夏になると、野生のオルカが鮭を追ってたくさん集まってくる、カナダ、BC州のジョンストン海峡。その中でも、オルカが特に頻繁に通過するハンソン島から、毎日の生活とオルカの様子を、日本の皆さんにお届けします!

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7月28日

 2週間ぶりのタウンランの日!!

 オオアオサギさん
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 モモちゃんとヒデさんが今回の当番。私とゆみちゃんは、ヘレナと一緒にお留守番をすることになった。
 昨日の満潮時に、お客さんたちが使ったタオルやシーツなど、ほとんどの洗濯物とプロパンガス、空になったガソリンのポリタンクはボートに乗せてしまっていたので、あとは溜まりに溜まったゴミを乗せ、街へ行く人間が乗り込むだけ。大工さんのカートや、ハンソン島の仙人ウォーラスも山から下りて来て買い出しに参加することになった。

 ポールが運転席から高々と手をあげて、ボートを発進させた。ヘレナとゆみちゃんと私は去り行くボートに手を振って、岩場からデッキに戻ろうとした。しかし…。

「まあ、大変だわ」
ヘレナの顔色がサッと変わる。ボートが途中で止まってしまった。何か海へ落としたのか、忘れ物をしてしまったのか。ヘレナは急いでメインハウスに走り、無線でポールと連絡を取ろうとした。私とゆみちゃんはラボのデッキへ走り、スコープで何が起こっているのか確かめようとした。すると…。

「あ、いい木だ…(´Д`;)」

 ボートに乗っているみんなが見つめているもの、それはとても素晴らしいコンディションの杉の流木。昨日の満潮の時に漂って来たのだろう、ハンソン島の岸に流れ着いている。
 カートが、ボートに乗せてあったロープでその流木を縛ると、ボートはそれを引きずってそろそろとオルカラボの方へ戻って来た。ヘレナを含め、三人で大笑い。こんなにいい杉が1本あれば、しばらくの間、オーブンや薪ストーブ、そして野外風呂の着火材には困らない。

 私とゆみちゃんは、ポールが慌てて海岸に置いて行ったカヤックを岸へ片付けながら、ボートが戻って来るのを待った。

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 杉を牽引したボートは岩場へ。私はカートが投げたロープの先を受け取り、流木を引きずって、岸へしっかり結びつけた。そして今度こそ、タウンランへ行く彼らに再び手を振った。

 前年まで、オルカラボで出た洗濯物は全て街で乾燥機にかけていた。しかし、今年からは温暖化対策のため、ムダな電気を使うのはやめて、日本のように全てを天日干しにしている。でもこの湿った空気とぐずる天気の中では、そう簡単には洗濯物は乾かない。前回は全てを乾かすのに1週間かかり、私たちの衣類は生乾きのニオイでとてもくさくなった。

 ヘレナはバスハウスの中にロープを張り、洗濯物を吊るす場所を作ってくれた。私とゆみちゃんは、ラボの2階も日当たりがいいのではないかと考え、ジャマにならないよう2カ所にロープを張った。これで前回よりはラクに乾燥できるだろう…。

 心配していたとおり天気は崩れ、激しい雨が降って来た。私はスキャニングで忙しいゆみちゃんのかわりに急いでゲストハウスのデッキへ走り、テントが大丈夫かどうかを確認し、自分たちのテントの様子も確認してびしょ濡れになりながらラボへ戻った。

 そこへ、ヘレナが大きな鍋を持ってやって来た。
「今日はタウンランの日だから、メインハウスでのディナーがないのはわかってるでしょうけど、スープを作ったの。これをみんなで食べてちょうだい。まだ作ったばかりで鍋は熱いから気をつけてね」

 ヘレナが行ってしまった後、おそるおそるフタを開けてみると、ラボ中に幸せな香りが漂った。3日前の夜、私たちはゲストが持って来た七面鳥をいただいた。薪オーブンで焼かれたおかげもあるのかとても口当たりがよく、お肉はどこもかしこもキレイにそぎ落とされ、骨だけが残った。ヘレナはそれをとっておいて、あらゆる野菜とハーブを投入し、煮込み、素材の味を最高に引き立てたスープにしてくれたらしい。

 私とゆみちゃんはタウンラン組が帰って来るまで待ちきれず、鍋を抱えてキャンプキッチンへ走り、まだ熱いそのターキースープを皿に取りわけて、あまりの美味しさにうなり声をあげながら食べた。「あまりものだから」と称してもらったヘレナ特製のパンも食べた。とても「ノーディナーの日」とは言えない豪華さだった…。

 スープを食べ終わってラボに戻ると、ガラス越しに何か動くものが見えたような気がしたので、私はデッキに出てスコープで確認した。それは20~30頭のカマイルカの群れだった。彼らは右へ進み、全員で突然方向を変えて左へ進み、空中でそれぞれ楽しそうにクルクル飛んで、北へと進んで行った。

 8時ごろ、無事にタウンラン組は帰宅。洗濯物と食品、ガソリンのポリタンク、プロパンをボートから降ろし、残っていたターキースープを温めて全員で食べた。
 2杯目のスープをお皿に注いだとき、キャンプキッチンのスピーカーからオルカのコールが聞こえて来た。北からやってきたA30sだ!前回来たのは6月30日だったから、約1ヶ月ぶりに戻って来たことになる。
 コールはいったん小さくなり、そして消えた。明日の朝まで待ってくれるのかな、なんて甘いことを考えて寝袋に入った私たちがバカだった。次にコールが聞こえはじめたのは、23時59分だった。
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2007-07-31 : 未分類 : コメント : 0 : トラックバック : 0
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7月27日

霧の中、ラボ前に姿を現したトドさん
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 ゲストのハルおじいちゃんご家族と、フィオナがハンソン島を後にする日。
 ボートが出るのは午前10時とのことだったので、みんなでゲストたちの荷物をまとめ、ゲストハウスから海岸の岩場へ運ぶ。10人分あるから張り切っていたけど、彼らも自ら大きい荷物を運んでくれたので、作業は楽だった。
 と、私たちはゆみちゃんの姿が見えないのに気づいた。さっきまで3歳のアーロウ君が岩場へ降りるのを手伝っていたのに…人さらいか?

 ゲストハウスのデッキの角を曲がって、右手の海岸を見てみると、そこにゆみちゃんとアーロウ君がいた…しかし、様子がおかしい。人見知りで、この3日間「おうちに帰りたい」と泣いてばかりいたアーロウ君は、ゆみちゃんの手を引っ張って、船着き場とは逆方向にどんどん海岸を歩いて行く。まさか………こんなギリギリになってカップル誕生か?

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 あっけにとられる私、モモちゃん、ヒデさんをよそに、ゆみちゃんとアーロウ君は誰もジャマできない雰囲気のまま寄り添って海岸を歩き、時折立ち止まって一緒に潮だまりを覗きこみ、とうとうラボの方まで行ってしまった。アーロウ君のお母さんが「あの子はママよりも、若い女の子が好きなのよね~」と笑っていた。

 せっかくできた可愛いカップルも午前10時に涙のお別れ。私たちはゲスト10人それぞれとハグを交わし、フィオナに「また来年ね!」と手を振り、小雨の中、北に消えて行くボートを見送った。

 ヘレナが、娘のように可愛がっているフィオナを見送るために一緒に行ってしまったので、私たちは監督ぬきでゲストハウスとテントのベッドからシーツをはがし、使用済みのタオルをまとめ、きれいに掃除をして、チョコレートを食べながらコーヒーを飲んだ。そして、昨日から気になっていた恐ろしい話題をとうとう口にした…。それは、サウナのかまの灰そうじ。

 一昨日、ゲストがすごい勢いでサウナを焚いていると、パイプを保護するための天井の鉄板が、ガシャンとまきの上に落ちて来てしまった。この状態でもう火を焚くことはできないので、落ちた天井は取り出され、まきの燃えカスは運び出され、かまの中には長年ためてあった灰だけが残った。
 前回、灰そうじをしたのはいったい何年前だっただろう…。恐怖がよみがえる。しかし、この灰を運び出さないことには、サウナのかまの修理はできない。
 帰って来たヘレナにおそるおそる尋ねてみると、やっぱり「とりあえず灰だけは運び出しておいて」との答え。肩を落としつつ、なぜか急に行方不明になったヒデさんを探す。間もなく、テントにいるのを発見してそのことを伝えると「貧血気味だから少し寝る」との答え…。

 女子3人。古いブルーシートをかまの隣に敷いて、スコップで掘った灰の化石を運び出す。灰が舞い、あたりは白くなり、服はすすで汚れて行く。マスク無しではいられない。

懸命にスコップで灰を運び出すモモちゃん
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 ブルーシートに盛った灰は、一輪車に乗せられ、森の奥の穴まで運ばれていく。き、きつい…。

 灰が乗った一輪車を押していたモモちゃんが突如走り出した。イキオイをつけて木の根っこを乗り切ろうと思ったら、乗っている灰が重すぎて止まらなくなってしまったらしい。私とゆみちゃんはキャーキャー言いながら、すごいスピードで森の中を走り抜けるモモちゃんを追いかけた。モモちゃんは奥の茂みにどすんと衝突、一輪車ごと横転…そして爆笑。何のケガもなく、ブルーシートに包んでいたおかげで灰もこぼれなかった。

 ゲストが帰り、ヘレナも18人分の料理から解放され、今日はちょっとリラックスしたいのでメインハウスでのディナーはなし。なぜか急に貧血が治ったヒデさんがイモを茹でてくれたのに、ちょうど出来上がる頃になって、ホエールウオッチングボートのルークワが「A24sがオルカラボに近づいているよ」とのありがたい情報をくれた…。

 雨、そして北風。凍えるようなデッキで1時間待ったが、A24sは来なかった。私たちがデッキにひざをつき倒れようとしたころ、2頭のザトウクジラが現れた。優しいクジラたちはラボ寄りに姿を見せ、疲れきった私たちの心を潤した。
 みんながザトウクジラに魅入っている間、A24sはこっそりブラックニー・パスに現れた。徐々に暗くなる視界の中、A24はひとりで先頭をきり、上の子のA64が少し遅れて泳ぎ、真ん中の子A71が、いちばん小さなA78と寄り添って最後尾にいるのがようやく見えた。

 A24sはオルカラボの前を通過するのに1時間以上かかった。ヒデさんが茹でたイモは冷めた。私たちはヘレナがくれた市販のブラウニーを口いっぱいにつめこみながら、ジョンストン海峡へ消えて行くA24sを見送った。
 日付が変わる前に鳴き声も消えた。ラボの前では、デートしているらしい2頭のトドの呼吸音がいつまでも響いていた。
2007-07-29 : 未分類 : コメント : 4 : トラックバック : 0
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7月26日

 日付が変わったころ。サウナでひと汗流して、すっかりいい気分でいた私たちは、身体ほかほかのまま寝袋に入り、眠りにつくまでの幸せな時間を過ごしていた。しかし、そんな幸せは幻だった。枕元のスピーカーから、カカッカッカッ、というクリック音が聞こえて来たのは、その直後だった。

「来た…」
私はひと言つぶやき、寝袋を掴んだまま1階に降りた。録音スタート。東から戻って来たA24sは、ロブソンバイトで少し鳴き、消えた。
 とても嫌な雰囲気だったが、少しでも眠らないとあとが大変なので、2階へ戻る。やはりA24sは黙ったままこちらへ向かって来ていた。午前3時頃私たちは大きなコールで飛び起き、オルカラボの前に現れたA24sの呼吸音を北へと見送った。

 朝になると、A24sは北で方向を変えて再びオルカラボの方へと向かって来ていた。彼らはお昼過ぎにオルカラボの前に現れた。明るい中でオルカを見るのは久しぶりだった。彼らは全く鳴かず、静かに東へと進んで行った。
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 今日はフィオナがハンソン島で過ごせる最終日!
 モモちゃんの強い要望で、フィオナが専攻している「サステイナビリティ」のプレゼンをラボでしてもらうことになった。フィオナは、
●人間が地球から掘り出してるもの
●人間が作り出した合成物質
●人間が自然に直接与えている影響
●人間が自然や他の生物が必要としているものを妨げている例
を私たちに挙げさせ、さらにどれが有害物質でどれが無害かを説明し、さらに自分が地球に有害なことを行っている場合(電気をいっぱい使う、車の運転をする、合成洗剤で皿を洗う)、どうしたら不便に思うことなく、それを少しでも改善できるかを一緒に考え、討論した。

 私たちは久しぶりに勉強して幸せな気持ちでいっぱいになったが、そんなありがたいプレゼンの途中、突如海の方からけたたましい楽器の音が聞こえて来た。プレゼンは中断され、みんなラボを出て音のするデッキへ走った。そこには1隻の小さなボート、そして高らかに奏でられるトランペット。

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 それはアラートベイ在住のトランペットの妖精、ジェリーだった。いったい何をしに来たのかはわからないが、ジェリーは1曲演奏し終わると、満足そうに手を挙げてボートを180度ターンで急旋回させ、北の海へと消えて行った。
 
 昨日の午後にインターネットも復旧。フィオナ、そしてゲストのハルおじいちゃんご家族最後の夜なので、ディナーは豪華だった。デザートにかけるバニラヨーグルトが少しだけ余ってしまったので、モモちゃんがわさわさと口に詰め込んでいると、ヒデさんが「歩くコンポストだな」と暴言を吐いた。

 その仕返しに、暗くなってみんなが床についたころ、私たち女子3人はぞろぞろ連れ立ってヒデさんのテントへ近づき、まるで亡霊のようにザッ、ザッとテントのまわりを歩き回ろうとしたが、中から普通に「うるさい」と叱られてしまった。
 私たちは笑い声を必死に我慢してラボへ駆け戻った。浜風が冷たい静かな夜だった。
2007-07-28 : 未分類 : コメント : 2 : トラックバック : 0
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7月24日

 零時すぎ。とうとう噂の3兄弟、A36sが北のブラックフィッシュ・サウンドからオルカラボの方へ近づいて来た。
 私がラボ内で録音作業をしていると、暗闇の中、外のデッキに出ていたモモちゃんが「とりあえず巨大生物がいます」と連絡用ホワイトボードに書いて懐中電灯で照らして見せて来た。

「A36sのブロー(呼吸音)はでかい」と書き返すと、
「花火みたいなどーん、どーんという音、オルカにしては大きすぎる」という返事。
 じゃあ、おそらくザトウクジラか何かなのだろうと思って録音を続ける。しかしその直後、ラボ前の水中マイクからA36sの鳴き声が聞こえて来た。おいおい!!オルカにしては大きすぎるように聞こえるその巨大な生物がA36sだよ!!

 どうやら、A36sの中の1頭が恐ろしいまでに急いでブラックニー・パスを通過したようだった。しかし、あとの2頭は北にいるまま。家族で行動を共にするオルカたちなのに、こんなに離れて大丈夫なのだろうか。
 最初の巨大生物は狂ったように叫び声をあげながら、ジョンストン海峡に入っていった。北にいる残りの2頭は、全く落ち着いたまま普通の鳴き声で返していた。ようやく後の2頭がオルカラボの前に現れ、全員がジョンストン海峡に入った午前2時過ぎ、彼らの鳴き声は途切れた。

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 午前7時、ゲストの「音楽のおじさん」アンドリューがラボを後にした。みんなが大好きなゲストだったので、さよならを言うのはとても寂しかった。彼を見送った後、私たちは朝食を食べようとキャンプキッチンに移動した。すると、スピーカーからA4ポッドの鳴き声が聞こえて来た。A4ポッドに属するみっつの家族の中で、いちばん近くにいると思われるのは、昨日の早朝、C10sを連れ出したと思われるA24sだ。ウェイントン・パスを通過してジョンストン海峡に入ったらしい。

 可愛い孫であるはずのスプリンガーを置いて行き、迷子にさせたA24。自分の子の世話ができず、今までに5頭の子供を亡くしたA24。人間の目の前で出産シーンを披露したとても図太いA24。彼女には2003年に生まれた子がいるが、その赤ちゃんは上の子(まだ8歳)が面倒を見ている…。つくづく、オルカらしからぬ不思議な性格のオルカ。そして彼女は、男好き。

 早朝、尋常じゃない叫び声をあげつつ誰よりも先を急ぎ、東へ逃げようとしていたA36sの中の1頭…おそらくA46は、「ついてくる!!」と言っていたのではなかろうか…。捕まったら彼も覚悟しなければならない。オルカのオスは、メスの誘いを断ることはできないらしいから。そして、まさか全てを計算して、A36sの3兄弟と仲のいいC10sを前もって東から連れ出していたとしたら、A24もただ者ではない…。
(※ここに書かれているオルカの心情は、実際の動きをもとにしたフィクションです。)

 A24sはA36sを追って東へと消えて行った。テレグラフ・コーブまでアンドリューを送って行ったポールとヘレナは、ドイツのジャーナリストを連れて帰って来た。私たちは彼らにラボの説明をし、ポールがインタビューを受けている間ジャマにならないように隠れ、満潮を狙って海で髪を洗い、ゲストハウスの掃除とベッドメイキングをして、次のお客さんを迎え入れる準備をした。

 今回のゲストはなんと10人!ゲストとは言ってもツアー客ではなく、ポールの友人が家族、親戚一同でやって来ただけなので、対応はずいぶんリラックスしたものになった。その中に2歳と3歳の男の子がいたので、ハンソン島は彼らの発する奇声と笑い声でにぎやかになった。私たちは小さい子供が自然の中でケガをしないかヒヤヒヤしながら見守り、オルカのいない夜を迎えた。
2007-07-28 : 未分類 : コメント : 0 : トラックバック : 0
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7月23日

 午前2時50分、私はもぞもぞと寝袋から這い出し、ロープを伝って1回へ降りて、眠い目をこすりながらラボの中へ入り、DATの録音ボタンを押した。
 コールの主は東から帰って来たC10sのようだった。彼らはCPの前を通過してオルカラボ方に方向を変えて来た…しかし。
 本当に眠かった私は、ヘッドフォンから美しいC10のコールのほかに、何だかAポッドっぽいコールが聞こえるなぁとぼんやり考えていた。そして、突然目が覚め「他に誰かが一緒にいる」可能性とオルカラボの前にやってくる可能性にハッと気づき、2階に向かって「オルカ来る!!」と叫んでモモちゃんとゆみちゃんを起こしデッキに出てもらい、メインハウスに走ってヘレナに「Aポッドもいる!」と報告し、ラボに戻ってしばらくすると、オルカがブラックニー・パスに現れた。
 彼らは2グループに分かれ、ラボの前を通過して行った。謎のAポッドはA24sの可能性が高かった。

 ひと眠りした後、モモちゃんと一緒にキャンプキッチンへ行き、ご飯を食べようとすると、キッチンの床に踏まれたてらしいバナナスラッグ(大なめくじ)が、かわいそうに、プルプルと最後の力を振り絞って動こうとしていた。容疑者はヒデさんかゆみちゃんしかいない。ラボに戻り、ヒデさんに「スラッグ踏んだでしょ」と問いつめると、「…軽く踏んだ」と正直に答えた。しかし、ここのスラッグには人間以外の敵がいないのだろうか。だとしたら、食べ物がある限り増え続けることになるんだけど…。

 朝、どしゃ降りだったので、今日も1日外に出られないのかと覚悟していたら、お昼には青い空が見え始めた。私は午前中いっぱい使って早朝の録音を何度も聞き直し、ヘレナに言われてコールをパソコンに取り込む準備をしていると、デッキに出ていたモモちゃんが海岸の岩を指さして「うに?」と言っている。
 身を乗り出して、ガラス越しに海岸を見る。その岩の上には1羽のカモメ。足下に転がる4個のウニの殻。

「うに~!!」

 私はくつも履かず、濡れたデッキで靴下が汚れるのも構わず、1秒でも早く知らせなければとメインハウスへ走った。メインハウスの勝手口を開け、大声で「ヘレナ!」と叫んだが何の返事もない。ドアを閉めてサウナの方へ裸足のまま走り、もう一度「ヘレナぁ!」と叫ぶと、声を聞きつけたヘレナが「どうしたの…?」と怪訝な顔をしてこっちに歩いて来た。

「うにが帰って来た!!」
「Oh my god…」

 ヘレナがデッキに走りながら大声でポールを呼ぶ。ポールも緊張の面持ちでカメラを抱えてデッキに走って来る。ゲストのアンドリューも事態がわからないままデッキに呼ばれる。
 オルカが来るよりも緊急事態、この島の人間の注目を集めるのはたった1羽のカモメ。海に潜ってウニを獲り、中身をつついておいしそうに食べる。たまに羽がまだ灰色い子供を連れて来てウニの獲り方を教えるが、子供が一人前になると自分のテリトリーから追い出してしまう。
 うに・ザ・シーガル。カモメのうにちゃん。

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 ポールは興奮し、顔を真っ赤にして、今年もたくさんウニをたべるうにの表情を何枚も写真に収めながら「素晴らしい、素晴らしい」とつぶやいていた。
 いつもまわりにいる野生動物も、この島で暮らす夫妻にとっては家族であるに違いない。

 ディナー後、私たち日本人女子3人組は、ゲストのアンドリューとフィオナとと共にサウナを楽しみ、ラベンダーオイルの入ったスチームで幸せな気分に浸った。そこでSanto & Johnnyの「Sleepwalk」という曲の話でちょっと盛り上がったので、ラボに帰った後、曲に興味を示していたモモちゃんに、私のパソコンに入っていた原曲を聞かせてあげて、イイ気分になったところでさて寝ようとすると、曲を停止した瞬間にスピーカーから「キャー」という小さな叫び声が聞こえたような気がした。
 思考時間0.5秒。私はパソコンを閉じ、半泣きになりながら1階へ飛び降りラボへと駆け込んだ。
 録音スタート。大きな背びれを持った3兄弟が、オルカラボの前へ向かって来ていた。
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7月22日

 ちょっとだけ晴れ。
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 雨が降らないうちに、前々からヘレナに言われていた「オルカラボでいちばんめんどくさい仕事」、ブルーシート張りをしてしまうことにした。
 ゲストハウスのデッキには、ゲストハウスに入りきらないお客さんのために、5~6人用の大きなテントがふたつ建てられている。しかし、何故かこのテントたちは防水ではない…。なので、雨が降ると激しく雨漏りしてしまい、中のベッドはびしょ濡れになる。そのため、毎年テントの上にはブルーシートを張る。何故ここに屋根を作ってしまわないのか不思議で仕方ないけど、これがこの島でのやり方なのだから逆らうことはできない…。

 ヒデさんがはしごにのぼり、ゲストハウスの壁に釘でブルーシートの片端を打ち付けて行く。私たちは高さ2メートル以上あるテントの上にブルーシートを被せ、反対側をロープで結んで引っぱり、ピンと張って青い屋根を作った。たったこれだけのために午前中いっぱい消耗したが、これでいつゲストが来て雨が降っても大丈夫。

 東に行っていたCsとDsは、コアエリアの方へ戻って来ているようだったので、昼食後はみんな基本的にラボ待機することになった。それぞれログブックのスキャンや、アーカイビングの仕事をしつつ、窓の向こうの海に気を配っていると、ケルプの森の中に何やらゆらゆら動く物体が見えた。

「?」

 こぞって外へ。スコープで確認すると、それは小さなアザラシだった。しかし、ただのアザラシではない。何かいいことがあったのだろうか、首をちょこちょこ振りながら泳いでいる。あまりにも幸せそうなので、ヒデさんが「ハッピー君」とまたベタな名前をつけた。

 午後6時半頃、ようやくCsとDsは水中マイクのエリアに入って来た。
 彼らがオルカラボの前に近づいて来たので、私たちはデッキで待ち構えていた。目の前の海にはカモメが群れている。左手の森を見ると、そこには少なくても20羽のハクトウワシ。今年はオルカの動きは少ないけれど、鳥に恵まれた年だ。
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 暗くなる前にオルカラボの前に現れた。彼らは夕日を浴び、ひとかたまりになって、ゆったりと呼吸をしつつ、北へと進んで行った。私とヘレナはその中にC6sとDsのオルカを確認したが、C10sのオルカはどうしても発見できなかった。

 夜、ディナー中にオルカラボの電話が使えなくなっていることが発覚した。インターネットも使えない現在、私たちは外界から完全にシャットアウトされた…あ、まだ無線があったか。
明日の朝になればそのへんのウオッチングボートとは連絡がとれるだろう…。
 C6sとDsは北へと消えて行った。嫌な予感を抱きつつ私たちは早めに寝袋に入ることにした。
2007-07-28 : 未分類 : コメント : 0 : トラックバック : 0
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7月20日

 昨夜ちょっと晴れたのに、再び朝からひどい雨。
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 朝ご飯を食べていると「15~20頭くらいの群れが、北のリザード・ポイントにいるという情報が入って来たわよ」とヘレナが教えに来てくれた。
 うーん、いつものA12sのご一行の可能性が高いなぁと思いつつみんなでラボに移動。しかし、しばらくすると再びヘレナがやって来て「ジェレッド(ウオッチングボート、トゥアンの船長)がCsとDsだって言ってるわ。彼の個体識別は信憑性が高いから、そのつもりで待機してね」と言いに来た。
 Bサブクラン(に属するCs)か。今季初の群れだ。

 私たちが研究しているノーザン・レジデントの群れには、A、G、Rクランという、それぞれ違う言葉を話すオルカたちがいる。Aクランの中にはいくつかの家族の集合体(ポッド)がある。その中でもAポッドがこの海域で最も頻繁に見られる群れ。B、C、Dなど残りのポッドがBサブクラン。独特の方言を使っている。

 私はコールが聞こえて来るまでラボで待機させられることになった。モモちゃんとゆみちゃんがお昼にサンドイッチを作って来てくれた。スティーブのレシピを再現した「グリルチーズサンド」。しかし何故か、応用編としてゆで卵、マヨネーズ、ケチャップが加えられている…。ただでさえ大量のチーズを挟み、バターで揚げるように焼いてあるのに、これはけっこうカロリー的には爆弾サンドだ…。
 後で問いつめると、モモちゃんとゆみちゃんは、案の定自分の分はチーズ少なめに入れたらしかった。太る時は3人一緒だと誓ったのに!!・゚・(ノД`;)・゚・

 夕方頃、ようやくCsとDsは水中マイクのエリアに入って来た。しかし、ジョンストン海峡を通過するボートの音があまりにもひどく、彼らのコールはとても聞き取りにくかった。
  今日はメインハウスでのディナーがなかったので、私たちは再びお得意の野菜スープを作り、たっぷり食べた。CsとDsはラビングビーチに少し立ち寄り、そのまま暗い東の海へと消えて行った。
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7月19日

 今日も続く、ひどい雨。
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 そのせいかラボでインターネットが繋がらなくなった。ヘレナに聞くと、経由地点のCPで故障しているから、そこを直すまでは接続は不可能で、オルカライブのコメントすらダイアルアップでしか書き込めないという。

 昨日のディナーの時メインハウスへ入ると、暖炉で暖められた部屋、できたての料理のいい匂いと共に、なんだかイイ感じのゆったりとした音楽が流れていた。
 ヘレナに尋ねると、アンドリューのニュー・アルバムらしい。今回ゲストで来ているアンドリューは、NYのバンドで作詞作曲とギターを担当している。とてもおしゃべりで、いい年のおじさんなのにひとりでは居られないらしく、寂しくなるとすぐ私たちのところへ来るのだが、忙しくてかまってあげられない時、「コレで遊んでて」とギタレレを手渡すと、こっちが冷や汗を流すくらいのブルースが聞こえて来た。半分オモチャだと思っていた自分の楽器から、まさかこんな音が出るとは思わなかった…。

 アンドリューの滞在期間は1週間。その間に、タダでギターのレッスンをしてくれるという。何でも好きな曲を選べというので、私は絶え間なく天井のガラスに当たる雨を見て「『雨にぬれても』がいい」と言った。ヘレナが「すてきな選曲ね」と言って、アンドリューと共にその映画の話を始めた。(でも私の頭の中では健サマのパンクヴァージョンが流れていた)。

 というわけで、今朝から雨で全く外に出られない私たちが、ラボに集まって寒さにブルブル震えていたとき、アンドリューが暇をもてあましてやってきたので、さっそくギターのレッスンをしてもらうことになった。
 アンドリューはギタレレを受け取り、ちらほらと「雨にぬれても」を弾きはじめたが、
「この曲は変わったコードが多くて初心者はつらいかもしれない、まずボブディランを練習しなさい」と言って、紙にさらさらとコードと歌詞を書いてくれた。
 レッスンはいつしかボブディランからチャック・ベリーに移り変わり、それまで簡単なコードしか押さえられなかった私はちょっとレベルアッブした…ような気がした。
 そして、メルはもういないけど、やっぱりハンソン島にはギタリストが必要だなぁと思った。そのへんのデッキとか海岸で、音があるのとないのとでは全然違う。日本に帰ったらちゃんと習おうか、来年誰かを連れてこようか…。

 外に出られないから、ログブックのスキャンくらいしか仕事がない。雨がたっぷり降り、水の心配もなくなったので、久しぶりに真水の温かいシャワーが浴びられることになった。ヒデさんがサウナに火を入れた。サウナの中には川から引いた水を温めるタンクがあり、シャワーへと繋がっている。私たちは順番にシャワーを浴び、メインハウスへ行ってディナーのためテーブルのセッティングを手伝った。

 今夜のメインディッシュはミートローフ。めずらしく、お肉が登場した。ここの島に来る人はベジタリアンが多いから、自然と野菜中心のメニューになってしまうが、今回は全員がお肉を食べられる。9人で食卓を囲み、お皿を回しながら料理を取り分けて、グラスを掲げて雨に乾杯!めったに出ない肉料理でも、ヘレナの腕は確かだった。食べきってしまうのが惜しいくらい、とびきり美味しいミートローフだった。

雨の中カサをさしてボートを岸へつけるポール
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 オルカたちは北へ行ったまま。私が先にラボに戻り、寝る準備をしていると、ゆみちゃんが笑ってヒーヒー言いながらやってきた。
 聞けば、まずバスハウスの中に設置されているサウナにヒデさんが入っていたらしい。モモちゃんは置き忘れたカメラを取りに行くためバスハウスへ向かったが、忘れものを取るだけだったのであえて電気はつけず、懐中電灯だけで中に入った。そこへ、ヒデさんがサウナから出て来たので、何も考えず、何も言わずに真っ暗な中に突っ立ってその様子を見ていた。タイミングが悪いことに、ヒデさんはサウナの中で暖まっている間、昔読んだ遊女の怪談を思い出して少し怖い気持ちになっていたらしい。電気をつけて、振り向くとそこにはたったいま思い描いていた、女の生首が浮かんでいた。

「おわーっ!!」
 ヒデさんの叫び声はバスハウスの外まで響き渡り、森を歩いていたゆみちゃんを驚かせたが、もっと驚いたのは、至近距離で突然叫ばれたモモちゃんだった。ゆみちゃんが「何事か」と思いバスハウスに駆け込んだ時には、ヒデさんは恐怖のあまり硬直し、モモちゃんは叫ばれた驚きとおかしさで、笑いながら床にうずくまって動けなくなっていたという。

 ヒデさんは悪夢を見ずに寝られるだろうか。そんなことはさておき、私たちは寝る前に、モモちゃんとジョン・フォードさん(とても有名なオルカ研究者と「同姓同名」のDJさん)のツーショット写真を見て爆笑し、さらにお互いのバカな友人たちの写真を見せ合って爆笑し(うちの可愛い手下ちゃんたち、もし見てるならあんたらのコトだよ!)、笑い疲れて、楽しい気持ちのまま眠りについた。
 いつしか雨が止み、空には久しぶりの星がまたたいていた。
2007-07-26 : 未分類 : コメント : 0 : トラックバック : 0
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7月18日

 私とモモちゃんはワンピースの読みすぎで「今日から海賊になる!」と宣言し、ヒデさんとゆみちゃんにとっても白い目で見られつつ、キャンプキッチンで「今日のお昼は海賊サンドだ」とかなりサムいことを言いながら、まな板も使わず食事用のナイフでぐちゃっとむりやり切った野菜をパンにつめて、立ったまま豪快に、余ったトマトにかぶりついていると、そこにテレビカメラが通った。

 Σ(゚口゚;

 これは、よりによって1番ヤバいところを見られてしまった…。映像だけなら「次の仕事が控えているので、立ったまま急いで食事をするアシスタント」で済むかもしれないが、音声が入っていたらおしまいだ!!「アシスタントたちの普段の生活」と称してこんな映像を流されたのではたまったものではない。
 しかし、カメラマンは微妙な表情をしながら「ハァイ」とひと言で目をそらし、そそくさと海岸へ行ってしまった。その後についてきたおばさんが「BC生態保護区管理の者ですけど、ハンソン島の自然を撮らせてもらいますね」と挨拶して来た。どうやら、まだ録画はしていないようだった…。

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 テレビカメラは海岸でポールのインタビューを撮り、イメージショットとして手をつなぐポールとヘレナを撮影し、その後ラボに行ってポールが仕事をする様子を撮影し、夕方頃ようやく帰って行った。ヘレナが「もうラボに戻っていいわよ」と言いに来てくれたので、音声番の私はラボへ直行、ゆみちゃんとモモちゃんはまき割りへ走ってくれた。

着火材の杉を細かく割るモモちゃん
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 曇り空が黒っぽく変化し、雨がざあざあ降って来た。7月の初めまでは本当に干からびていたから、これでちょっとは森も潤い、きのこも生えて来るだろう。

 ディナー後、午後10時過ぎ、とうとうA12sが水中マイクのエリアに帰って来た。私は飛び上がって飲んでいたコーヒーを置き、強い雨の中ラボに走った。
 コールはラビングビーチの水中マイクからだった。モモちゃんとゆみちゃんが皿洗いを終えてラボに来てくれたので、録音機会がなかなかないゆみちゃんに、このセッションを担当してもらうことにした。

 オルカたちは西へと進み、いったんコールをやめたので私たちは録音を止めて寝袋にもぐり込んだが、また1時間後くらいに鳴き出した。そして、オルカラボの前を通過して、北へと向かった。ラボ寄りに通ってくれたので、強い雨の中でも彼らの呼吸音が確認できた。コールは3時半頃ようやく北の海へと消えた。
 雨が、ずっとラボの屋根を叩いていた。
2007-07-26 : 未分類 : コメント : 0 : トラックバック : 1
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7月17日

 4時50分にA12sは鳴きはじめた。目覚ましが鳴る、10分前。全員が飛び起きてラボに集合した。スティーブ、ジェニファーとのお別れの時間まで、あと少し。

 いったん鳴き声が少なくなったので録音を放置して、みんなの荷物をボートへ運ぶ。ちゃんと5時に起きて来たジェニファーに、昨日みんなで書いた「思い出をありがとう」カードを渡すと、まだ9歳の彼女は泣いてしまった。お父さんのスティーブが彼女の頭をなでながら、かわりに私たちにお礼を言ってくれた。

 まだ薄暗い空、ヘレナがゲストたちの朝ご飯のために、コーヒーの入ったポットとシナモンロールをバスケットにつめて、ボートに乗せる。
 ゲストたちが次々とボートに乗り込む。私はそろそろ時間だなと思って、ジェニファーと抱擁を交わした。フットワークが軽く、きっと誰よりも働いたジェニファー。ヘレナの料理を手伝い、ソーラーパネルを組み立て、デッキを掃いて、床下にもぐってケーブルを引っぱり、そして誰よりもハンソン島の緑の中を走り回った。
 その年齢でハンソン島に2週間滞在し、わけのわからない日本人たちと友達になり、自然のままに生きるオルカの姿を見た気持ちはどんなものだっただろう。でもきっと、とても楽しんでくれたに違いない。ここを離れるのが悲しくて、泣いているのだから。

 ボートは私たちの大切な友達を乗せて、朝の光の中に消えて行った。
 私たちは北へ進むボートが完全に見えなくなるまで、何度も何度も手を振った。
 …あ、そういや、まだ録音してたんだったっけ。

今日は霧。山が浮いてるみたい。
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 ラボに戻ると、モモちゃんが「二度寝しようよ!」と叫んで、誰よりも先に寝袋に飛び込んでしまった。ゆみちゃんはまだひとりでの録音は不安…なので、私が「(ノω・、) ウゥ・・・」と苦しみつつ結局昼の12時まで録音。ごはんを食べると寝なおすのも面倒になり、オルカも西へ消えたっぽいので、みんなでゲストハウスの掃除をした。全てのベッドのシーツを引きはがし、テントからマットを運び出し、じゅうたんにこびりついた落ち葉を掃いて、2時間近くかかって掃除終了。
 そして私たちは、ゲストハウスの冷蔵庫の中に、昨日のゲストが置いて行ったビールを発見してしまった。

「働いたから、いいよね?」
みんなでわーいわーいとキャンプキッチンに移動して、冷えた缶ビールをブシュッと開ける。ただひとりお酒を飲まないゆみちゃんが、スティーブにもらったウィンナーやハムを炒めて、マスタードとケチャップを持って来てくれた。ヒデさん、モモちゃん、私の3人組は有頂天で、まっ昼間からのタダ酒を楽しんだ。

ゆみちゃんに料理させといて乾杯するヒデさんとモモちゃん
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 私は突然、はっと我に返って時計を見た。午後2時。そういえばポールに「2時から3時の間に電話するから絶対メインハウスにいるように」と言われていた。
 メインハウスヘ走る。雨が降って来た。玄関でふてくされていたリオを中に招き入れ、しとしと降る雨を見ながらまっていると、電話が鳴った。
 しかしそれはこの間の取材陣のマイケルからだった。緊急連絡事項だったので、こりゃまずいと思ってマイケルの携帯番号を教えてもらい、ポールにかけなおしてもらうことにした。冷や汗が出たが、ポールの携帯は壊れていて、こちらから連絡はとれない。
 座ろうとするとまた電話が鳴った。ベテランアシスタントのフィオナからだった。今日、バンクーバー島でポールとヘレナに合流し、ラボに来る予定になっていたのに、乗るはずのフェリーを逃してしまったらしい。
 フィオナは今回10日間しかいられないのに、今日を逃したら次のタウンランは1週間後。どうなるんだろうと思って私は真っ青になった。フィオナは携帯を持っていないので、ポールから電話がかかって来たらどうすればいいのか確認するから、またあとでラボにかけてね、と伝えて電話を切った。
 オルカたちはコールをやめたまま、どこにいるかわからない。知らないうちにラボ前を通過していたりしてら後でこっぴどく叱られるから、ラボ組は録音待機と監視で動けない。すっかり精神的に疲れてしまった…。

 3時過ぎになって「遅れてごめん、アーッハッハッ」とようやくポールから電話がかかってきた。あんなに心配したにもかかわらず、ポールは外出先から留守番電話を聞き、マイケルにも連絡し、ナナイモまで車を飛ばしてフィオナと合流したそうだった。しかしこっちへ帰る最終フェリーに間に合うかどうかわからないので、帰れないようであればまた電話するとのこと。なかなか、安心できない…。

 電話を切り、メインハウスから出ようとすると、再び電話が鳴った。ポール、何か伝え忘れたことがあったのだろうか。
「ハロー、アンドリューだけど、ポールかヘレナの携帯番号わかる?」
それは今夜来るはずになっていたゲストのミュージシャン、アンドリューからだった!もうテレグラフコーブに着いてしまって、ポールとヘレナが帰って来るまで6時間待つのはキツイので、そのへんの漁船に乗せてもらってラボに来ると言う。
「でも今ポールとは連絡とれないし、テレグラフコーブに寄って『アンドリューがいない!』ってなると大変だよ」と私は伝えたが、
「まあ何とかなるだろう。とりあえず行くから!」とお気楽なアンドリュー。
いいのかこれで…。

 お湯に浸かってビールを飲む計画をしていたヒデさんが、海水風呂を焚いてくれた。私たちは順番に入る予定になっていたのに、夜10時に来るはずだったアンドリューが今来ることになったので、容赦なく予定変更。デッキを掃き、ゲストであるアンドリューの夕飯をどうすればいのか相談し、心労でそのへんにぱたぱたと倒れた。
 アンドリューは夕方頃やってきた。私たちは疲れた顔をシャキッと修正して岩場へ迎えに行き、私とヒデさんは「2年ぶりだね!!」と彼と握手した。

 アンドリューをゲストハウスへ案内し、今日寝る場所を確認してもらい、メインハウスに移動してリラックスしてもらっている間に私たちはディナーの準備。昨日の残りのパスタソースを温め、サラダを作り、ヘレナが昨日焼いてくれたパンをスライスし、スパゲティを茹でてパルメザンチーズとドレッシングを用意する。けっこうな量ができたので、浜辺で作業していたカートも呼び、みんなで食卓を囲んだ。

 7時頃、白髪白ひげの巨大なおじさんが電話を借りにメインハウスへやってきた。とても怖かったが、ポールから来ることは聞かされていたし、カートや仙人ウォーラスとも友人らしいので、招き入れてディナーを振る舞う。
 白いおじさんは1時間以上電話していた。しかも深刻な話らしく、会話は聞き取れなかったけど徐々に表情が険しくなり、私たちはほんと恐怖で泣きそうになった。途中、ウオッチングボートのルークワから無線で「A12sが北のブラックフィッシュ・サウンドにいる。オルカラボの方へ行くかも」との連絡が入り、私はラボへと逃げ出した。しかし、A12sは黙ったまま、ウェイントン・パスの方へ方向を変えたようだった。

 ディナーの片付けも終わり、みんなはメインハウスを脱出。そしてポールとヘレナが帰って来る前に、と急いで交代でお風呂に入った。
 ザトウクジラがラボの前を通過していた。海が静かすぎて、まるで恐竜が吠えているかのような呼吸音が響き渡っていた。

 予定通り10時頃、ようやくポールとヘレナ、そしてフィオナがやってきた。鳥目の私には完全にアウトの時刻。懐中電灯で岩場を照らしながら、荷物を積み下ろす。久しぶりに会うフィオナと抱擁を交わし、メインハウスへ荷物を運び入れ、「実は、アンドリューがもう来てる」と言うと、ポール、ヘレナ、フィオナの3人はびっくり。やはりテレグラフコーブで手分けして、どこにもいない彼をずっと探していたらしい。
 ようやく私たちは無罪放免。上機嫌のポールに「どんな1日だった?」と聞かれ、「た、楽しかった…」と何とか答え、ラボに戻り、倒れようとすると、スピーカーからコールが。

 泣きそうになりながら録音開始。でも私は早朝から寝なおしていなかったので、たっぷり寝たモモちゃんが「私がやるよ!」とかわりに録音に入ってくれた。天使に見えた…。
 ウェイントン・パスを通過してジョンストン海峡に入ったA12sは、ぽつりぽつりと鳴き声を発しながら、暗く静かな東の海へと進んで行った。
2007-07-19 : 未分類 : コメント : 3 : トラックバック : 0
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7月16日

 午前3時、私は寝袋から飛び出て1階へ降りると、DATの電源を入れた。録音スタート。A12sのコールが北のFIの水中マイクから聞こえている。いよいよ、ハッスルばあちゃんの暴走が始まった。

 A12sはこの海域のオルカたちの中でも、非常に興味深い家族だ。
 家族の長のハッスルばあちゃん、A12さんは、この海域のオルカたちの仕切り役。他の群れより少し早くジョンストン海峡に入り、今年の環境を確認し、他の群れを北へ迎えに行き、その群れが北へ帰るときは見送りに行く。
 他の群れがいないときは、ジョンストン海峡でリラックスしながら家族での時間を過ごしている。しかし、ここからが問題だ…ハッスルばあちゃんA12は、66歳でひ孫もいる身であるにもかかわらず、どのオルカよりもパワフルでたくましい。いつも群れの先頭にたち、どこが目的地なのかわからないが、まっしぐらに突き進んで行く。ばあちゃんの息子のA33はそんな母親をあわてて追いかけ、そのあとに娘の家族がゆっくり泳いで行く。娘家族は小さな赤ちゃんもいてスピードが上がらないので、息子はばあちゃんに追いついて時折引き止め、みんなが追いつくのを待たなければならない。

 A12sはオルカラボの前を2時間かけて通過し、デッキでブロー(呼吸音)の数を数えていたモモちゃんとゆみちゃんを凍えさせた。どう考えてもふたりに休んでもらわなくてはならない状況だったので、8時前まで私はぶっ続けで録音した。A12sはラビングビーチ沖を通過して、いったん水中マイクのエリアから消えた。

 仮眠しようかと思ったけど、なかなか眠りにつけない。
 何か食べようとキャンプキッチンの方へ歩いて行くと、ヘレナとジェニファーが、ゲストハウスのデッキにあるテントでベッドメイキングをしていた。今夜ひと晩だけ、友人家族が泊まりに来るらしい。状況を見てしまったものは仕方がないので、そのまま手伝いに入る。テントの中を掃き、マットレスを入れ、シーツをかけ、ふとんをかけ、まくらを置いて、ランプを置いて、お花を飾ってできあがり。
 空気を読んでくれたスティーブが、はらぺこの私たちのためにまたランチを作ってくれた。

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 A12sは全く鳴き声を出さずに、水中マイクのエリアに戻って来た。でもいつ鳴くかわからないので、ヒデさんにラボのデッキで水中マイクの音を聴いていてもらい、私たちはそのままゲストハウスの準備を続けた。
 午後3時前、彼らがターン・ポイント沖にいるとの情報をヘレナが持って来てくれたので、ゲストハウスから、ラボのデッキにいるヒデさんを呼んだ。
「ひでさーん、ひでさーん」
2回、名前を呼んだが何の反応もない。仕事を押し付けられると思って、自分の名前には反応しないのだろうか。
「あ、1億円落ちてる」
やはり、何の反応もない。うーん、現実味がない金額ではだめなのか。
「あ、500円落ちてる」
…ヒデさん、こっちを見た。

 8人のゲストも無事到着。夕方からはモモちゃんが録音に入ってくれた。オルカたちはターン・ポイントから東へと進み、ラビングビーチ沖で方向を変えてまた西へと進んで来た。

 今夜は、スティーブとジェニファーの最終日。ディナーは豪華で、デザートのパイには生クリームがかかっていた。ちょうどみんながデザートを食べ終えた頃、ピンク色の空の下、A12sはオルカラボの前に現れた。オンタリオに帰る2人に挨拶をするかのように、オルカたちは何度も水面に顔を出したり、胸びれを水面に出してパタパタと振ったりした。

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 スティーブとジェニファー、8人のゲスト、そして彼らを送って行くポールとヘレナは明日の朝5時半にハンソン島を出発する。A12sのコールは10時過ぎには途切れた。私たちはディナーの片付けをし、5時に目覚ましをセットして日付が変わる前に寝袋にもぐり込んだ。ゲストハウスのテントの中から、ゲストの子供たちがはしゃぐ声がいつまでも聞こえていた。
2007-07-18 : 未分類 : コメント : 0 : トラックバック : 0
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7月15日

 しとしと降り続く雨。
 朝、北のFIの水中マイクからイルカの鳴き声が聞こえていた。オルカたちは北へ消えたまま。濃い霧がブラックニー・パスを包んでいる。
 今日はスプリンガー・リユニオンのグループがオルカラボ見学に来る日だ。ヘレナが「早く片付けなさい!!」と血相変えてラボに飛び込んで来たので、私はあわててイルカの声の録音をやめ、自分の荷物を2階に上げて、機材の前や後ろに投げ出されたコードをまとめ、小さなほうきでほこりを掃いた。
 ジェニファーがはしゃぎながらラボに走って来たので、彼女を仲間に加え、モモちゃん、ゆみちゃんと手分けしつつデッキをきれいに掃く。雨が強くなって来た午前10時過ぎ、23人のお客さんを乗せたボートがオルカラボにやってきた。

 ふだん街で暮らしているお客さんたちは、すべりやすい岩場に慣れていないので、私たちアシスタントとジェニファーが岩の上で出迎えて、ひとりひとりの手をとって上陸してもらった。いつのまにかどしゃ降りになっていた。
 長く晴れの日が続き、水を引く小川すら枯れていたのに、こんな数のお客さんが来るときに限って大雨とは…。こんなに降ったのは、ハンソン島に入る前、みんなで食料の買い出しをして、スーパーからボートへ荷物を運び、すべての食料をびしょ濡れにさせた時以来だった。

 スプリンガー・リユニオンの23人のゲストは2組にわかれ、一方は千年杉まで散歩、もう一方はラボの簡単な説明を聞くことになり、私、ヒデさん、ジェニファーは千年杉ツアー組の道案内をした。途中、別のボートで来た研究者のランスも合流。みんなで楽しくおしゃべりをしながら、ちょっとしたハイキングを楽しんだ。
 
 ラボに戻ってくると本格的な説明が始まったので、私とジェニファーは2階に避難し、モモちゃん、ゆみちゃんと合流。お客さんが帰ってしまうまで、変な絵を描いたり、お互いの顔にシールを貼り合ったりして、必死に笑いをこらえながら隠れていた。
 午後になってようやく見学が終わり、お客さんたちは無事にボートに乗り込み、オルカラボを後にした。彼らと同時に、昨夜ここに1泊した「グッドモーニングアメリカ」の取材陣も、ポールに送られてラボを出た。すごく楽しい人たちだったので、ちょっと寂しかった。

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 オルカたちは北に行ったままだった。私たちはラボの2階で集合し、スティーブやジェニファーと一緒にLeo Kottke(スティーブが大好きなギタリスト)のライブビデオを楽しみ、ハンソン島のギタリスト、メルが作った「ハンソン島のうた」を聴いて夕方のひとときを過ごした。

 23人ものお客さんの相手でヘレナは相当疲れたらしく、メインハウスでのディナーはなし。料理ができるゆみちゃんとヒデさんがカレーを作り、スティーブ、ジェニファーも招いてキャンプキッチンで楽しい食事をした。食事の後はゲストハウスに移動して、みんなでトランプ。

ババ抜きで残されたふたり。
ジェニファーからジョーカーを引くヒデさん
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 私たちは今日はできるだけ仕事を控えて、できるだけこの素敵な親子と同じ時間を過ごそうとしていた。2週間もの間、家族のように小さな敷地内で一緒に笑って暮らしたけれど、明後日の早朝には彼らは、3時間も時差のあるオンタリオに帰ってしまうから。
2007-07-17 : 未分類 : コメント : 0 : トラックバック : 0
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7月14日

 朝、時計を見てびっくり。8時半だ。特に起きる時間は決められていないけど、ラボでこんなに寝てしまうと、何かに遅刻したみたいな気分になってしまう。
 頭でそう思ってはいても、昨日の(精神的)疲れがどっと出たのか、身体は簡単に起き上がれなかった。寝袋から出て、寝転がったままモモちゃんと「起き上がれないね~」って喋っていると、突然枕元のスピーカーからカカカカカカカカッ、と歯切れのいい音がした。大変!!オルカが帰って来た!!

 飛び起きて1階へ転げ落ち、打った足をさすりながらラボへ駆け込む。録音スタート。東から戻って来たオルカたちがエコロケーションを使って魚を探している。久しぶりに朝から仕事モードだ。ヘレナがラボに走って来た。無線でちょうど「オルカたちがロブソンバイトに来たよ」と言われたそのときに、エコロケーションの音がスピーカーから聞こえて来て笑ったらしい。

 オルカたちは西のブリンクホーンから東はロブソンバイトまで、海峡中にぐちゃーっと広がり、入り乱れて好き勝手なことをして楽しんでいた。ウオッチングボートたちはきっと涙を流して喜んだだろう。7月2日にサザン・レジデントが通過して以来、時折出るトランジェントくらいしか、ろくにオルカの姿をみることはできなかったのだから。

 そういえば今日は、大事なイベントの続きがあった。そう、スプリンガー5周年記念。アメリカで迷子になっていた彼女を、人間が故郷のカナダまで連れてきたのは5年前の7月13日。そして、仲間のオルカたちが迎えに来て、いけすから解放され、野生のオルカとして彼らのもとへ泳いで行ったのが5年前の7月14日だった。当時2歳だった赤ちゃんオルカ、スプリンガーが、人間の手から暖かい仲間の手へ受け渡された日だった。あれから5年、仲間のオルカたちはお母さんを失った彼女を大切に育ててくれた。そしてスプリンガーは今年も無事に、大好きな新しい家族と共に、ジョンストン海峡へ帰って来た。

 スプリンガー・リユニオンのグループのホエールウオッチングは午後2時、CPより少し西に位置するテレグラフコープ発だった。それを知ってか知らずか、スプリンガーを含むA11sの家族は、バンクーバー島側を西へと進み、2時前にはCPの水中マイクのエリアへ。3日前まで情報もなく、このエリアで姿を見られたのは今日がシーズン初だったというのに、まるで5周年記念イベントのために挨拶しに来たようなその姿に、みんなびっくり、喜んだに違いない。ハンソン島周辺では、時々このように説明のつかないようなことが起こる。

 オルカたちはいったん東へ戻り、スプリンガーはロブソンバイトまで進んだが、方向を変えてゆっくりと西へと進んで来た。最初にオルカラボの前に現れたのはA8sとA35sのミックス・グループだった。その後をハッスルばあちゃんA12とその息子A33が、彼らから少し遅れて美少年A55を含むA34sが、いちばん最後にスプリンガーを含むA11sが、対岸ぞいに、ホエールウオッチングボートのギクミに付き添われて、やってきた。

「美少年」A55
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向こう岸ぞいだったので…遠くてごめんなさい
A11sとスプリンガー(右)
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 いつもスプリンガーの面倒を見てくれていたA11sのA56の横には、小さな赤ちゃんが泳いでいた。シーズン前、A11に赤ちゃんが生まれたとの情報を私たちはもらっていたけれど、A11に生まれた赤ちゃんが死んでしまって、そのあとA56に生まれたのか、それともその赤ちゃんはもともとA56の子だったのか、真相はわからない。でも、赤ちゃんはぴったりA56に寄り添って、泳いでいた。スプリンガーは、ちょっとだけお姉さんになった。

 彼らはゆっくりゆっくり、時間をかけてブラックニー・パスを進んだ。北の海に消えて行ってからも、ボートノイズが少なかったので、ずいぶん長い間彼らのコールは聞こえていた。私たちはシャンパンで乾杯した。久しぶりの雨がハンソン島を濡らした。恵みの雨だった。

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2007-07-16 : 未分類 : コメント : 4 : トラックバック : 0
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7月13日

 今日はタウンランの日。
 朝起きて、たまった洗濯物をまとめ、ラボやキャンプキッチンのゴミを集めて、博士のボート、ジューン・コーブに乗せる。2週間ぶりの買い出し・洗濯の日なので、荷物の量がすごい。人間が乗る場所もあやういくらいだ。

 ポールに言われて私とヒデさんがタウンランに行くことになった。タウンランの帰りに、スプリンガーの5周年記念イベントがあるかららしい。確かに私たちは5年前の今日、あの場所にいた。母親を亡くして迷子になり、アメリカまで泳いで行った2歳の赤ちゃんオルカ「スプリンガー」が、人間の手でオルカラボの隣の入り江、ドンチョンベイに運ばれ、故郷の海へ戻ったその瞬間に。

 モモちゃんとゆみちゃんの買い物リストを預かり、街のポストに投函する手紙をまとめ、ラボの2階のシーツやまくらカバーも引きはがして新しいものに替え、一緒に行くジェニファーにライフジャケットを着せて、準備完了。
 タウンランの準備中にトランジェントのT14がオルカラボの前を通過した。…ただし、彼は今回はひとりではなかった。いつもたったひとりでバンクーバー島のまわりを黙って左廻りに泳ぎ、孤独を背負って生きる、男らしいT14。レジデントのオスだったら、お母さんが死んだ時点で、寂しくてごはんも食べられず自分も死んでしまうところだ。ファンの人は悲しむだろうけど、一緒にいた3頭のうちの誰かは、T14の恋の相手かもしれない…。

 ポールの用意ができるまで、デッキでみんなで待っていると、うしろの木の枝に何かドサッと落ちる音がした。鳥…にしては、重い。もし鳥だとしたら、かなり太っているに違いない。おそるおそる後ろを振り返ると、そこにいた青い生物と目が合った。

「ギャー、ギャー!」

 さ、咲さん…(´Д`;)

 年々、貫禄が増しているステラーズ・ジェイの咲。今年も羽が生え変わる時期でぼろぼろになったままでの登場だったが、やはり私との距離は変わらない。近づくと逃げ、離れると近づく。無視するとギャーと叫び、話かけると何かチュクチュクと答える。野生の鳥なのに、ある意味私のペットであり、ハンソン島での大事な友達。
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 ポールとヘレナ、ゲストのスティーブとジェニファー、大工さんのカート、そしてアシスタントの私とヒデさんを乗せて、ジューン・コーブはオルカラボを出発。留守番のモモちゃんとゆみちゃんが、ラボのデッキから手を振っていた。

 ジューン・コーブがアラートベイに到着すると、ポールが駐車場に停めてあったクルマを持って来た。昨年末涙のお別れをした古いレガシィの代わりにやってきた新車は、またしても日本車、スバルのフォレスターだ。 
 車に洗濯物を詰め込み、ポールとヘレナはコインランドリーへ向かう。その間に私たちは食料の買い出し。次のタウンランはまた2週間後、26日予定とのことなので、安さを優先させつつ、日持ちしそうな食料をできるだけたくさん買い込む。
 アシスタントが少ないので、買い出しはあっという間に終わった。後はスプリンガー・りユニオン・パーティが開催されるテレグラフコーブへ行くまでの2時間近く、ポールを待つだけだ。

 私とヒデさんは打ち合わせをした。今までにテレグラフコーブへは何度も連れて行ってもらったことがある。リゾートであるテレグラフコーブのパブ、食べ物の値段はひと皿15ドル~20ドルくらいだろう。おそらく自腹だ。ビールも飲もうと思ったら、大変なことになる。1週間分の生活費約20ドルで暮らしている私たち貧乏アシスタントにとっては、かなりきびしい。
 私たちはアラートベイでハンバーガーを食べることにした。出費をできるだけ抑えるために、野菜もチーズも、ピクルスすら入らないプレーン・バーガーと缶ジュースを注文した。ここでお腹いっぱいにしておけば、テレグラフコーブでおつまみしか食べられなくても、ひもじい思いをすることはないだろう。

 ヘレナがいたおかげだろうか、めずらしくポールは時間通りにボートに戻って来た。みんなでスプリンガー・リユニオン・パーティに出発!!

 テレグラフコーブに到着すると、そこにはポールとヘレナの友人である取材陣がいた。デッキには大勢の見知らぬ団体の人たちが楽しそうに会話している。スタッブスアイランド・ホエールウォッチング社のジムさんとメアリーさんが出て来て私たちを出迎えてくれた。
会場のパブには「プライベートパーティにつき本日貸し切り、スプリンガーリユニオン」の張り紙。なんだかとても緊張する…。

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 スプリンガーが故郷の海に戻って来た5周年のパーティだということで、私はジョンやグラエムみたいな研究者やプロジェクトを手伝っていた各ウオッチングボートの人たちが集まっているのだとばかり思っていたが、会場は本当に知らない人だらけだった。一緒に会場入りしたポールとヘレナは、もちろん有名人なのですぐにたくさんの人に囲まれた。私はやっと当時の関係者、研究者のランスを見つけ、ちょこっとだけ話したが、もちろん彼も有名な研究者なので、次々といろんな人が挨拶しに来て会話どころではなくなった。
 会場入りしたいろんな団体の人はみんなそれぞれビールやカクテルを飲んでいた。ビールは東京ドームの生ビールぐらい高いし、ディナーに至ってはひと皿24ドルだった。私とヒデさんは冷や汗を流しその場に立ち尽くした。やばい、ここは自分たちが来るところではなかった。金持ちの巣窟だ…!

 あまりにも居心地が悪いので、いったんパブの外に飛び出る。ちょうど、外のくじらの骨博物館に寄っていたスティーブとジェニファーがやってきた。
「ビールをおごるよ、行こう」
 私たちの居心地の悪さを察したのか、スティーブが中へと誘ってくれた。ああ、なんていいゲストなんだろう…・゚・(ノД`;)・゚・
 私とヒデさんはスティーブにおごってもらったビールを飲みながら、他の人たちが食事するのを見ていた。今日のために用意されたメインディッシュは紅鮭だった。

 「スプリンガーリユニオン」のグループは翌日2時からホエールウオッチングを楽しみ、そのまた翌日、日曜日にはオルカラボ見学にやってくるという。
 午後9時半、ラボに滞在する取材陣を仲間に加えて、ジューン・コーブはモモちゃんとゆみちゃんの待つオルカラボへと向かった。暗くなる空を薄い霧が包もうとしていた。
2007-07-15 : 未分類 : コメント : 2 : トラックバック : 0
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7月12日

 午前1時過ぎにトイレに行きたくて目が覚めた。ラボから森の中のトイレに向かおうと、ディアーネット(ガーデンのやわらかい葉を食べにくるシカ対策用の網)をくぐり抜けようとすると………Σ(゚Д゚ノ)ノ おおぉぉぉぉ~上がったままだ!!
 さ、最悪。昨日の夜、ラボに戻って寝た時間がとても早かったから、寝る前に網を下ろすのを忘れてしまった。シカに入られていたらどうしよう?ヘレナに怒られる…。

 急いで網を下ろし、懐中電灯で庭中をチェックする。お花のエリア、野菜のエリア、ハーブのエリア、りんごの木…。焦ったけど、何とか無事らしい。でも、暗い中でのシカ探し、被害状況確認だったので、狭い庭とは言えど30分以上かかってしまった。貴重な睡眠時間を…。でもどう考えても悪いのは自分だ。ラボに戻ろうとすると、海からトドやミンククジラらしい呼吸音がたくさん聞こえていたが、本当に眠かったので、無視。
 時刻は2時前。枕元のスピーカーから流れてくるボートノイズを聞きながら、寝袋にもぐり込んだ。

 キュゥィーッ。

 あわてて枕元にあるはずの懐中電灯を探す。さっきどこへ置いたっけ。見つからない。変な汗が出てくる。懐中電灯はあきらめて1階へ飛び降りる。録音スタート。ようやくラボの明かりをつけることができた。時計を確認すると、午前3時前。あ~、あれから1時間しか寝られなかった…。
 スピーカーから聞こえて来たのは、Rsと呼ばれる群れの鳴き声だった。2階で寝ていたモモちゃんとゆみちゃんを起こし、ヘレナに伝えに行ってもらう。

 北からやってきたオルカたちは、オルカラボの前の海を通過。ブラックニー・パスはたくさんの呼吸音でつつまれた。しかし、最初に鳴いていたRsたちは、どうやら北に戻って行ったらしかった。オルカラボの前を通過した群れは、ジョンストン海峡に入って鳴き声をあげた。最初の情報では、こっちに向かっていた大きな群れはRsとA11s、そしてI11sとのことだったが、聞こえて来たのはA12s、(A11sを含む)A4s、A5sという、いわゆる「A12ばあちゃん率いるご一行」だった。もしかしたらI11sも、Rsのように途中で北に戻ったのかもしれない。

 窓の外は徐々に青とオレンジへと色を変え、昇りたてのきゃしゃな月が赤く光っていた。ポールはねまきのガウンを着たまま、何枚も何枚も、移り変わる空の色を写真に収めていた。わたしとヘレナは並んで座り、久しぶりのコールを聴いていた。オルカたちは振り向くこともなく、まっすぐに東へと進んだ。
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 コールがなくなりしばらくしてから仮眠をとったはいいものの、ガラス張りの2階、ものすごく天気が良かったので、暑さで目覚めてしまった。外へ出るとちょうどスティーブが作業しているところだった。
「昨日オルカたちが来た時、ジェニファーは眠くて起きることができなかったんだ。それで朝になってオルカが通り過ぎたことを知って怒っちゃったよ」
 まだ9歳のジェニファーには、夜中3時のオルカはちょっときつかっただろう。ケルプホーンまで吹いてやっと来てもらったのに、それが夜中で、自分も寝ていただなんてかわいそうだった。
 
 私たちは午後スティーブの作業を手伝い、いつものようにまきを割り、メインハウスへと運んだ。ディナーの前に、ジェニファーが、会いたくて会いたくてたまらなかったオルカの絵をテーブルの上に飾ってくれた。子供の絵はどうしてこんなにパワーがあって、かわいくて、暖かいんだろう。あまりにも上手いので「自分にも描いてくれ」と、みんなで絵の奪い合いになった。

ジェニファーが描いてくれた、ケルプの森を泳ぐオルカ
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 ディナーのためのテーブルのセッティングをしていると、ヘレナが私に言った。
「もう一度、ケルプホーンを吹きなさい。スプリンガーの歌も歌いなさい。サーモンの歌も、七夕の願いも。できることは全部やってみましょう」
 ヘレナは、去年母親を亡くし、ボートにまで撥ねられてやせ細り、傷ついたA82のことを心配していた。今回来たオルカたちの中に、A82が属する家族、A35sの鳴き声が混ざっていた可能性が強いので、ウオッチングボート「トゥアン」のジェレッドさんなど、個体識別の信用できる人に確認してほしかったらしい。しかし、オルカたちは東へ行ってしまい、確認するのがむずかしくなってしまった。

 眠る前、水中マイクからちょっとだけザトウクジラの鳴き声らしきものが聞こえた。オルカが留守の間でも、たくさんの生命が海を旅していた。
2007-07-13 : 未分類 : コメント : 0 : トラックバック : 0
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7月11日

 日の出直後の強い光で目覚めた。

 ソーラーパネルの設置工事は終盤にさしかかっている。朝からポールとスティーブが、ソーラーパネルの上にかぶさる木の枝をわさわさ切って、積み上げた。わたしたちはそれをビニールシートに盛って、ちょっとずつ燃料用木材置き場に移動させる。ラボ上の木の枝たちはすっかり切られてしまい、ちょっと寂しくなったが、これでガソリンで動く発電機を使う回数をかなり減らせることになる。

 力仕事でずいぶん汗をかいた。午後1時ごろに満潮になるのをチェックしておいていたので、今日は海で洗髪!冷たいのは相変わらずだけど、天気もいいから、手がしびれないだけマシかな。
 髪もきれいになって、ふぅとひと息ついた私たちの前に、わかめが流れて来た。モモちゃんが「おいしそう」と言って、冷たい海に足を踏み入れて収穫。

穫れたわかめを干すゆみちゃんとモモちゃん
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 少し浜辺で髪を乾かした後、あまりにも暑いのでデッキに移動した。ハンソン島でこんなに暑いと感じることはほとんどない。冷たい海が大気を冷やすから、日本の秋から冬くらいの寒さの中で私たちは過ごしている。でも、日本の夏みたいな今日のこの暑さは何だろう…。
 デッキに出ると、5頭のカワウソがすぐ前の海で戯れていた。全員が海からちょこんと顔を出してこっちを見る姿は、ものすごくかわいい。

ケルプで遊ぶカワウソたち
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 暑いので、涼しいデッキから動くことができずに、そのままストレッチなどを始めていた私たちのもとに、ちょっと嬉しそうなジェニファーが走って来た。
「えーと、えーと…」
なかなか用件を言わない。どうしたのだろう。
「A11s、I11s、それとRsがドイル・アイランドまで来ているんだって」

Σ(゚口゚; オ、オルカ…。

 そういえば、ここ数日のリラックスぶりに慣れきってしまって、ここがオルカラボであることを忘れて幸せな気分でいた。一気に気分が現実に切り替わる。
 地図を引っ張り出して、ジェニファーと一緒にドイル・アイランドの位置を確認。どうやらポートハーディ沖らしい。ということは、このままなら今夜にでも彼らはやってくる。しかも、報告された群れ全てが来たなら50頭以上、しかも全てのクランからということになるので、ちょっとしたスーパーポッドになってしまう。
 私たちは緊急ミーティングをした。

「ゆみちゃん、今晩までにブラックニー・パスの通過ポイントの位置と、どのあたりで何メートル沖になるのか、っていう感覚を完璧にしといて。モモちゃんはレコーディングのやり方を思い出して、カンニングペーパ使っていいからポイスノートも入れられるように。以上でここはひとまず解散、オルカが来るまでしっかり休むこと!」

 しかも、今日はメインハウスでのディナーがなかった。
 私たちはお得意の野菜スープを作り、その中にどさっとパスタを入れて食べた。そして、まだ明るかったが、何も考えずにさっさと寝袋に入ることにした。
 オルカたちの影は、もうそこまで近づいて来ていた。
2007-07-12 : 未分類 : コメント : 3 : トラックバック : 0
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7月10日

 晴れ→霧→晴れ。
 真夜中の月と、朝焼けの色に身震いしてしまってよく寝られなかった。それにしても早朝のゴマフスズメの声は美しすぎる。なんでみんな揃ってこんな歌を歌うようになったんだろう?
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 依然としてレジデント・オルカの情報はない。トランジェントのT60sとT2Bらしき群れがポート・マクニール沖からアラートベイを通過して、ピアス諸島のほうへ進んだようだった。私たちの前の海にはカップルでいちゃつくシー・ライオン(トド)。ヘレナのガーデンには花の蜜を吸うハチドリ。うーん、平和だ…。

 私たちは昨日のデッキのすきま掃除の続きをして、燃料にする流木をたっぷり集め、まきを割って、メインハウスへと運んだ。今年のまき割りはエキスパートがいるので非常に楽だ。それは…今年アシスタント2年目のモモちゃん。

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 去年の7月頃、アシスタントみんなで「来年もこのメンバーで絶対来よう!」とはしゃいでいたとき、モモちゃんは「来年も来るよね?」と聞かれ、何のためらいもなく「ノー」と答えてみんなをびっくりさせた。実は、その時大学4年生だった彼女は、卒業したら自分は就職するものだと思っていた。
 しかし、結局去年の新人アシスタントのうち戻って来たのは、その時「来年は来ない」と答えたモモちゃんだけだった。日本に帰り、大学に戻ってさあ就職先を探さないと、という事態に陥った時、彼女は何の就職活動もできなかったそうだ。日本に帰って初めて、自分がオルカラボにいないことの不自然さに気づいたらしい。

 そんなわけで、卒業後、派遣の仕事で何とかお金をためてきた彼女は、今年もがっつり3ヶ月、ラボのアシスタントとして働くことになった。ポールとヘレナがモモちゃんの「今年も働かせて下さい」メールに歓喜したのは言うまでもない。彼女は(英語だとめんどくさいので)全く文句を言わずよく働き、(かなり味のあるキャラなので)協調性もあってみんなに好かれ、まき割りが誰よりもうまいのだ。

 静岡出身、22歳。好みのタイプは銀魂の銀さん(…)。ハンソン島に来て、人間をとりまく環境と自然の大切さに気づいた。豊かな自然を守り、次の世代へ伝えて行くのが彼女の夢。しかしそのためには、就職はまずあきらめなければならないだろう。活動資金にも困りきっと私と同じような貧乏生活を送ることになる。でも、私たちのような人がどこかにいなけば、何も始まらない。まずは回りの人たちの関心を引くところから…。がんばれ自然系ガールズ!!

 今日のディナーはほうれん草のパイとサンドライ・トマトのパン、じゃがいも、ハンソン島サラダ。太って帰らないためにおかわりをどれだけ我慢するか、で苦しんでいた私たちは、気がつくと2杯目の皿を山盛りにしていた。
 ジェニファーちゃんがデザートにクッキーを焼いてくれていた。私は2枚で我慢したのに、モモちゃんとゆみちゃんは3枚食べていた。今日も星がきれいだった。天の川が広がっていた。
2007-07-12 : 未分類 : コメント : 2 : トラックバック : 0
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7月9日

久しぶりの青空。
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 寝起きの私に、ゆみちゃんが窓の外を指さす。
「ザトウクジラだよ」
 皆でラボの外へ出て、ゆったりと泳ぐ大きなクジラの姿を見送った。

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 昨日ケルプホーンを吹いたのに、オルカはまだ戻って来ていない。すぐには戻ってこられないくらい、遠いところにいるのかもしれない。ヘレナに今年の鮭の様子を尋ねると、
「いっぱいいる、って言う人もいるし、少ない、って言ってる人もいてよくわからないわ。でも、オルカにとっては十分じゃなかったんでしょうね。一度様子を見に来て、出て行ってしまったんだから」とため息をつきながら教えてくれた。

 ゲスト、そしてポールとヘレナには申し訳ないけど…アシスタントの私たちは、これだけの日数オルカがいなくても、あまりせっぱつまっていない。オルカがいないおかげで夜は思う存分寝られるし、近くにいないから気を張ったままでなくてもいい。ザトウクジラはかなりの頻度でラボの前を通過し、イシイルカやトドだってしょっちゅう見られる。実は、かなり幸せだ。オルカを呼ぶには、もっと必死になって心からケルプホーンを吹かなくてはいけなかったのだろうか…。 

 それにしても、素晴らしい天気だった。私たちはラボの窓の汚れをふきとり、ピカピカに磨いた。そしてデッキに出て、3人でぺちゃくちゃ喋りながら落ち葉を掃いたり、デッキのすきまに詰まった葉や松ぼっくりを小枝で取り除いた。その間、ポールは椅子に座って鼻歌をうたいながら日向ぼっこしていた。ヘレナがニコニコ笑いながらやって来て、ポールに麦わら帽子を渡した。
 いつもより、岸近くで舞っていたカモメが鳴き合っていた。カモメの声はちょっと素敵だ。ひと声で3つも音があって、音程の変化がとても艶っぽい。

 今日のディナーは、カートが釣って来た魚だった。カート自らそれをムニエルにしてくれて、特製タルタルソースで頂く。
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 私たちは遠慮して、おかわりする時、魚を半分に切っていたのだが、ヒデさんは誰も見ていないと思ったのか、いちばん大きい切り身をわさっと皿に乗せていた。ゲストがおかわりする前に、アシスタントが食べ尽くしてしまった。

 ディナー後、スティーブがちょっとしたプレゼンテーションをしてくれた。ポールとヘレナが今いちばん心配している、温暖化についてだ。
 温暖化については、ひとりひとりができることはとてもたくさんあるのに、まだまだ多くの人が危機感を身近に抱いていない。きっと、私たちアシスタントと同世代ぐらいだったら、かなりの人が京都議定書が何であるかさえ知らないだろう。でももし、温暖化が進んで海面が2メートル上昇したら、オルカラボは流されてなくなってしまう。

 ハンソン島には電気が来ていないから、ガソリンで動く発電機をメインで使っていた。でも発電機は二酸化炭素を出すから、ソーラーパワーのエンジニアであるスティーブを呼んだ。今年からは街での洗濯のときに乾燥機も使わず、島で何日もかけて乾かしているし、船でガソリンを使う量を減らすために、買い出しの回数もうんと減らしている。慣れれば不便でも何でもない。ちょっとずつでも、できることはたくさんある。

 昨日、ヒデさんが恐い話をしてくれたので、森の中のトイレにひとりで行くことができず、私たち3人娘は連れ立って歯磨き→トイレコースを歩んだ。暗くなるのは遅かったけれど、まだ藍色の空に星がぽつぽつ瞬いていた。
2007-07-10 : 未分類 : コメント : 0 : トラックバック : 0
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7月8日

 見事な曇り空。
 海は穏やかだ。沖でサーモンが跳ねている。起きて時計を見るともう、7時半。いつも6時には起きて電気の残量をチェックしにいかなければならないのに、ソーラーパワーのエンジニアのスティーブが電気の管理をしてくれているのと、オルカがここしばらくいないせいで、すっかり気が抜けてしまっている。

 昨日、ドンチョンベイに行ったとき、海岸にまだ緑色のテントが立っていた。それは、夏になるとハンソン島に来るさすらいのギタリスト、メルのものだった。

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 若い頃は無謀な活動家で、グリーンピースの船に乗っていたり、不思議なきのこを食べて死にかけたりと、ずいぶんとやんちゃをしたらしいが、私が知っている晩年のメルは、いつもどこでも、アコギを抱えて自作のクジラの歌やオオカミの歌を歌っていた。
 夕暮れ時、海からしゃがれ声の歌とギターの音が聞こえて来たら、それは小さなボートに乗って漂っているメルからのものだった。
 一生定職に就かず、お金がなくなれば道へ出て、あの味のある声で2~3時間弾き語り、何日か暮らすぶんのお金を得ていた。好きなときに好きなところへ行き、好きな歌を歌って暮らした。飛び入りでパブのバンドとセッションしたり、キャンプファイヤーを囲んでミニ・ライブをしてくれたこともよくあった。すごく変わった人だったが、皆に愛され、どこへ行っても多くの友達に囲まれていた。
 彼は一昨年、がんで亡くなった。亡くなる半年前、彼の病気のことを知っていたウォッチングボートのナイアッド・エクスプローラが、メルをボートに招待した。4~50頭のオルカたちに囲まれて、彼は嬉し涙を流したそうだ。最高の人生だっただろう。

 いまだ海岸に佇むメルの「ひみつ基地」を見て、ヒデさんが「メルちん、来てるなぁ。ちょっと挨拶してくる…」と言って歩いて行った。私も、お星さまになったとしても、夏になったからどうせメルはまたここに来て、ギターを弾いて歌ってるんだろうなぁと思った。 

 その夜、本当に「ギターの神様」が降りて来たのか、ヒデさんはラボに帰って来てから、ずっとギタレレ(私が日本から持って来た小さなアコースティックギター)を触っていた。

 ハンソン島に来る途中でA8sを見たり、来て早々にA30sとRsのコールを聞いたり、サザン・レジデントに遭遇したりしていた私たちアシスタントは、最初の数日で満足しきってしまっていて、この数日オルカがいなくても、あまり気にせずにとても充実した日々を送っていた。しかし、ゲストのスティーブとジェニファーちゃんは、まだ1度もオルカを見ていない。ヘレナがさすがにそわそわし出した。

「ケルプホーンを吹こうか」
 私たちはジェニファーを誘ってメインコーブへ出た。
 オルカを呼ぶと言われるケルプホーン。もともと言い出したのは、ギタリストのメルだ。漂うボートの上で、海藻で作ったラッパ「ケルプホーン」を鳴らして、オルカたちと会話しようとした。研究者であるポールとヘレナは最初、それを「またメルが変なことを始めたね」と苦笑いしていたのだが、何故か、メルのケルプホーンは、本当にオルカを呼んだ。それが何年も続き、ケルプホーンはオルカを呼ぶためのオルカラボの伝統の儀式となった。

 長い筒状の海藻、ジャイアントケルプの両端を切断して、ラッパにする。ちょっとぬるぬるするけど、オルカを呼ぶためだから仕方がない。99年、真夏のジョンストン海峡からオルカが18日間消えた時でさえ、ケルプホーンを吹いた3日後にはオルカのコールが聞こえていた。

ぶお~ぶお~。

 うーん、それにしてもやっぱりケルプホーンの音はまぬけすぎる…。でも今のところ、これの他にオルカを呼ぶ手段はない…。

ケルプホーンを吹くゆみちゃん、ヒデさん、ジェニファー
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 今日はメインハウスでのディナーだった。ゲストのスティーブがミートソースのスパゲティを作り、ヘレナが信じられないほど美味しいパンを焼いてくれた。
 明るいうちにディナーは終了し、私、モモちゃん、ゆみちゃんの3人娘はラボの2階で眠くなるまでしゃべりながら笑っていた。平和な夜だった。
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7月7日

 今日は七夕。でも見事に曇り空!!

 午前中、ラボの下に通したケーブルの仕事をちょっと手伝い、午後から燃料用の流木でも拾おうと思っていたら、ポールが「いまジョンストン海峡にはトランジェントの小さな群れくらいしかいない。ウォーラスのキャンプへ行って様子を見てきてくれないか?僕は今から買い出しに行くんだけど、彼も買い出ししたいと言ったまま、連絡が取れなくなってしまったんだ。もしいたら、街へ行くのかどうか連絡してくれ。留守だったら、ハイキングを続ければいい」と言いに来た。
いい機会なので、ゲストの2人にも森の中を見せてあげることにした。ハイキングに出発。

 今年はヒデさんがいるから道にも迷うことはなく、安心だ。美しい森の中を通り抜け、「ハンソン島の仙人」ウォーラスのキャンプへと向かう。雨が少ないので、苔は乾き気味で、きのこもとても少ない。

でも、カートの「作品」の、きのこを発見。
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 小1時間かけてウォーラスのキャンプへ行ったが、彼は留守だった。まぁ、いい運動にはなったので、近くのドンチョンベイでちょっと遊んで、ラボに戻った。

 ジェニファーと遊ぶゆみちゃん
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 帰ってくると、ヘレナがお風呂をわかしてくれていた。海岸に置いてあるバスタブの下に、まきを突っ込んで焚く五右衛門風呂。ハイキングですっかり汗をかいたゲストのスティーブとジェニファーちゃん親子が先に入り、続けてきれい好きのヒデさんが入った。
 今日はメインハウスのディナーではなかったので、私たちはひと缶2人前のクラムチャウダーをふた缶開けて温め、先に食べながらヒデさんがお風呂から戻って来るのを待っていたが、食欲をセーブすることができず、女子3人で「いいよね?」と言葉を交わすと、用意してあったヒデさん用の食器を片付け、残してあったスープを一気に平らげた。ごめん、ヒデさん。あったことさえ知らなければ、傷つくこともないだろう…。

 お風呂から戻って来たヒデさんが、経緯を知らずに自分の夕飯を用意しはじめたので、女子3人組はお茶をわかして、キャンプキッチンを後にした。
 ゆみちゃんがお風呂に向かい、私とモモちゃんはラボの2階でお茶を飲みながら優雅にくつろぐことにした。熱いジャンブルベリー・ティーをカップに注ぎ、口をつけようとした、まさにその瞬間。

 ブオーン。

 ガラス窓の向こうを横切ったのは、買い物から帰って来たポールのボートだった。ええっ!?信じられないことに、帰宅予定から1時間も早い!いつも、予定時刻から2時間は遅れるのに…。そして、それどころではない、大変なことに、海岸ではゆみちゃんが今まさにお風呂に入っている最中だ!!

 私とモモちゃんはボートの荷物を降ろしに…そしてゆみちゃんを守りに…2階から飛び降り、デッキへ走ろうとした。が、あまりの事態に、力が出ない。ゆみちゃんには本当に申し訳ないが、こんなタイミングが悪いことがかつてあっただろうか。私とモモちゃんは笑ってはいけないと思い、お腹に力をこめてデッキを走り、ボートへと向かった。そしてバスタブの横で身体を洗っていたゆみちゃんに「隠れて!」とひと声かけ、メインハウスから出て来たスティーブと一緒に、上機嫌のポールから荷物を受け取り、デッキへと並べた。
 メインハウスとバスタブの間には何本か木があるが、全てを隠すには少し足りない。私たちが笑いをこらえつつ荷物運びでゼエゼエ言っている間、ゆみちゃんはずっと、ちょっと熱いお湯につかったまま、ゆでだこになっていた。
 全ての荷物を運び終わったその瞬間、私とモモちゃんは笑い転げながらデッキに崩れ落ちた。こんな事情を知ってか知らずか、ポールはいったんバスタブの前を通過し、海に戻って、うきに停めていたカヤックを取って、またバスタブの前を通過し、海岸に戻ろうとしている。この場にヒデさんがいなくて本当に良かった…。

 ようやくラボの2階へ戻った私とモモちゃんが、ヒデさんに全ての事情を説明しながら、引き続きあまりの苦しさにヒーヒー言っていると、だんだん熱くなるお湯からやっと出られたゆみちゃんが、大笑いしながらラボに入って来た。
 メインハウスとバスタブの間には木があるが、バスタブと海との間には何もないので、ポールのボートはゆみちゃんの前を計3回、横切ったらしい。でもポールになら見られても大したことないよ~、とゆみちゃんは言い、何故かモモちゃんも同意した。しかし、こういうことを笑い飛ばしてくれる新人アシスタントで本当に良かった…。

 暗くなったころ、なぜかポールが段ボールひと箱分の食べ物を持って来て、私たちにくれた。新鮮な果物や野菜、そして食パンとベーグルが入っていた。新鮮なものは食べ尽くしたうえに、あと1週間買い物に行けない私たちにとっては最高のプレゼントだった。ゆみちゃんが身体をはったおかげだろうか…。

 そういえば、今日は七夕だった。みんなそれぞれの超ワガママな願いを書き、毎年お世話になっている七夕の木に吊るした。
 寝る前にふと思い出した。ヘレナやジェニファーと約束したにもかかわらず、あまりにも衝撃的な出来事のおかげで、すっかりケルプホーンを吹くのを忘れていた…。
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7月6日

 晴天3日目。
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 とても気持ちがいい朝だったので、ギタレレを持ってデッキに出ると、海から何やらピチャピチャと音がする。サーモンの赤ちゃんだ。こんな大群、見たことがない。サーモンベビーの大群は波打ち際へと押し寄せ、興奮したカモメたちが騒ぎまくっている。カモメたちは着水して魚を狙いたいのだが、海に降りてもサーモンベビーが跳ねてお腹に当たるので、またびっくりして空に戻ってしまう。

 今日もオルカがいないので、肉体労働が続く。私たちはデッキの下に通すケーブルの準備に追われ、ゆみちゃんはスティープにつかまって、ソーラーパネルを磨くはめになった。

ソーラーパネルを磨くゆみちゃん
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 今年OSSから派遣された新人アシスタントのゆみちゃんは、実はハンソン島は初めてではない。最初にツアーで訪れたのは99年、それから必死にお金を貯めて、何度もツアーでオルカに会いに来てくれた。
 ようやく今年アシスタントの面接を受けに来たとき、面接官のひとりだった私は「知り合いだろうが何だろうがアシスタントの仕事には関係ないし、審査は容赦しない」と本人に伝えた。受験者が複数いたにもかかわらず、それでも彼女が選ばれたのは、やはり「ハンソン島に行きたい、ポールとヘレナの役に立ちたい」と言う気持ちが誰よりも強かったからではないだろうか。

 午後から、私たちは実際にデッキの下にケーブルを通す仕事に取りかかった。地味だけど体力のいるこの仕事は、夕方までかかった。しかし、途中で小さなサプライズがあった。1頭のザトウクジラが、ラボ前200メートル付近を優雅に泳いでいたのだ。
私たちは作業の手をいったん休め、美しいクジラを見送った。

デッキの下はクモの巣だらけ!
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ディナーの時に、とうとうヘレナから、このひと言が出た。
「みんなでケルプホーンを吹きなさい」

 ケルプホーンとは、筒状の海藻の両端を切ってラッパにしたもの。今まで、これを吹いてオルカが来なかったことは1度もない。むしろ、オルカがいるのにケルプホーンを吹いてしまって、80頭くらいがジョンストン海峡から動かず、眠る間もない仕事に追われて大変な思いをしたことがある。

 ゲストのふたり、特に9歳のジェニファーが来ているのに、オルカがいないのではかわいそうだ。私たちは話し合って明日、ケルプホーンを吹くことにした。そういえば、明日は七夕でもあった。
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7月5日

 晴天・2日目!
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 朝ご飯を食べようとキャンプキッチンの近くを歩いていると、七夕の木の近くで何かがガサガサ動く音がした。
 まさか。あとをつけてみる。落ち葉と枝の陰から、小さなふわふわがちょこんと飛び出て来た。

「た、田中!」
キャンプキッチンで、腰に手を当ててコーヒーを飲んでいたヒデさんを急いで呼び寄せる。小さな田中りすは、デッキを横切って、バスハウスの後ろへと走って消えた。

「いた…」
「田中、いたね…」

 私にとっては2回目、ヒデさんにとっては今年初めての遭遇だった。私が初日に目撃したのも、成長しきってない小さな子だったから、ひょっとしてラボ周辺にはこの子1匹しかいないのかもしれない。

 今日もオルカがいない。そして情報もない。でもオルカがいなくても仕事はたくさんある。
 ポールがパイプと2本のケーブルをデッキに運んで来た。ソーラーパネルから電力をひくのに使うらしい。ケーブルをパイプで保護したいので、台所用洗剤をつけてすべりをよくしながらパイプに通せという。もちろん、すべりをよくしたところで、放置してあって落ち葉の詰まったパイプに2本のケープルがすんなり通るわけでもなく、モモちゃん、ゆみちゃん、そして私の3人が起用された。ケーブルをむりやり押し込みながら、パイプをシェイク、シェイクだ。

 それは気が遠くなりそうなほど、果てしなく長い作業だった。ただ単純にパイプをシェイクしていたのでは、腕が徐々に動かなくなり、意識も飛びそうだったので、一生懸命に「二の腕、二の腕」などと筋力トレーニングをしているつもりで集中し続けた。
 思えば昨日も、水中マイクにガーデンホースを通すために、振り続けたなぁ…。ライブで腕を上げて叫び続けるのは全くつらくないのに、どうして仕事になると腕は弱くなるのだろうか…。

 結局、半分ほど進んだところで、あまりの進み方の遅さにポールは音を上げて、途中でパイプを切断した。切断してケーブルを引っ張ったあとは、驚くほど早く作業が進んだ。
パイプシェイクから解放されたあとは、誰よりも力強いモモちゃんが節も気にせずにまき割りをして、お茶をいれて、ひと休み。
 その後私たちは、お父さんがソーラーパネルの仕事で忙しく、ひとりでつまらなさそうにしていたジェニファーちゃんを、眺めのいいクリフに連れて行ってあげることにした。

クリフから海を眺めるモモちゃんとジェニファー
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 クリフから帰ると、エヴァンからメールが来ていた。彼はラボに来たくて来たくてしょうがないのに、今年だけどうしても動けない事情があり、ラボやオルカたちのことを思いながら、イギリスで日々悔し涙を流しているらしかった。私とモモちゃんからのメールは、追い打ちをかけるようにラボを恋しがらせただけだった。誘ってしまってちょっとかわいそうなことをしてしまった…。

 穏やかな夜。私たちは空が完全に暗くなるまでデッキで過ごし、徐々に増えて行く星を見ていた。
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7月4日

 ポールとヘレナの帰りを待っていたかのような青空!!

 昨晩、早寝した私たちは、全員7時台に起きた。これはちょっと革命的なことだ。
 オルカラボに来ると安心して寝られずにそわそわして起きてしまう私を除いて、よく寝るモモちゃん、ゆみちゃん、そして早起きのはずのヒデさんまでもが、連日の心労と、真夜中のテニスに途中起こされるので、みんな起きて来るのは9時過ぎだった。

 ところで、今年は全く田中を見かけない。
 田中、というのはオルカラボではりすのことだ。どこにでもいるから、日本でよくあるこの名字がついた。どこにでもいるからこそ田中りすなのに、今年は留守だ…。
 朝早く、ガーデンの花の水やりをしているヘレナに出会ったので、
「今年、りす(さすがに英語では田中とは言えない)がいないんだけど、どうしたの」と聞いてみた。

ヘレナ「え?いるはずよ。少なくても、私たちが出かける前まではいたから」
わたし「私が着いた初日に1匹見ただけで、他の人は全く見てないよ」
ヘレナ「そんなはずはないでしょう。でも確かに、帰って来てからは見てないわね」

 ふだんはキッチンを荒らしたり、テントに松ぼっくりを投げて来たりして、とてもうざい田中だけど、いなかったらいなかったで心の中にぽっかり穴があいたようになるらしく、ヒデさんは泣きそうになっていた。

 青空はその後も続き、私たちはゲストで来た「電気のエンジニア」スティーブさんのお手伝いをすることにした。
 スティーブさんの9歳の娘ジェニファーちゃんは、ヒデさんにまかせておいて、私たちはソーラーパネルの組み立て。電気が通っていないオルカラボでは、基本的に全て自家発電だ。風力とソーラー、そして発電機がある。しかし発電機を使うと録音に雑音が入るし、ガソリンを使用するから空気が汚れ、お金もかかるので、できるだけ使用は避けたい。

 太陽の下、私たちは夢中で京セラ製のソーラーパネルを組み立てた。
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 カナダは自然と人間がうまく共存している。ジェニファーちゃんは小さいけれど、自然についてよく知っている。スティーブさんとジェニファーちゃんが森の中を探検している様子を見ると、彼女が興味を示したもの…きのこや、苔や、大なめくじや、先住民が使用した跡の残る木など…彼女が納得いくまで、父親が丁寧に教えていた。

 ひと段落ついたところでランチタイム。親子は先にゲストハウスに戻り、私たちは「何を食べようか」と話し合っていた。そこにヘレナが通りがかった。

「オルカはどこ!?」ヘレナが笑いながら言った。
サザン・レジデントが東へ向かってから、私たちはオルカの情報をもらっていない。でも、おそらくサザン・レジデントの声を聞いて気を利かせたノーザン・レジデントたちが、彼らが遠慮なく通過できるように道をあけたのだろう。もしかしたら1週間くらいは戻ってこないかもしれない。
 いい機会なので、わたしは最も恐ろしいと思われる質問をしてみることにした。
わたし「えっと…今年のアシスタントって、どうなってるの?」
ヘレナ「あなたたちの他に、ってこと?子ポールとメラニーが8月に来るわよ」
わたし「じゃあ、し、7月は…」
ヘレナ「(みんなの顔を見回して笑)」
みんな「………。」

「ポールと色々話し合ったんだけどね、今年はできるだけ経験者を集めたかったの。ちょっと、思うようには集まらなかったけど。あと、メアリーとエヴァンに連絡をとってみるわ…トモコも誰か、連絡が取れるここ最近の経験者がいたら、どんどんメールで誘ってみてちょうだい」

い、今から!?( ̄□ ̄;)

 夫妻と仲の良い人たちが企画したツアーが日本からも出ているので、よく勘違いされるが、オルカラボは観光施設ではなく、研究所だ。
 みんなで夕飯を食べているメインハウスも、博士夫妻が通年住んでいる家。夏の間、アシスタントたちはラボやメインハウスのまわりをうろうろし、2人のキッチンに入り、物置に入り、夜中にオルカが来れば寝室まで起こしに行く。プライバシーなんてほとんどない。毎年、見知らぬ外国人を何人も受け入れ、仕事を教えて、夕飯を振る舞うのは、かなりの苦労だったに違いない。

 私とモモちゃんは、とりあえずいちばん来る可能性の高そうな去年のアシスタント、私たちの「心の友」エヴァンにSOSメールを書いた。
 イギリス人のエヴァンは、「今年も絶対来る」と言っていたのに、来なかった。昨年末、彼が心から愛するホエールウオッチングボート、ブルー・フィヨルドが流木に衝突して沈んでしまった。そのとき乗っていた船長と犬は、移動用の小舟に移って無事だったが、船は瞬く間に、たくさんの思い出の品と共に海へ消えて行った。そしてエヴァンは、今年もカナダに帰って来ることを信じて、ハンソン島で使うテントをブルー・フィヨルドに置いて来ていた。
 私たちのメールで、ラボに来られるだけの元気が出るといいけれど。

 さて今日は、一昨日できなかったカートの誕生日パーティーだった!
 一昨日は、あんなに準備したにもかかわらず、サザン・レジデントがきてバタバタになり、カートも疲れて「今日はもう寝る」とか言ってパーティーは延期になってしまったのだけど、今日カートに聞いたところ、実は自分の誕生日をすっかり忘れていて、ふとんに入ってから「あ、今日おれの誕生日だ!!だからディナーに誘ってくれてたんだ、しまった~、何も考えずに『寝る』とか言っちゃったよ!!」と気づいたらしい…。
 
 ヘレナがくだものがたくさん入った甘酸っぱいパイを焼いてくれた。私たちはろうそくに火をつけて「ハッピー・バースディ」を歌い、続けて用意していた「サーモン・ソング」を歌った。

夏がサーモンを連れてくる
オルカが美しいサーモンを食べにくる
チヌーク・サーモン
チャム・サーモン
コーホー・サーモン
ピンク・サーモン
でもサックアイ(紅鮭)が1番
ウィー・ラブ・サーモン

バースデーパイを自ら切り分けるカート
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 美しい夕暮れだった。海面は穏やかで山はピンクに染まっていた。
 ふだん、ここよりも3時間早い時差で暮らしているジェニファーちゃんは、食後ソファに横になり、眠い目をこすっていた。父親のスティーブは彼女をおんぶして、わたしたちにおやすみを言ってメインハウスを出て行った。
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7月3日

 今日はお留守番最終日、ポールとヘレナが帰って来る日!!

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 ふたりの留守中、私たちはいろいろと苦労したが、いちばんつらかったのは愛犬リオだろう。大型犬としてはかなり高齢の14歳、たった数日とはいえど、愛するご主人さまに置いて行かれることは苦しかったに違いない。

 かなりの人がご存知だと思うが、もういちどこの話をしたいと思う。
 子犬だったリオがハンソン島にもらわれてきたとき、そこにはすでに先輩犬のフレディがいた。フレディはゴールデンレトリバーを黒くしたような外見で、猫のように振る舞うリオとは違い、とても人なつっこくて愛くるしい犬だった。
 性格の全く違う2匹は、仲良くハンソン島の森の中を走り回った。お互いを追いかけあったり、鹿を追ったりして森の奥深くまで行くこともあった。でも、フレディは必ずリオをオルカラボに連れて帰った。リオもフレディを慕っていたので、ポールとヘレナは彼らを繋ぐようなことはせず、自由に遊ばせておいた。

 ある日、いつものように森へ走り去って行った2匹は、夜になっても帰らなかった。翌日の朝、ヘレナが近くの森を捜索したが、2匹の気配はどこにもなかった。

 いなくなってから3日目、血まみれのフレディが身体を引きずるようにしてオルカラボに帰って来た。そしてフレディから少し遅れて、同じく身体を血に染めたリオの姿があった。2匹は震える身体で何とかメインハウスの前までたどり着くと、そこで倒れた。

 ポールとヘレナはパニックに陥りそうな気持ちを抑えて、もうほとんど動けない彼らを1頭ずつ抱きかかえ、ボートに乗せた。フレディとリオはどちらも大型犬だったので、それは大変な作業だった。2匹を乗せるとポートはすぐ、街の獣医へと向かった。

 2匹は銃で撃たれていた。フレディはお腹を、リオは肩を撃たれて重傷だった。鹿を追い回しているのを見てイライラしたハンターが撃ったらしい。
 フレディの傷は完全に回復したが、彼は1997年の8月、ウェイントン・パスの小さな島へ遊びに行ったときに行方不明になり、翌日発見されたときはすでに、美しい森の中で、緑の大地とそびえ立つ木々に包まれ、永遠の眠りについていた。
 リオの肩も徐々に良くはなったが、彼は現在でも足を引きずっている。

 高齢のリオは、目も悪いし、耳も少し遠い。食が細いので、チーズやおやつで機嫌を取りつつフードを食べさせる。メインハウスの上のベランダに登ると、階段が急でひとりでは降りられなくなるので、困っていないかたびたび様子を見に行く。夜目がきかなくなっているので夜のトイレ散歩のときには、懐中電灯で足もとを照らす。昼間もひとりでマットの上で寝ていると、突然不安になる時があるらしく、吠えるので、ひまを見つけてこまめに顔を見せに行って、頭をなでてあげる。

 オルカの仕事とは全く関係のない老犬の世話だけど、手がかかるぶん何だか楽しかった。ポールとヘレナが帰って来たら、もうこの数日間みたいに、寂しくて私たちにまとわりつくことはなくなってしまうだろうから。

 今日の私たちの夕飯はスープパスタ。野菜スープを作り、さあスパゲティを投入しようとしたとき、キャンプキッチンに備え付けてある水中マイクのスピーカーから、耳慣れたボートの音が聞こえて来た。博士夫妻の船、ジューン・コーブだ!!

 こんなに水中マイクが役立つと思ったことは、未だかつてあっただろうか。ボートの音は北のFIの水中マイクから聞こえていたので、私たちは時間がないと判断してスパゲティを投入するのを中止し、待ちくたびれたリオを呼んで、メインハウス前の船着き岩へと走った。

 ついにジューン・コーブが視界に現れた。運転席のポールが手を振っている。ヘレナがパンザイをしている。この瞬間、私たちのお留守番はようやく終了!!
「テニスの録画、ありがとう!!」
ポールが運転席から出て来てバンザイした。やはり第一声はそれですか…。
 しかし、どう見てもこのポートに乗っているのは、ポールとヘレナ夫妻と、ゲストらしき親子だけだ…。

 実はこの数日、私たちには、ポールとヘレナに聞きたくても、とても怖くて聞けないことがあった。それを聞くのは、テニスの放送開始時間を聞くことより怖かった。
 それは…今年、私たちの他にアシスタントはいるのか?ということ。

 もし、他に誰か来るのなら、街には頻繁に行けないのだから、今日連れて来るはずではないだろうか。もし他にいないのなら、ヒデさんは厳密に言うとただの版画家でアシスタントではないので、私、モモちゃん、ゆみちゃんの3人だけなのか…。

 あまりにもその話題に触れられないので、私たちはちょっと不安になって来た。みんな疲れてしまい、スープパスタを食べたあとすぐに休むことにした。
 まばらな雲が星の半分を隠していた。
2007-07-04 : 未分類 : コメント : 2 : トラックバック : 1
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7月2日

 ハッピーバースデイ、カート!

 夜,寝る前にドキドキしながらメールをチェックすると、やっぱり来ていた、ポールからのメール。しかも、タイトルが「月曜のテニスのスケジュール」という恐ろしいものだった。ある程度の覚悟はできていたが…。

<トモコが夜遅くまで起きていることに賭けて、このメールを送ります。月曜からのテニスを録画することについて大切なお知らせがあります。月曜は、放送の開始は午前4時からです。ちょっと朝早いですが、よろしくお願いします>

わー!!<(゚ロ゚;)>

 それを読んだときには、すでに午前1時。みんな一気に脱力してしまった。

 私たちが島に着いてから、晴れ上がった美しい朝はまだ見ていない。今日は嵐で風がひどく強く、曇った空からは今にも雨が降り出しそうだ。

 私たちは朝食をとったあと、カートにプレゼントする「サーモン・ソング」を練習し、誕生日カードにサインして準備し、ごちそう(スパゲティ)の材料を揃えた。午前中の間に空からはとうとう大粒の雨が降り出し、私たちに託された「ガーデンの水やり」という仕事がひとつなくなった。モモちゃんはガーデンに不法侵入した大なめくじを2匹逮捕し、コンポストへ投獄した。

 午後の仕事の前に、ちょっと遅い昼食と、昼食のあとのティー・タイムを楽しんでいた私たちの耳に、不思議な音が飛び込んで来た。
「今の、スピーカーからだよね?」
 私はラボへ走った。聞き慣れない音だけれど、今のは絶対何かの海洋生物だ。
 急いで、録音スタート。コールは北のFIの水中マイクからだった。ヘッドフォンをつけて、さらに集中して聞いてみると、鳴き声はレジデントのオルカにとても近いように思えた。でも、こんなの聴いたことがない。まったくの新しい群れか?いや、私が全く聴いたことがないレジデントと言えば…。

 メインハウスへ行って無線で飛び交う情報を聞いていたヒデさんが、ラボに走って来た。
「サザンレジデントらしいよ。よく聞き取れなかったけど、KかLポッドだって」
さ,サザンレジデント!? Σ(゚Д゚ノ)ノ

 ブリティッシュ・コロンビア州には、ふたつのレジデント・コミュニティがある。ひとつは、私たちが研究しているノーザン・レジデントで、バンクーバー島の北半分の領域(もしくはそれより北)を拠点に生活している。
 もうひとつがサザン・レジデントで、要するに南側に住んでいる。ふたつのコミュニティは、ふだん生活している所が違うためか交流することはないし、ノーザンのオルカたちが南に、サザンのオルカたちが北に来ることはめったにない。

 10年近くラボに通い続けて、これが私とサザン・レジデントの初めての遭遇だった。監視のため外に出ていたモモちゃん、ゆみちゃんも、このニュースには、ただ呆然。

サザン・レジデントを待つゆみちゃんとモモちゃん
20070702.jpg

こんにちは~
2007southern.jpg


 先頭グループはウェイントン・パスを通過して、東へと向かった。後続は、オルカラボの前を通過してジョンストン海峡へと入った。私たちは激しい雨と風と霞がかった暗い空の下、必死に彼らの数だけでも把握しようと必死になっていた。でも、聴いたことのないコール、見たことのないオルカたち。おまけに波は高く、オルカたちは強い満ち潮に乗って、あっというまにラボの前を通過してしまった。
 しかし彼らは水中ではすばらしいコールを長時間続けてくれた。わたしたちはその不思議な音の響きに感動し、知っているものとは全く違うエコロケーシヨンに笑い、東へと進んで行く彼らを見送った。

 あんなにはりきっていたにもかかわらず、いきなりサザン・レジデントが来て、全てを引っかき回してくれたおかげで、カートの誕生日のお祝いは「また別の日に」ということになってしまった。モモちゃんは、一刻も早くポールとヘレナに伝えたくて電話をしたが、繋がらなかった。

 サザン・レジデントが来るという一大事に、よりによってポールとヘレナがいないなんて…。お留守番をすると、必ず何かが起こるような気がする…。
 他の仕事をしながらの、全ての対処にみんなすっかり疲れ果てていたので、「今日こそは、ポールからメールが来る前にテレビの番組表を調べて寝よう」ということになった。

 しかし、世の中そんなに甘くはなかった。
 調べてみると、明日のウインブルドンの放送開始は午前3時になっていた。
2007-07-03 : 未分類 : コメント : 2 : トラックバック : 1
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7月1日

 今日はカナダ・デイ。カナダの誕生日。
 とはいっても、無人島に閉じ込められている私たちは、華やかな花火も見られないし、飲みに行けるわけでもない。ポールとヘレナが帰って来る日に間に合うように、セットアップ、セットアップ!

20070701_1.jpg


 今日はオルカたちのコールもなく静かな1日だったので、午前中はラボやバスハウスの掃除、森の通路の掃除を分担してもくもくと勧めた。
 午後は、暖炉に使う流木を海岸からわんさか拾って、オーブンに使うまきを割っておき、自分たちへの「お疲れ!」の意味も込めてココアを1杯ずつ飲んだ。

 パソコンを開くと、ポールからメールが来ていた。また何か頼まれるのではないか、と変な汗をかきながら、メールを開く…。

<みんながラボで元気にしているようで何よりです。ところで、ちょっとお願いがあるのですが、7月2日はカートの誕生日です。私たちは3日まで帰れないので、何かサプライズを企画してあげてください>

 え…。

 大工さんのカートの誕生日は、もちろん毎年7月2日。でも、いつもはポールもヘレナもいて、わたしたちは寄せ書きをして、用意されたケーキを前にハッピーバースデーを歌うだけ。申し訳ないけど、あまりにも心の準備ができていなかった!!

 今さら町に買い出しには行けないから、ごちそうもプレゼントも、ちゃんとしたものは用意できない。版画家のヒデさんは、新しく出版した絵本を日本から2冊持って来てたのに、よりによって着いた初日に、何も考えずにカートにあげてしまっている。

 私たちは緊急ミーディングをした。
 
●カートの好きなごちそうは?
「多分、サーモン。でもカートが焼いたほうが絶対おいしくて、サプライズにならないから却下。とにかくちゃんと材料が揃うものを」
●バースデーカードは?
「ヒデさんが何か絵をかけばいい」
●ケーキは?
「材料ないし、私たちでは薪オープンが扱えないから、無理!」
●プレゼントは?
「…どうしよう?」
●うーん、じゃあカートの好きなものは?
「木で偽きのこばかり作っているから、きのこ。そして釣りが大好きだから、サーモン」

結局、カートには私たちのいまできる範囲で…スパゲティトマトソースと、私たち作の「サーモンの歌」をプレゼントすることにした。

ギタレレでサーモンの歌を弾くヒデさん
20070701.jpg


何もない状態で、一生懸命企画したバースデイ。
カート、喜んでくれるかな~?
2007-07-02 : 未分類 : コメント : 1 : トラックバック : 0
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6月30日

 「テニスを録画するにあたっての説明をメールで送るから、確認してから録画してほしい」とポールは電話で言っていたので、私は何とか寝る前にメールを確認しようと、ただひたすらに待った。
 桃ちゃん、ゆみちゃん、ヒデさんの3人は、先に寝てしまった。ラボの2階に荷物を運び、寝る準備をして、メールが届くのを待つ。5時前には起きてテニスを録画しなくてはならないのに、届いた頃には、もう午前12時半をまわっていた。

 さっそく内容を確認する。何ひとつとして間違わないように、とても細かい手順が記してあり、ビデオテープに貼るラベルの説明まで付け加えてあった。うーん、博士夫妻は、どれだけテニスを見ることが大事なんだろうか…。でも、とても楽しみにしていたウィンブルドンが、旅行で見られないとあっては、仕方がない。

 メールを読み進んだ私は、最後の1文を見て、目を疑った。
<もし、ビデオの使い方とかがわからなくなってしまったら、遠慮なくこの番号にかけてきてください。僕たちは朝5時には起きて、テレビで試合を観ていますので>

保存用かよ!!( ̄□ ̄;)


 メールを日本語に訳し、いま寝ている3人しか目覚ましに気づかなかった時のために、ビデオデッキの横に手順を記した紙を置いて、ラボへ戻り、ようやく寝袋に入る。
もう1時過ぎ。できる限り睡眠時間を取ろう。そう思って、懐中電灯を消した。

「…」
どれだけ眠っただろう。枕元のスピーカーから、とてもかすかに聞き慣れた音がする…ような気がする。
きっと空耳だ。私は自分自身に言い聞かせて、かすかに開けた目をまた閉じた。
「…」
うーん、たぶん空耳じゃない。どうして目覚ましでは起きられないのに、こんなかすかな音は気になるのだろう…。わたしは寝袋から飛び出てロープを伝って1階へ飛び降り、DATの録音ボタンを押して、ヘッドフォンをつけた。
 時計を見ると、まだ午前4時過ぎ。テニスの時間にすらなっていない。

 音量を調節して、水中マイクからの音を整える。ヘッドフォンからは聞き慣れたオルカたちの鳴き声。とうとう、オルカたちが水中マイクのエリアにやってきた。
 声の主は、まだ今シーズン誰も確認していなかったA30sと、Rsの誰か、というふた家族のようだった。オルカたちは北から私たちの研究所のほうまで進んできていたので、桃ちゃん、ゆみちゃん、ヒデさんを叩き起こし、デッキに出てもらってオルカたちを待った。

 しかし、オルカたちはただ偵察に来ただけのようで、ぱっと方向を変えて北へと戻って行ってしまった。3人に寝袋に戻ってもらい、私はしばらく次のコールを待っていたが、オルカたちはすぐには戻っては来なかった。
 午前10時過ぎ、彼らは早朝とおなじエリアまで泳いできた。そして私たちにたっぷりと鳴き声を披露してくれたあと、また水中マイクのエリアから出て行った。

 ポールとヘレナが留守のうちに、ラボや施設の手入れをしなければならない。私たちは冬の間にガラス窓にこびりついた潮とおがくずを落とし、雨の合間を見てそれぞれのテントをはり、アシスタントのためのキャンプキッチンを掃除して、調理用具を洗って乾かした。すべてが終わると、もう夜になっていた。

06302007.jpg

2007-07-01 : 未分類 : コメント : 3 : トラックバック : 1
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プロフィール

Tomoko(Orcalab Japan)

Author:Tomoko(Orcalab Japan)
カナダ・BC州の海洋生物研究所「オルカラボ」で、野生オルカ(シャチ)の鳴き声の解析スタッフをしています。
夏の間は研究のためオルカラボのあるハンソン島に滞在。日本ではよくライブハウスにいます
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