠い昔、アシスタントになる前に1度、一瞬しか会ったことがないから、わたしのことは覚えてないと思うが…。
「ともこさんですか?」
 おお。弟のアキから聞いていたのか、マナちゃんはすぐにわかってくれた。アキはインドに行っていて、今年は来られないということだった。で、友達と来たのか。そっか…と思ってわたしはふと後ろのふたりに目をやった。…ええっ?
「ゆっ、ゆっ、ゆゆ、ユキじゃないの!?」
「うん、ゆきたけです(笑)」
 ポールは、大きくなったユキが誰かわからずに、勝手に「マナの友達」と言っていたらしい。そこにいたのはまぎれもなく、ちょっと男らしく成長したユキだった!!2年前には、森の中をキャーッと言って走り回るだけの小学生だったのに…。
 ところが、わたしの隣には、口を開けてもっとびっくりしている人がいた。
 モモちゃんだ。

「あの…山下さん?」
「も、モモコ!?」
 マナちゃんとユキが連れてきたもうひとりの男の人は、なんとモモちゃんと同じ高校の部活の友達だった!!小さな町から出てきたふたりが、こんな海外の、しかも人口10人もいないような島で出会うなんて…。
 あまりの偶然に、みんな大爆笑。

「ワールドカップの決勝が始まるから、早くポールのところへ連れてって。ここでテレビ見られるかな?」
「試合は12時からでしょ?」
「11時からだよ」
 2年前より大きくなったと言っても、まだちびっこはちびっこだ。はしゃぐユキをなだめつつ、わたしはポールとヘレナを探しに行った。というか、もう11時だ。そういえば、ワールドカップの決勝はみんなで見る、とポールから言われていたのに、いったいどうなってるんだろう?

 ポールとヘレナはラボにいた。
「この子がワールドカップをテレビで見たいって言ってるんだけど、いい?」
「いいけど、12時からだよ」眼鏡を外しながら、ポールが答える。
「違うよ11時からだよ、僕サイトでチェックしたもん」
ぺらぺらの英語で反論するユキ。
「12時のはずだけど。じゃあいちど見てみましょう」ふたりをなだめて、ヘレナがメインハウスへと向かう。わたしたちも慌てて後を追った。

「大変!!ほんとうに11時からだったんだわ、もう始まってる」
 テレビをつけたヘレナが真っ青になった。みんなで見るはずだったのに、まだCPにいる子ポールを迎えに行ってもいない。
「あなたたち姉弟は、今ここで見なさいね。アシスタントのプランは変更よ、今から録画するから、試合が終わったらみんなで一緒に見ましょう。それまで、得点の情報の漏洩は一切禁止ですからね!!」
ヘレナがユキに言う。ユキはテレビの前のいすにちょこんと座った。ポールはあわててCPに電話した。
「そうなんだ、ぼくらが時間を間違えていて、試合はもう始まってるんだ。結果がわかっちゃうからネットなんか絶対に見ちゃだめだよ、今ここでマナとその友達が先に見るけど、僕らとアシスタントは、みんなで録画したものを見るから」
「…マナの友達?この子は弟のユキちゃんでしょう?」
電話を切ったポールに、ヘレナが言う。
「ええっ?そうなのかい!?もうこんなに大きく?」
 ポールは大げさに驚いていた。やっぱり、全く気づいていなかったらしい…。
 
 マナちゃんと、ももちゃん友人の山下さんもすぐにメインハウスに来て観戦。試合が終わると、マナちゃんたちは「こっちにも遊びにきてね~」と言い残して、山奥にある自分たちのキャンプに帰って行った。
 
 ポールが子ポールを連れに行って、アシスタントたちはメインハウスに集められ、いざ試合を観戦することになった。ところで、わたしたちにはちょっと問題があった。今年のワールドカップ決勝は、フランス対イタリア。今年は、どっちの国からもアシスタントが来ている。
 というわけで、敵対する子ポール(フランス)とエリッサ(イタリア)は隣り合わせにならないよう、いすの端と端に座ることになった。エバンはフランスの応援、ももちゃんはイタリアの応援、ポールとヘレナは中立。わたしは、ここには解説してくれる手下(と呼ばれる少年たち)もいないし、しかもうちの手下たちがいったいどの国を応援しているのかも忘れたし、冗談抜きでサッカーがわからないので、中立ということにした。サッカーに全く興味のないハナは、人間模様の観戦。

 一喜一憂する子ポールとエリッサ。
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 結果はご存知の通り,バンザイするエリッサと、顔を覆う子ポール。
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 人間観戦しているほうが面白かった(笑)

 ディナーの後、みんなでラボでくつろいでいたら、コールが。A4コールとA36s3兄弟のコールがFIの水中マイクから聞こえてきた。ハナとももちゃんにデッキに出てもらい、しばらく待つと、A36sらしき大きなみっつのブローが、ラボの前の真っ暗な海から聞こえてきた。大きな船が通過した後の波で、ブローは聞こえにくかったはずなのに、彼らは力一杯命の響きをわたしたちに聞かせてくれた。

 ジョンストン海峡に入ったオルカたちは、美しいコールを響かせながら東へと進み、ちょっとラビングビーチに寄って、消えて行った。

2006-07-10 : 未分類 :
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7月8日

 ストーム2日目。
 朝、5時半に目覚めた。どうもぐっすり寝られない。
2階のスピーカーのそばでしばらくノート書いたり、荷物の整理していたら、8時を回ったとき、スピーカーからA12spが聞こえてきたような気がした。
 急いで階下に飛び降りる。空耳かもしれないので、注意深く聞いていると、やっぱりコールっぽかった、すごく遠いけど。録音開始、ポールとヘレナに知らせて、そのままいすに座っていたら、ヘレナが「オルカたちは東からやってきて、テレグラフ沖で方向を変えて北に向かっているらしいわ」との情報をくれた。また、コーモラント島沖にも、別の群れがいるという情報が入ったらしい。

 北に行ったオルカたちは、また方向を変えて、ラボ前にやってきた。
 やってきたのはハッスルばあちゃんA12と、孝行息子のA33プラス何頭かだった。遠くて、背びれの形も、正確な数もはっきりわからなかったが、再び、どうしてもそのA12sの中にわたしの大好きなエコー君が見つからない。オスだから見つけやすいはずなのに。
 どういうことだろう?

 ジョンストン海峡に入ると、彼らはコールを出した。そこでびっくり、ハッスルばあちゃんといっしょにいたのは、娘一家のA34sではなく、またA4ポッドのA35sだったのだ。
 こないだも全く同じようなことがあった。ということは、大所帯になったA34sは、とうとうばあちゃんたちから独立しちゃったんだろうか。ばあちゃんたちもばあちゃんたちで、好き勝手に他の群れに混じって楽しそうに泳いでるし…(´Д`;) 
 彼らにとって、たくさんの群れに会える夏って、こんなものなのか?

 オルカたちはいったんジョンストン海峡に入り、CPの前を通過して、またラボの前に来た。ハッスルばあちゃんが先頭をきって進む。その後を追うように息子のA33。残りの群れはゆっくりと、休みつつ北に向かっている。ズーム付きのスコープで残りの群れを見ていたわたしは、予想しなかった背びれを見つけてまたびっくりした。
 CPのレポートによると、先ほど聞こえていたコールの通り、A12、A33と一緒に泳いでいるのはA35sということだったが、ラボ前に現れたオルカたちは、それより数が多かった。中にいたのはA5ポッドのA8s。A35sとごっちゃまぜになって泳いでいる。

 オルカたちが北に消えてしまったうちに、あまり寝ていないわたしは仮眠。
 オルカたちは暗くなった頃にまた戻ってきた。
 今度は、A12sの全員と、A8s、A35sがまた一緒に、そしてその後を追ってA36s3兄弟が、その後を追ってスプリンガーを含むA11sが、暗い中、ラボの前を通過してジョンストン海峡入りした。
2006-07-09 : 未分類 :
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7月7日 七夕

 七夕ですね。
 エリッサに後を任せ、ああ眠い、まだ移動疲れが取れていない、まじでちょっと寝かせて。ってことで、ラボの2階に登ってすやすや20分も寝たころだろうか。
 自動的に身体が反応し、ガバッと起きた。これは本気でやばいぞ!!

 急いで下に飛び降り、「ちょっと~大変だよ~これはA5ポッドのコールだよ~さっきの群れとは違うのよ~」とバタバタとエリッサに言って、ヘレナのとこに走って、「A5sが来たよ~」と叫び、ラボに戻ってくると、なんとスピーカーからは、ほんのさっきまでのように、A12sとA4(A35s)コールが聞こえていて、
「寝ぼけた!!」
と思って、本気で変な汗かいた。
 まあまあ、色々と確かめなきゃいけないから、座ってヘッドフォンをつけると、なんとまた、よく知った「キャー」っていうコールが聞こえてきた。あれ?A5っぽいコールの正体は、A36sの3兄弟か?いくら似てるとしても、今まで間違ったことなかったんだけどな。もうどうでもよくなり、冷静に正確に聞き取ろうとすると、やっぱりそこにはA5がいた。ほっ。ていうか、いきなり3兄弟とA5sの登場か。落ち着こうとして座ると、今度はGクランのコールも聞こえてきた。
 早くしてくれればいいのに、オルカたちはちっとも進まない。2時間半くらいかけてジョンストン海峡をゆっくり下り、鮭いっぱいのロブソンバイトにはA5s(ポッド)たちしか行かなくて、後のオルカは消えた。
 5時になり、ヘレナが起きてきたので、後をまかせてわたしは寝た。しかしまたすぐに起きた。階下でオルカが来るという声が聞こえてきたからだ。
 
 ジョンストン海峡入りしたオルカたちは、どこに行ったのかさっぱりわかっていなかったが、悠然とわたしたちの前に現れたA36sは、朝の光に身体を光らせて、北へと向かって行った。

 午後までぐっすり寝て、起きて、ふと窓の外を見たら、ポールのカヤックがふらふら浮いているのが見えた。流されてるではないか!大変!!
 いっそいでヘレナに報告。さっきカー(ラボのボートの小さい方)で島を出たポールが、うきにしばるのを忘れたらしい。ポールはすぐにカーで戻ってきて、カヤック救助。はー、よかった。また変な汗かいちゃったよ。

 今日は七夕だということを思い出した。毎年の行事だからやるしかない。オルカラボの七夕は、けっこう願いが叶うことで有名だ。(去年は阪神優勝を願った)
 空色の紙を切って短冊を作り、麻ひもを通して、アシスタントのみんなに願いを書いてもらった。
 今年の願い…あまりにもひどくて全ては公開できません。
 公開できるものも、家のつけものが食べたいとか、ヘレナのマフィンが食べたいとか、みんなひどいもんです。でも、ハナとエヴァンはこういうのが気に入ったらしくて、いつまでも変な願いを作ってゲラゲラ笑っていた。

 おちゃめなハナとエヴァン
hanna.jpg

evan.jpg


 そうこうしているうちに、じいちゃんが「ごはんだよ~今日はオルカいないから映画見るよ」と言いにきた。みんなでウイッシュ・ツリーに短冊をかけ、メインハウスへ。風が強い!!
 今日のごはんはスコーンとトマトスープとサラダ。映画は、飛行機の中でやってたマーチ・オブ・ザ・ペンギンだった。飛行機の中では音もなかったし、前の方にしかスクリーンがなかったから見なかったけど、あらためて見るとすっごく可愛いドキュメンタリだった!!感動。

 食後、じいちゃんはジュンコーブを陸にあげ、嵐の準備をした。みんな疲れていたので、早く床に着いた。
2006-07-08 : 未分類 : コメント : 0 :
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7月6日

 朝6時にコールで目覚めた。あーよかった、今年はずっと体調悪かったから、コールで起きられるかどうか心配してたけど、身体はまだ反応してくれるらしい。
 CPを担当する子ポールと、新人アシスタントのダニエラは、この日揃って荷物をまとめ、CPへ渡った。博士の娘で、CPのプロフェッショナルであるアナがいないから(なんと、バンクーバーでショップガールとして働いているらしい!!帰りに寄っていこう…)カメラを担当する子ポールはCPにそのままずっといて、他のアシスタントたちが交代でヘルプに行くことになる。

 今年CPを担当する子ポール(手にはなぜかサーモン)cppl.jpg


 CPからの眺め。奥の島はハンソン島。
cpview.jpg

 CPは、ブラックニー・パスにもジョンストン海峡にも面していて、目の前は海藻とたくさんの魚に満ちているから、すっごく近くでオルカが見られる。みんな行きたがるけど、実はクマやクーガが同じ島に住んでおり、夜は怖く、常に海を監視するという仕事の都合上、日中はたった3畳ほどの建物を全く離れられないから、運動不足になるし、スコープの見過ぎで目は痛くなるし、日焼けするし、万が一、一緒に行くアシスタントと仲良くできなかったら、けっこうツライ場所にもなる。

 しばらく録音を続け、エヴァンに交代してもらった。エヴァンも新人、1週間ラボで過ごしているとはいえ、まだまだ指示が必要だから、隣で「そうそう、違う違う」と教えつつ、ラボで過ごした。途中お腹がすいてパンをかじりに走ったけど、なんだかんだで3時近くまでラボにいた。オーストリア人のハナとしゃべってたらあっというまに午後になっていた。ハナとはすごく話が合う。彼女は、ここの仕事が性に合っていたら、10月末まで居たいという。ぜひぜひ、そうしてほしい。

 わたしたちがラボ番をしている間に、モモちゃんとイタリア人のエリッサはおふろの水を抜いてガーデンにまき、エバンと一緒に薪割りとか掃除とかしてくれていた。エリッサは若干18歳。ハナ曰く「わたしたちのベイビー」だ。
 少し時間ができたので、おうどん(ポート・マクニールにレトルトのが売っていた)を食べてまたラボに戻ると、ヘレナが校正の仕事を持ってきた。打ち間違いを探せと。そんな細かい仕事はちょっと苦手だと思ったが、指名されてやらないわけにはいかないので、急いでその仕事をした。
 しばらくするとオルカがこっちに向かってるとの情報が入ってきた。わたしは録音を始めて、新人アシスタントたちに見張りのためにデッキに出てもらった。しばらくしたらハッスルばあちゃんA12と、息子A33がラボの視界に現れた。そして♀たちがぞろぞろ。A12s一家が来たと思った。
 でも、いくら探してもわたしの大事なA55、エコー君がいない。あの美しい背びれを見落とすわけがない。ヘレナも「おかしいわね」と言い始めた。ポールに至ってはA33が水面にあがるたびに「33だ」「いや、55かな?」と2頭に仕立てちゃってるし…。
 しかも、わたしの目にはヘレナいわく「いるはずのない」A4ポッドA35sのA52が見える始末。

 参考までに、A52。背びれにキズがあって、わかりやすい。
a52.jpg

 ヘレナには「しっぽよしっぽ。キズのあるしっぽを見間違ったんでしょう」なんて片付けられて悲しかった。しかし、そのオルカたちが視界から消えてしまってコールを聞くとびっくり、ほんの少しのA12コールと共に聞こえてきたのは、いるはずのないA35sのコールだったのだ。態度一転「だから言ったでしょ!!」と言うわたしと、ばつが悪そうに笑うヘレナ。でも、かんじんのエコーは見つからなかった。

 これはちょっとおかしいぞ、娘家族のA34sは、わたしたちが発見するより以前に、つまりばあちゃんたちより先に行っちゃったのかと思っていたら、なんと、ばあちゃんたちが消えていった方向とはジョンストン海峡からコールが聞こえてきた。暴走ばばあは放っておいて、ちょこっと別々に行動していたらしい…。今度はちゃんと、エコーを含むA34sがごはんを食べつつラボ前に現れ、わたしたちのきらきらした視線を浴びつつ通過して、ばあちゃんたちの待つ北へ向かっていった。

 ディナータイムになったけど、ひとりはラボに居なければならない。新人に任せても、どうせわたしはチェックしないといけないから、「わたしが残るからいいよ」と言って、録音していたら、ハナが山盛りのディナーを運んできてくれた。

 コールがなくなってしばらくたったころ、ポールが「みんな北に行ってしまったし、コールもないから、メインハウスに来てみんなと一緒に食べなさい」と言ってくれたので、食べかけのお皿を持ってハウスへ。
 食後、やはりラボが気になって戻り、ヘッドフォンをつけたら、CRPTの水中マイクからコールが聞こえてきた。ハンソン島のまわりをぐるりんこして、ジョンストン海峡に戻ったらしい。

 ところが、ぐるりんこしたオルカたちのコールは、PIの水中マイクに移動し、大きくなってきた。こりゃ大変、またラボ前に現れる気だ。
 みんなをラボに呼び、デッキで待っていると、オルカたちは本当に入ってきた。なんかえらい興奮したコールを出している。島の回りをグルグルしたり、こんなにそわそわして、興奮しているなんて…他の群れががやって来るんだろうか。
 再び北に消えていったオルカたちのコールは、なかなか止まなかった。「とりあえずコールが止むまで録音して、後は寝ていいから」とわたしはエリッサに伝えて、寝床に入ることにした。
2006-07-07 : 未分類 :
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7月3日~5日 ロングジャーニー

 資金が底をつき、なんとかひねり出したお金で買ったのは、最安値の北京経由のバンクーバー行き。最初に、バンクーバーとは逆がわに飛ぶことになるから、時間もかかるし、身体もつらいってことはある程度は覚悟していた。
 ちょっとショックだったのが、アテンダントさんの英語がとてもわかんなかったこと。自分ではけっこう、いろいろな訛りの英語に対応できると思ってたんだけど、中国ははじめて。いすも倒れないし、寒いし、こっちの英語もなかなか通じなくて、ちょっと困った。
 北京で3時間待ち、そしてバンクーバー行きに乗り換えて再び飛ぶ。

 今度の飛行機は、すぐ後ろに泣き赤子。この世の終わりのような悲しい大声でずっと泣いていて、いたたまれなくなる。わたしも飛行機嫌いだもん、赤ちゃんならもっと嫌だよねぇ。わたしも泣きたいよ…。寝ようと思ってもなかなか寝ることができない。映画も前の方の座席でしか見られないので、わたしはずっと音楽を聴きながらマリオカートで遊んでいた。DSの電池がきれるまでやってしまった。電池がなくなったので本当にすることがなくなって、そのままipodで音楽を聴いていたけど、これもまた長時間のフライト、電池がなくなると本当につらいので、しばらくしてから大事にしまっておいた。
 いっしょう懸命がんばって寝ようとしたり、起きたりしているうちに何とか到着。午前11時。

 泣き赤子も飛行機を降りてニコニコ。荷物ピックアップに行く。なかなか出てこなくて「またロストか」と心配したけど、今回は無事に受け取れた。エアポーターというホテル巡回バスに途中まで乗せてもらって、OSSのモモちゃんと待ち合わせる予定の小さなホテルへ。

 モモちゃんが来るまで起きていようと思ってたけど、シャワーあびたらやっぱりへとへとに疲れて寝てしまった。
 2時間後、成田発のダイレクトフライトだったモモちゃんも、無事に到着。翌日のバスのチケットを購入し、街の散策へ。
 スカイトレイン沿線がガラ悪かったので,安全な一面も見せてあげようとロブソン~デンマン~デイビー通り、と歩いていくことにした。途中の海岸でひと息ついて、「留学してたころはこの砂浜で宿題とかやってたんだよ~超たのしかったよ~」とそそのかして、わたしのお気に入りのレストランでお腹がぱんぱんになるまでご飯を食べ、お腹によゆうができるまで少し休んで、チーズケーキを食べにいった。すっごくおいしかったけど、ハンソン島滞在費はけっこうなくなった…。
 帰りに公衆電話を見つけ、オルカラボに電話。でもすでに夜遅くて留守電だったから、メッセージ残してホテルに戻り、死んだように眠った。

 午前3時くらいに、結局暑くて起きてしまった。
 暑い、暑いと言っていたらモモちゃんも起きてきた。でも、時間はちょうどいい。4時半までに用意して、45分にホテルをチェックアウト。タクシーを呼んでもらい、くさい街の朝の空気の中、ステーションへ。

 朝の駅で「小銭くれ」というおっさんにからまれて、こわかった。
 バスは、5時半にでる予定だったので、余裕ぶっこいていたら、見切り発車されてあやうく乗り遅れるところだった。でも、いくらバスだからといって10分も早く出るっていうのはよくないと思う…。
 バスは港からフェリーに乗り、わたしたちはバスから出て、フェリーの中を探索した。
 バスの中が、ただでさえ寒いのに冷房がちがちに効いていて、寒くてぶるぶるだったけど、フェリーの中も何も変わらずぶるぶるだった。上着を入れた荷物はバスの下に入れてもらっていて、乗り換えの時間まで出してもらうことができない。フェリー内のお土産屋さんで上着を買うお金があるはずもなく、ガマンするしかなかった。
 ナナイモでバスはフェリーを降りた。ターミナルについて、荷物を乗せかえる時にようやく上着を引っ張り出して着たけど、今度も座る場所を間違え、これがびっくりするくらいの地獄ツアーだった。座った場所は何と、足下から冷たい空気がたっぷり飛び出てくる穴のついた冷蔵庫席☆
 寒い!!ほんと、寒いし眠いし、足は冷たすぎて痛いし、凍死するかと思った。でも、バスの中には半そでの人もいたくらいだから、日本人は温度に過敏すぎるのだろうか。バスはキャンベルリバーでお昼休みに入った。わたしたちはまたバスを降り、簡単なランチをとって、しばらく後また同じバスに乗って、ポートマクニールへ。
 今度は通風穴のついていない座席に座ったから、いくぶんましだった。

 ポートマクニールに到着。
 荷物をとりあえずフェリーターミナルまで運んで、大きなスーパーへ1週間分の食料調達に。ちょうどいい時間になり、フェリーが来たので、荷物をしょったまま乗り込む。現地の親切なクルマのおっさんが声かけてくれて、「どこに行くんだ、乗せてやる」と言ってきたけど、アラートベイに着くまでわたしたちの行き先がどうなるかわからなかったので、「大丈夫、でもありがとう!」と言って断った。

 フェリーの中では移動疲れでずっと寝ていた。

 アラートベイに着いて、またラボに電話すると、ポールは「今日はユースホステルに泊まってね、明日の朝迎えに行くから」との答え。
 朝?ポール・スポング・タイムの朝って午後1時2時くらいかしら?と考えつつ、万が一のために9時くらいには港にいようと思いつつユースホステルへ向かう。荷物が多かったので、少し歩いただけですごく疲れて、どうしようと考えていると、またまた親切な現地のおばちゃんが車を停めてくれて「あんたら荷物多いから乗りなさい」と言ってあっさり送ってくれた。アラートベイの人たちはこれだから大好きだ。治安に心配したことはない。モモちゃんなんて、想像以上に親切にされたからって涙ぐんでいた。

 ユースに着くと、まだ午後6時過ぎくらいだったのに、ちょっと昼寝しようと言ってそのままぐっすり次の日の朝4時まで寝てしまった。

 8時にモモちゃんを起こし、用意をして出発。結局8時半くらいにドックに着いてしまった。寒かったし、雨がちらちら降ってきたので不安にかられ「本当に1時2時になっちゃうかな、パソコンもあるし、荷物濡れたらどうしよう」と泣きそうになっていたら、なんと9時過ぎにポールのボート、ジューン・コーブが来た!!まじでびっくり。今年の新人アシスタントのエヴァンとハナも降りてきた。今日はついでにタウンランの日だった。

 まず、みんなでランドリーへ行って洗濯をする。ハナはオーストリアの人で、すぐに「この人は仕事ができる!」と判断。どうもメアリーやギギ系の、性格上よく動く人らしい。洗濯物も、ちゃんと色柄わけて入れていて、「あっマトモな人だ~、常識ある人だ…」と妙に感動してしまった。なかなか、そういうひとは来ないから…。
 エヴァンは2年前のWDCSツアーでラボに来たらしいが、お互いによく覚えていなかった。
 洗濯、買い物をすませてボートに戻り、ポールがぐちゃぐちゃに突っ込んだランドリーを畳み直し、いつものようにヘレナのためにバラを一輪持ったポールを待って、いざハンソンへ!!

 ラボにつくと、ヘレナが超笑顔で出迎えてくれた。「2ヶ月ぶりねトモコ!!」
 リオには、いつものようにわふわふ吠えられた。

 島にいたアシスタントはイタリアのエリッサ、オーストリアのダニエラ、去年もいたCP担当の子ポール、それからしばらくしたらドイツの子がくるらしいけど、メラニーかな?もしそうなら今年はたっぷり音楽持って来てるから、KEN YOKOYAMAを聞かせてあげたい。

 オルカたちはすでに来ていて、コールはずっと続いていて、夜は12時くらいまでレコーディングして眠りについた。
2006-07-06 : 未分類 : コメント : 0 :
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プロフィール

Tomoko(Orcalab Japan)

Author:Tomoko(Orcalab Japan)
カナダ・BC州の海洋生物研究所「オルカラボ」で、野生オルカ(シャチ)の鳴き声の解析スタッフをしています。
夏の間は研究のためオルカラボのあるハンソン島に滞在。日本ではよくライブハウスにいます
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