夏になると、野生のオルカが鮭を追ってたくさん集まってくる、カナダ、BC州のジョンストン海峡。その中でも、オルカが特に頻繁に通過するハンソン島から、毎日の生活とオルカの様子を、日本の皆さんにお届けします!

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8月27日

 昨晩ヘレナに「月食があるから、夜中に起きられたら確認してね」と言われて、午前1時半、午前2時半、午前3時半にわざわざ起きて月を見に行ったのに、何回確認してもまんまるだった。午前3時半過ぎ、月は丸いまま沈んでしまい、わたしはがっかりして眠りについたが、朝になってインターネットで確認してみると、月食は明日だったらしい。
 せっかくオルカたちは鳴かなかったのに、貴重な睡眠時間が…(´Д`;)

 ビジターのジーナが島を離れる日。午前11時、ホエールウォッチングボートのナイアッド・エクスプローラがジーナを迎えに来た。引き潮で、ナイアッドはハンソン島の海岸に近づけなかったので、ポールが小さい方のボート「カー」でジーナを沖まで送ることになっていたのに、直前になってエンジンがかからなくなってしまった。ナイアッドはもう、沖に停まっている。ポールは頭を抱え、「よし、漕ごう」と言って、ジーナをボートの上に乗せたままパドルでちょっとずつ漕ぎ出した。

200708271.jpg

 ちょっとトラブったけど、ジーナは無事にナイアッドに乗った。海岸から私たちは力いっぱい手を振った。またひとり、やっとできた友達が島を離れてゆく。
 うーん、またひとり、ごはんを作ってくれる人が減ってゆく…。。。

 ラボに戻ると、すでに東からオルカが戻って来ていて、I31sのコールがCRPTの水中マイクから聞こえていた。急いで録音開始。I31sと長年仲のいいA12sが一緒に戻って来たようだった。しばらくすると、I15sと付き添いのA36sのコールも聞こえて来た。最後に全てのA5sが東から現れたが、A30sと、すべてのA4sは東にいたままだった。

 3頭のトドがラボ前に来て、しばらく浮かんでリラックスしていた。今シーズンはずいぶんトドとの遭遇率が高い。それにしてもこの子ら変な顔!CPの水中カメラとかで全身を見ると、けっこう美しいんだけど。

 今日は子ポールの誕生日。みんなでカードを用意し、ヘレナはチーズスフレオムレツを焼き、モモちゃんはお風呂をたき、ポール(博士)はCPから子ポールを連れて帰って来た。

 子ポールは去年のシーズンが終わった後、ビクトリア大学に1年間留学して海洋生物学を専攻し、その間にスキルを上げるため、現地のホエールウオッチングボートのガイド兼フォトグラファーとしてのボランティアをしていた。来年1月からは、研究者クリストファー・ギネーさんのサポートで、1年に船が3便しかない、外界とは隔離されたクローゼ諸島でひとりぼっちでオルカの研究をし、人間の世界から離れ、大好きな自然に囲まれた生活をするらしい…。
 あまりにも子ポールがうきうきしてクローゼの事を語るので、私とモモちゃんが「そんな楽園ではないだろう」と思いネットで調べたところ、1年のうち300日は雨が降る島らしかった。
 
子ポールがCPやビクトリアで撮りためた、オルカや自然の写真はこちらで。
感想残してくれると喜ぶそうです。
http://www.flickr.com/photos/paultixier/

 子ポールは明日帰ってしまうので今日が「最後の晩餐」。明日からは、本当に私たち3人だけになってしまう。皆で食卓を囲み、わいわい喋りながら美味しいディナーを食べ、お誕生日カードを渡して、ハッピーバースデーを歌った。A36sがちょっとだけディナーの邪魔をして、オルカラボの前を通過し、北へと向かって行った。

200708272.jpg

 メインハウスの窓の向こうに昇った月は、薄い雲で隠されていた。私たち3人はラボに戻って、子ポールと一緒に、去年彼に隠し撮りされた私やモモちゃんの変な写真を見て笑い、写真に残された去年の大好きな仲間たちの笑顔を見て思い出にひたり、落ちて来る雨の音に耳を澄ませた。
 オルカたちは東へと進み、水中マイクのエリアから出た。月食が確認できる時刻には、ラボの外はどしゃぶりの雨になっていた。
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2007-08-30 : 未分類 : コメント : 2 : トラックバック : 0
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8月24日

 コールで目覚めたのは、5時半。うーん、この時間なら許す。
 ヘッドフォンをつける。最初に聞こえて来たのはA4コールだった。A4sは、昨日R2s、R7sと一緒に北で確認されている。ということは…ほら、Rsのコールも聞こえて来た!!

紅鮭を捕まえたトドと、おこぼれにあずかりたいカモメ
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 午前7時ころ、CRPTの水中マイクからは、すでにジョンストン海峡にいたA36s、I15s、I33sのコールが聞こえて来た。つまり、3つのクランのオルカが集まった。今日はスーパーポッドの日だ。
 7時50分、まずR2sとR7sのR7さんだけがラボ前に現れた。R7の娘と孫はいなかったので、「はて?」と思っていると、次のグループが北から現れた。しかし、スコープで確認してみると、ただのA24sだった。今日のオルカたちはまた、ずいぶんと散り散りに広がっているらしい。

 しばらくするとひと組の親子が視界に現れたが、私たちはここでいったんデッキから離れて、メープルツアーのお客さんの荷物を海岸の岩場へ運び、急いで見送った。ホエールウオッチングボートのトゥアンが迎えに来て、お客さんたちを乗せると、そのまま沖へ出てウオッチングを開始。私たちは見送りを終えると再びラボに走り、仕事再開。
 親子のオルカはA35sのA52さんと、その子供のA81ちゃんだった。残りのA35sはなかなか現れなかった。その間、ジョンストン海峡では東から戻って来たA36s、A5sとI15s、I33sがブラックニー・パスの方に近づいていた。彼らはブラックニー・パスから出て来たRsと出会い、ひとつの大きな群れとなって、しばらく再会を喜び合い、CPの前へと向かった。遅れてブラックニー・パスから出て来たA24sがその群れの中へ飛び込むと、A36sの3兄弟は大きな群れからこっそり抜けて、オルカラボの前へ登場し、北へと進んでいった。

 スーパーポッドの日にしては、なんだかオルカたちの動きがおかしい。北にいる群れはなかなか来ないし、もてなさなきゃいけないはずのRsを放っておいて北に行くA36s。しかも、ウオッチングボートからもらった情報によると、A30sはブラックフィッシュ・サウンドにいる群れをも離れて北へ行ってしまったというではないか。あれ~?(´・ω・`;)

 しばらくすると、ブラックフィッシュ・サウンドにいた群れがようやく視界に現れた。残りのA35s、スプリンガーとA56、R13とR47だった。彼らがジョンストン海峡へ入ってから30分くらいすると、A11とA13が揃って現れた。今年の幹事役を買って出ているA11s、ということはこれが最後尾?
 急いで計算してみる。北にいるA30sとA36sを除くと、現在ジョンストン海峡にいるのは、東からこちらへ向かって来ているA12sとA5sも含めて54頭。50頭以上ではあるけど、スーパーポッドにしてはちょっと小規模だ。

 今日もラボの前にはアザラシの親。丸い目を見開き、頭を水上に出して何度も何度も、私たちの方を見ている。まさか、赤ちゃんが人間にさらわれたと思っているのだろうか。私たちは確かに息を引き取った赤ちゃんを海に運んで還したけど、見つけた時にはもう手遅れだったことをどうやって教えればいいんだろう。

 ジョンストン海峡を東へと向かっていたオルカたちがラビングビーチを通過したころ、トランジェントのT46(と、そのお友達)グループがウェイントン・パスからジョンストン海峡を東へと進み、CP前に現れた。レジデントのオルカがいない隙を狙った見事な登場の仕方だった。というのも、この後しばらくして、北に行っていたA30sが残りのI31sを見つけてジョンストン海峡に戻って来たからだ。
 私たちはようやく納得した。もちろん、オルカたちには何がどうなっているのかわかっていての行動だったのだろうけど。

 A30sと(すでにジョンストン海峡にいるI33s以外の)I31sは、ごちゃ混ぜになってオルカラボの前に現れた。A30さんはI31sの若いオスI67と一緒に、A54sはI31sの大人のオスI46と一緒に泳いでいるというとても微笑ましい光景だった。

200708241.jpg

 北にいるA36sも含めるとこれで合計74頭。ちょっとRsの数が少ないけど、それでも立派なスーパーポッドだ。全てのオルカたちは東へと進んだ。A30sとI31sはラビングビーチに立ち寄り、そして東へと向かって行った。
2007-08-30 : 未分類 : コメント : 0 : トラックバック : 0
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8月23日

 日付が変わるころ、オルカたちは西へと向かって来た。そしてオルカラボの前を通過して北へと向かって行った。おそらく、ジョンストン海峡にいた群れのうち、A12sを除く全ての群れが北へ言ったと思われた。

 午前8時、北に行った群れの中から、A5sだけがウェイントン・パスを通過してジョンストン海峡へ戻って来た。彼らはCRPTを通過して、ラビングを楽しみ、東へと向かって行った。

 ヘレナが悲しいニュースを持って来た。
「1時間ほど前、アザラシの赤ちゃんが死んでしまったの」
 昨日のディナー後ヘレナは、海に戻ったはずのアザラシの赤ちゃんがビーチで横たわり、ガクガク震えているのを発見したそうだ。夜中からポールと交代でそっと様子を見に行き、何とか今朝まで持ちこたえたのを確認したが、眠るように目を閉じてしまった。
 私たちには原因はわからない。もともと病気で泳ぎづらくてビーチにあがっていたのか、長時間、直射日光を浴びすぎてしまったのか。それとも…。
 そのしばらく後、ヘレナはラボの前で水面をキョロキョロ見て泳ぎ回り、あちこちに向かって吠える親アザラシを見たらしかった。まさか赤ちゃんが、人間が頻繁に行き来するメインコープのビーチに寝ていたなんて思いもしなかっただろう。

 今日はツアーのお客さんたちがCPを訪れる予定になっていた。A5sは東、他の群れは遠い北にいるので、「あなたたちも行って来ていいわよ」とヘレナが言ってくれた。
 しばらく島を出ていないからちょっとした遠足気分。ジュースを持って、お菓子を持って、
日焼け止めを塗って準備完了!

 お客さんと私たちを乗せたボートは、いったんオルカラボ前の沖に出た。
「ここでアザラシの赤ちゃんを海に還そうと思う。みんなもお別れを言いなさい」
ポールがエンジンをストップさせ、かごをボートの舳先へ置いた。かごの中には50センチほどしかないアザラシの赤ちゃんの小さな身体と、ヘレナが添えてくれた一輪の花。
「安らかに」
皆は手を合わせた。アザラシの赤ちゃんは午後の光の中、ポールの手によって花と一緒に海に戻され、青く深い海の底へ…美しいオルカの歌が聞こえる海へ、還っていった。

潜る子ポールと手伝うポール
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 天気はよく、CPからの眺めは美しかった。水面に漂う油は、もうCPからは見えない。自然はどれくらいの速度でディーゼルを分解してくれるのだろう。
 私たちが到着してしばらくすると、東からクレイクロフト島沿いにA5sが戻って来ているとの情報が入って来た。バンクーバー島側にも群れがいないとは限らないので、子ポールがラビングビーチのカメラの電源を入れて、お客さんをシェルター内に招き入れ、カメラの操作をしながらCPの説明をしてくれた。
 無線からは北にいる群れの情報が飛び込んで来る。A11sとA35sはR2s、R7sと一緒にポートハーディ沖、そしてA30s、A36s、I15sとI33sはマルコム島沖で動かないようだった。

 しばらく待っていると、視界にA5sが現れた。とても近くまで来そうだったので、お客さんに岩に降りてもらい、目の前にオルカが来ても決して大声をあげないようお願いし、今日だけCPのアシスタントとしてサポートをする私のスコープと、子ポールが操作するラボのビデオカメラを設置し、仕事の準備をする。

 A8s、A43sのオルカが次々とCP前を通過した。彼らに続いて現れたA61は、ほんの20メートル沖を通過した。ポール(博士)はどうしてもA43sのA60の姿を確認したかったらしいが、最後尾のA51と赤ちゃんがCPの前を通過したのを最後に、辺りはまた静かになった。

「見逃してしまったのかな」
ポールは残念そうに言った。A5ポッドのA43sは何度もオルカラボの前もCPの前も通過しているのに、ポールだけがA60を見ていない。また今回も運が悪かったのだろうとあきらめかけ、みんながカメラを下ろしたその瞬間、見たこともないような巨大生物が、どでかい呼吸音をあげてCPのたった5メートル沖に姿を現した。

「え、A60!!」

 近くで見るオルカはあまりにも大きすぎて呼吸が止まりそうだった。お客さんもモモちゃんゆみちゃんもA60の向かった方向へ走り、カメラを構えた。
 直後、CPのすぐ右にA60と共に親子の姿が見えた。気がつくと、子ポールはビデオカメラを投げ出して自分のカメラを抱え、岩場に降りてしまっている。博士の方のポールは…すでにベストポジションで連写状態だ…。
 え、えっと、個体識別とログの仕事は誰がすればいいのかな?(´Д`;)

 もう、オルカと私との間に立ってる人が多すぎるし、誰も仕事をしてくれそうにないので、私はいったんカメラに伸ばした手を泣く泣く引っ込め、スコープで背びれを確認、ログノートに時刻とともに場所を書き込む。
 親子のオルカは、A51とその赤ちゃんだった。その2頭にA60が寄り添うという、ちょっと不思議で可愛い組み合わせで、CP脇でちょっと時間を過ごし、彼らは西へと進んでいった。

今回は写真はあきらめなければならなかったので、
スコープのあるデッキから撮ったこの1枚だけ。
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 かなりの至近距離での遭遇に、私以外のみんなはすっかり満足してハンソン島に帰る。
 急いでラボに走り、録音していたヘレナと交代して、水中マイクの音を確かめると、A5sはあのあとターンして東へと戻ったらしかった。

 午後8時前、I15sのコールがFIの水中マイクから聞こえて来た。北にいたA30s、A36s、I15sとI33sが戻って来たのかと思われたが、オルカラボの前に現れたのはI15s、I33s、A36sのみで、A30sは来なかった。おそらく、ポートハーディ沖で動かないA11sとRsの方に泳いでいってしまったのだろう。 
 I15sとI33sはオルカラボの前全体に広がった。A36sはオルカラボ寄りだった。ラボの向かいにはザトウクジラもいて、大きな噴気をあげていた。オオアオサギが目の前のケルプの上で大きく羽を広げ、トドが大きなサーモンを捕まえて振り回していた。山はピンクに染まり、落ちていく光が作り出した最後の影は最高に美しかった。ポールがみんなのためにグラスに注いだワインを持って来た。
 お客さんたちは自分がどんなにラッキーなのか気づいただろうか?
 
 ディナーの間、ジョンストン海峡に入ったI15sとI33s、A36sはジョンストン海峡を東へ進んだ。モモちゃんがその間のレコーディングを担当しようとしたが、ヘレナが「日本からのツアー最後の夜だから」とモモちゃんをメインハウスに帰し、ラボに行ってくれた。
 私たちは食後、デザートを食べ、紅茶を飲みながら、大きなスクリーンで2002年のベストオブオルカライブのDVDを楽しんだ。
 オルカたちはラビングビーチにちょっと立ち寄り、水中マイクのエリアから出て行った。
2007-08-27 : 未分類 : コメント : 4 : トラックバック : 0
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8月22日

 A30sがロブソンバイトから離れ、ラビングをして、東へと向かった午前12時半ころ、I15sとI31s、そしてA4sとA5sが東から戻ってきた。彼らはロブソンバイト沖をうろうろし、結局午前4時半ごろ東へと消えて行った。

 午前7時、がばっと起きて下に飛び降りる。うーん、もうちょっと寝たかったけど、仕方がない。東から戻って来たのはA12sだった。しばらくすると、A30sとA11s、そしてI15sとI33sも東から戻って来た。私はあくびをしながら録音を続けた。ヘレナが焼きたてのパンとコーヒーを持って来てくれた。

 今日も海岸にアザラシの赤ちゃん。朝の光の下、ときどきあくびをしたり、胸びれで顔をこすったりしている。満ち潮になればよいしょよいしょと海岸を這って岸へと進み、さらに日光浴。しかし、こんなに小さくてひとりぼっちで大丈夫なんだろうか…。

あくび
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 流出したディーゼル油は想像以上に早く揮発していっているが、広がった油はジョンストン海峡側のハンソン島の海岸までたどり着いていた。南東の風で匂うのも仕方がない…。
 私たちは自分たちの食器を今まで何の疑問もなく海で洗っていたのに、何だか恐ろしくて海水を触れなくなってしまった。ヘレナは「油は浮いていれば見えるから、何も見えなければ大丈夫だと思うけど」と言った上で、貴重な真水のタンクをふたつ、食器洗い用にくれた。

見事なハート型の石を見つけちゃった
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  お昼前、全ての群れは方向を変えて東へ。午後、ポールとヘレナがジョンストン海峡の様子を見に行くことになった。オルカたちのコールは続いていたが、私はお客さんたちをクリフに案内する役目を任されたので、モモちゃんにレコーディングを託して、徒歩10分の眺め最高のクリフへ。
 その間ゆみちゃんはまき割りをしていた。ビーチで寝ている赤ちゃんアザラシは、ゆみちゃんがまきわりを始めても、寝返りを打ったりモゾモゾしているだけで、海に帰ろうとはしなかった。
 1時間後、私がクリフから戻って来ても、赤ちゃんアザラシは同じビーチですやすや眠っていた。さすがに心配になって来る。こんなに長い間お母さんから離れて大丈夫だろうか?そして脱水症状になっていないだろうか?

 ジョンストン海峡から帰って来たヘレナは「ハンソン島東端の沖まで行って、海に手を入れてみたの。油でぬるぬるするのがわかったわ」と言った。流出事故が起こってから天気はよく、大部分は揮発した。でも実際に流出したのは200リットルのみと言われていて、残りの9000リットルは石油タンクに入ったまま海の底、強い潮の流れでいつ流れ出すかもわからない。そして沈んだトラックやブルドーザー、車なども引き上げのめどがたっていない。かけがえのない生態保護区に、大量のガソリンやエンジンオイルが沈んでいる。

 東へ行った群れのいくつかはオイルフェンスも気にせずにラビングを楽しみ、そして西へと戻って来た。そしてまたCP沖で方向を変え、東へと進んで来た。

 私たちがディナーの準備をはじめたころ、アザラシの赤ちゃんはようやく身体を起こして、海へと這っていった。あまりにも長時間寝ているので、ヘレナも心配しはじめたところだった。赤ちゃんは水の中へ入ると、凄いスピードで沖へと泳いでいった。

 ディナー前、A36sのコールがFIの水中マイクから聞こえて来た。でも、この3兄弟がまともにまっすぐオルカラボの方に来ると思って待機していたら、軽く3日ぐらい経過してしまう。あまり期待せずに北の方角を気にしつつ、暗くなるのを待った。
  東で再びラビングを楽しんだオルカたちは、いっせいにブラックニー・パスのほうへ向かって来た。星のきれいな夜だった。
2007-08-26 : 未分類 : コメント : 3 : トラックバック : 0
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8月21日

 風がガソリン臭い…。
 午前8時半ごろ、オルカたちが再び東から戻って来てしまった。そして今朝の段階で、漏れ出したディーゼル油は14キロにまで広がっていた。昨日、ぬるぬるの中を泳いで確認したはずなのに、どうしてまた戻って来てしまったのだろう?油の撤去作業はほとんど進んでいない。重油と違って、ディーゼルはさらさらしすぎて掴むことができないらしい。
 A30sは再び、広がる油の中を通過してしまった。

 ヘレナがそーっとラボに入って来て、落ち込んでいる私たちに言った。
「双眼鏡を持って来なさい。赤ちゃんアザラシがメインコーブに寝ているの。ものっっすごく可愛いから、早く」
メインコーブにアザラシ?

 私とジーナは足音をたてないよう、くつも履かずにデッキをそーっと歩き、ヘレナが指さす方向を見た。黒い小さな固まりが、メインコーブに転がっている。…アザラシ?

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それはヘレナの言った通り、本当に小さな赤ちゃんだった。お母さんから離れての初泳ぎだったのだろうか、でも日光が気持ちよくて、たまたま上がった浜辺で寝てしまったらしい。赤ちゃんはやがてむくっと起き上がると、両手を使って這って海に向かい、水中へと消えて行った。

 油の撤去作業がようやく始まった。業者によって生態保護区内の被害がひどい場所にはようやくオイルフェンスが張られはじめたが、油の広がりは囲える範囲をはるかに超えていた。ディーゼルが揮発しやすいのは確かだけど、オルカたちはすでに夜の段階で6時間も油の中を泳いでしまっている。これがオルカたちにいちどんな形で影響するのかは、わからない。


 午後、A30sはオルカラボの前を通過して北へと向かって行った。
 特に目立った異常は見られないが…。皆の不安はおさまらない。
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そのころ、I15sとI33sも水中マイクのエリア内に戻って来てしまった。しかし彼らは今回は、被害の大きなバンクーバー島側は通らず、クレイクロフト島側を選んで西へと進んで来たので、ほっと胸をなでおろしていたのもつかの間、西で方向を変え、バンクーバー島ぞいに東へと進んで来た。

 録音していた私は、東へ向かう彼らのコールに混じって、A1コールを聞いた。
 えっと、A30sは北へ行った。A12sは、群れの全員が遠い東で目撃されている。A36sは同じく北、じゃあこれは…誰???

 I15sと一緒にいるその謎のA1コールは、彼らがCRPTを通過するまで付き添っていた。東へ進むごとにコールはだんだんA12sっぽくなっていき、私は頭を抱えた。
 ちょっとパニックに陥って、ヘレナに何度も「A12とA33だけまた離れたりしていないのか」「それとも去年死んだと思われてたStormyが帰って来たのではないか」といろいろ聞いてみたが、ヘレナもA12sっぽいコールであることは認めただけで「それはありえないわ」と笑って言った。ヘレナの考えでは、A30sのうちの1頭がジョンストン海峡に残り、I15sの世話をして、ウェイントン・パスを通過してまた自分の群れに戻ったと考えるのが、いちばん可能性が高いということだった。でも、もし群れから離れたら、A12sのコールではなく、自分の群れのコールを出すのではないだろうか?そして、1頭だけがI15sの世話をするためだけにジョンストンに?なぜ…?

 ディナー前、A30sが北から再びオルカラボの前に現れた。何度見ても、全員揃っていた。
油が広がるジョンストン海峡に戻ってほしくない私たちの心とは裏腹に、彼らはロブソンバイトでしばらくの時間を過ごし、美しいコールを響かせながら、東へと進んで行った。
2007-08-26 : 未分類 : コメント : 0 : トラックバック : 0
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8月20日

 午前3時、ラビングビーチの水中マイクから、東へ向かうオルカたちのコールが聞こえて来たので、私はこれを見送ったらようやく寝られると思って、メインハウスで眠っているヘレナにこの状況を伝えにラボを出た。

 風が強く、海は荒れていた。ラボからメインハウス、たった30メートルの距離。途中で男女の話し声がしたような気がしたが、ポールとヘレナが起きて、私の足音を聞いて「ラビングビーチかな」と話しているのかと思って、あまり気にせずに室内へ入り、階段の下から「ヘレナ、ヘレナ」と呼んだが返事がない。あれ?寝てる?
 もう一度大きな声でヘレナを呼び、ラビングビーチ沖をオルカが通過したことを伝え、さあラボに戻ろうとすると、メインハウス~ラボ間のデッキの横の茂みから、今度ははっきり女性のうめき声が聞こえた。

「…。」

 うーん、動物でもないし木がきしむ音でもない。でもあんまり謎の声を確認してもいい時刻とは思えない。怖くなって駆け足でラボに戻り、電気のついたラボ内に戻ってヘッドフォンをつけてさっきの声を思い出してみる。でもよく考えるとあの声、リアルすぎる。完全に生きた女性の声だ。もしこれがおばけなら、もっとエコーがかってたり、頭の中で響くに違いない。
 私はきっとゆみちゃんが(なぜか他の誰も脳裏に浮かばなかった)森の中のトイレに行くのがめんどくさくて、そのへんでがんばっちゃってるのかなと思いだし、怖くなくなって、そのことはすっかり忘れてしまった。

 朝起きて、ゆみちゃんに確認すると「昨夜は一歩も寝床から出てない」と言う。モモちゃんとジーナにも聞いたが、答えは同じだった。ヘレナは寝室にいたし…。他に女性はいない。

 …うーんうーん。
 まぁ、いいか!
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 太陽が昇って、北にいたI15sとI33sはウェイントン・パスを通過してジョンストン海峡に入った。いったいどういう経路を使ったのかわからないが、昨晩彼らと共に北へ行ったと思われていたA12sは、ロブソンバイトの向かいに突然現れ、西へと進んだ。

 A12sがハンソン島の西端、I15sとI33sがロブソンバイトにいた午前11時50分、CRPTの水中マイクに、この世のものとは思えないほどのひどい金属音が飛び込んで来た。

 録音していたのはモモちゃんだった。何の音か全くわからないので、モモちゃんはログブックに「ひどい音」とだけ書いた。そこへ、ヘレナが血相を変えて飛び込んで来た。
「タグボートのバージがひっくり返って、積んでいた機材や車がロブソンバイトに沈んだんですって」
 ログブックに印が付けられる。この時は私たちはまだ知らなかった。沈んだトラックから、1万リットルものディーゼルオイルが海に流れ出していることを。

 午前11時54分、タグの荷物がロブソンバイトに沈んだ直後。I33sのコールがCRPTの水中マイクから聞こえた。すぐそばにいたようだが、特に取り乱した様子はなかった。しかし、このころから水面に油がにじみ出して来る。I15sとI33sは、ひとつの群れにまとまって東へ向かって行った。

 午後になってからBCパークの人が確認と対策に動き出し、私たちにも少しずつ情報が入って来るようになった。油が漏れているのは明らかだった。しかも、考えうる限り最悪の場所…生態保護区の中央で。
 メインハウスの電話は鳴りっぱなし。研究者やウオッチングボートとの無線やメールでの対応、テレビや新聞からの取材にも追われ、ポールとヘレナは忙しく駆け回っていた。しかも、タイミングの悪いことに今日は日本からのツアー、メープルツアーが来る日。せっかく来てもらったのに、もてなさずに帰すわけにも行かない。ヘレナは忙しい合間を縫って花を生け、ゆみちゃんはバスハウスの掃除をした。

 午後4時、沈んだトラックから流れ出したディーゼルは、8キロにまで広がった。東に向かっていたA12sは、オルカラボの前を通過して北へと向かって行った。エリア内からオルカがいなくなったことで、私たちは少し安心した。1頭1頭、心から愛しているノーザン・レジデントのオルカたちに、このひどい汚染の中を泳がれたのでは、たまったものではない。

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 メープルツアーはウオッチングボートのトゥアンで無事に到着、かわりにヒデさんがトゥアンに乗って帰って行った。帰国する直前にこんなニュースを聞いて帰ったのでは、心配で仕方ないだろうに…。
 雨の中、私たちはお客さんの荷物を運び、去り行くヒデさんに手を振った。しかし、その間もみるみる油はジョンストン海峡に広がっていた。夜になると、めずらしく南から吹く風のせいで、私たちのところにまで嫌なガソリン臭が漂って来た。油はCP沖まで広がったが、何の対処もできないまま辺りは暗くなって行った。

 タグボートのオーナーは、バンクーバーの会社に油の清掃を頼み、すぐにクルーが派遣されたが、彼らが到着した頃には辺りはすっかり暗くなり、どうすることもできなかったようだった。私たちは決してオルカたちが戻ってこないことを祈りつつ、お客さんを迎えてメインハウスでディナーを食べたが、その途中でショッキングなことにA30sのコールが聞こえて来た。

 オルカたちは臭いを感じることができない。油にさわれば、ぬるぬるして嫌なものであることはわかるかもしれないけど、予測して避けることは難しいらしい。
 A30sは先頭にたって、よりによっていちばん汚染のひどいロブソンバイトに入って行った。そして、ずっと東にいたA4sとA5s、先ほど東に行ったばかりのI15sとI33sも戻って来てしまった。彼らはまるで、ぬるぬるのエリアがどこまで続いているのか確かめるように、ブリンクホーン沖まで進んだ。I15sだけが「みんな北に行くのよねん~」と何かを間違えてブラックニー・パスに入って来たが、皆が東へと方向を変えたのに気づき、方向を変えて共に東へと戻って行った。

 数日前から満足に寝ていない私とヘレナは、ラボを離れることができずにいた。
 日付が変わる。12時半、1時、1時半…。私たちの思いとは裏腹に、オルカたちはなかなか汚染されたエリアを出て行ってくれなかった。彼らが東へ進んでいることがはっきりわかったとき、私たちは深いため息をついた。流れ出した油が彼らの皮膚に影響することは少なくても、水面近くの揮発したディーゼルを吸い込んでいるのはほぼ間違いない。でも油ごときで1頭たりとも失いたくない、私たちと自然とを繋いでくれているオルカたちを。

 ホエールウオッチングボートのナイアッドが、午前3時まで彼らの様子を確認するため海に出ていてくれたが、ひどいガソリンの臭いで気分が悪くなったらしい。午前3時半、オルカたちは汚染区域から出て、ようやく東へと消えて行った。
2007-08-22 : 未分類 : コメント : 3 : トラックバック : 0
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8月18日

 せっかくオルカたちのいない1日休みをもらい、身体を休めて早寝したかったのに、寝袋に入った私の頭の中では、大好きなバンドの新曲が轟音で流れていた。
 やばい、ライブ行きたい…。海に飛び込んでしまいたい…。これ以上ないくらいに目はバッチリさめ、テンションもあがりまくって鼻息を荒くしていたが、モモちゃんもゆみちゃんもスヤスヤ寝ていて、スピーカーからの音に注意を払っているのが私だけというこの状況では、音楽を聴くために耳をふさぐことすらできない。海に入るなんてもってのほかだ。
 呼吸を落ち着かせ、何とか眠りについたのは午前1時くらい。そして、スピーカーからコールが聞こえはじめたのは午前1時半のことだった。

 せっかくがんばって眠ったのに、もう眠気はどこかへ飛んで行ってしまった。東から戻って来たI15s、I33s、A24sはゆっくり西へと進んだ。そのうちA5sも東から戻って来た。私は午前8時ころまでぶっ続けで録音、その後起きて来たゆみちゃんにレコーディングを交代してもらい、9時半ごろまで状況確認のためラボでヘッドフォンをつけていたが、ヘレナに「私が起きて来たんだからちょっとは寝なさい!」と叱られたのでベッドへ向かう。
 だって眠くないんだもん…。ベッドサイドの窓を開けようとすると、そこに長い間巣を作っている3センチはある大きなクモが、隙間にカサコソ逃げた。
 私は別にアラクノフォビアではないので、いつものように顔なじみのクモさんにおはようを言って窓を開ける。毎日顔を合わせる生き物はみんな友達。
 外には、2羽のステラーズ・ジェイが朝の挨拶をしに来ていた。咲と、今年生まれの咲の子供、次郎吉くん(オスかメスかわかんないけど)。

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 ステラーズ・ジェイは1度に2個から6個の卵を産むらしいが、咲を見る限りでは、2羽以上の子供を連れて来たことはない。そして、テリトリーのせいか、それとも生き延びられないのか…子供はそのうちいなくなってしまう。
 でも今年デビューした次郎吉は、相当な大物だ。咲のすることは全部真似するだけでなく、人間のすることも非常によく観察していて、デビューから1ヶ月経過した現在では、私の指さす方向に飛び、止まることができる。…でも、犬ですら指した方角を見ることができずに、指先を見つめるらしいのに、カケスはどれだけの知能を持っているのだろう…。

 1時間半仮眠、でもスピーカーから聞こえるコールが気になって眠れず、起きて、録音するモモちゃんの隣に座って「これは誰々のコールだよ」と指導する。モモちゃんも、2年目だけあって、ちょっとずつコールがわかるようになってきた。
 コールに興味を持ってくれている人に、方言の違いを教えるのは、とても楽しい。その場かぎりの情報しか得られない視覚と違って、音は想像力を豊かにし、感性を鋭くさせ、時にはオルカたちの感情や向かっている方向、つぎにどう動くかまで、はっきりと教えてくれる。写真では見ることができない海の中が見える。オルカたちと同じ世界を見ているように感じる。

 午後3時半、北から戻って来たA12sもジョンストン入り。さすがにちょっと疲れて来たので、もう一度仮眠しようと2階へのぼる。窓の外には、やはり同じように咲がいて、暖かい部屋の中を覗き込んでいた。

咲「ピーナッツくれ」
私「いま、持ってない」
咲「じゃあこれでいいや」

 咲はひらりと窓の上に飛び上がると、隙間にいたクモさんをぱくっとくわえ、私のほうを一瞬見て「何か問題ある?」という顔をすると、クモさんを完全に口の中に入れ、飛び立って行った。
 …あまりにも唐突の幕切れだった。私とクモさんの友情はこの瞬間、終了。

 午後6時ころ、A12s、A4s、A5s、I15sとI33sはCP前で長い間漂っていた。すると、A30sとA11sも東から戻って来て漂う群れの中に合流。
 全く、I15sがいるとみんな泳ぐのをさぼりがちで困る…。

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 ゲストがいないので引き続きメインハウスでのディナーはなし。インスタントラーメンやせんべいばかり食べている私たちを心配して、ジーナが野菜スープを作ってくれた。
 今日のオルカたちは礼儀正しかった。漂っていた全ての群れは東へと向かい、午後11時にはコールは途切れた。疲れきっていた私たちは全員、翌朝までぐっすり眠れることになった。
2007-08-21 : 未分類 : コメント : 0 : トラックバック : 0
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8月16日

 6時前に、外に出ていたゆみちゃんが「オルカ!!」と叫んだ。
 慌てて起きて、デッキに出る。まだ明るくなりきっていないラボの前の海には、オスが1頭、身体を横にして浮かび、胸びれをぱたぱたさせていた。低血圧のせいか、彼のずっと右に浮かんでいる流木らしきものが動いているように見えたので、スコープで確認してみると…うーん、固まって浮かび、ぽよんぽよんとスパイホップ(顔を水面に出す)しているオルカの群れだ…。個体識別する前に、行動でそれとわかる群れなんて他にいるだろうか。これぞI15s。

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 北でA36sと一緒にいたI15sは、満ち潮に乗って浮かんだままラボ前まで流れて来たが、ジョンストン海峡でこの事態を察知したA12sが、A24sをブラックニー・パスに送り込み、I15sは捕まった。そしてA36sに呼ばれ、浮かんだままA24sに連れられて北へと向かって行った。
 彼らが行ってしまい、コールがFIの水中マイクから聞こえはじめたころ、空は徐々にオレンジ色に染まり、朝日がラボの中を照らした。
 しかしこれは、この朝最後の日光となる。

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 A12sと残りのA4sはジョンストン海峡に残った。北へ出たグループのコールは、徐々に遠くなって行った。それとともに空は暗くなり、まるで朝日が昇る前のようなどす黒さになった。暗くてログブックの字も見えなくなって来たので、日の出後にいったん消したデスクライトを再びつけて、耳を澄ませようとすると、目の前の海と空が一瞬眩しいほど明るくなり、ライトが消え、同時に水中マイクにバチッという小さな音が飛び込んできたかと思うと…。

 メリメリッ、ドオオオオォ~ン!!

 ヘッドフォン越しに飛び込んで来た轟音と共に、ラボがふるふるふるっと揺れた。
 さっすがカナダ、何でもでかいと思ってたけど、雷もハンパねぇ~!<(゚ロ゚;)>

 雷は鳴り続けていたが、海の中のオルカたちにはあんまり関係はないようで、彼らはぽつぽつコールを出し続けた。全てのバケツに水がたまるくらい雨がざばーっと降り、そして、さっと止んだ。
 お昼ころには雨はすっかり上がり、雷も止み、再び青空が顔をのぞかせていた。

 お昼過ぎ、A30sとI33sが北から戻って来た。昨日のうちに北に行っていたA30sが、A36sと交代してGクランの群れの付き添いをすることにしたらしい。
 彼らがジョンストン海峡へ入る前に、と急いでポールは子ポールをCPに連れて行った。CPはまだ電気がなく、つまりカメラもなく、パソコンも電話も使えないので完全に島流し状態だ。でも、人間よりもオルカの方が好きな子ポールにとっては幸せだろう…。
 A30sたちが行ってしまってしばらくたつと、ウオッチング船のナイアッド・エクスプローラから「I15sがハンソン島ぞいにオルカラボの方へ向かっているから、心の準備をしておいた方がいいよ!」との無線情報が届いた。みんなウキウキして、それぞれカメラを手にデッキへ走る。I43を含む群れが先頭、そして浮かぶメイングループ。
 そのすぐ後に、ものすごくハンソン島寄りに来た群れがいたので、勝手にI15sの一部だと思って何頭かも数えず、個体識別もせずにみんな喜んで写真を撮ったが…。

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なぜかとれた写真はすべてA24。
どうりでちょっと泳いでると思った。とほほ(´Д`;)

 A24sはハンソン島ぞいに泳いでジョンストン海峡へ向かって行った。I15sは「浮かんだまま」ジョンストン海峡へ向かって行った。
 ちょうどそのころ、恐ろしいオルカたちのイベントが保護区内で始まろうとしていた。まず、A12sと一緒にいた先頭のA4グループがラビングビーチへ。丸い砂利で思う存分身体をこすった。その興奮した声を聞いていたのは、ロブソンバイトに近づいていたA30sとI33s。彼らもすっかりラビング気分に。
 1時間後、A30sとI33sがラビングビーチに到着したとき、先頭グループはまだラビングをしていた。しかし、そんなことおかまいなしに、A30sとI33sは割り込んで行った。彼らは入れ替わり立ち替わりラビングを楽しみ、砂利の音はとぎれることがなかった。しかし、最初のラビングが始まってから2時間たつと、さすがに私たちも心配になって来た。
 テンションあがってこすりまくるのもいいけど、傷だらけになってないだろうか。

 3時間後、A11sと、一緒にいた全てのA5sもビーチへ。ついには最後尾だったI15sとA24sもとうとうこの騒ぎに合流してしまった。かといって最初にラビングを始めたグループがどこかへ行くわけではなく、ラビングビーチはオルカだらけ。もしラビングビーチのカメラが修理されていれば、どんな絶景になっていたことだろう…。
 オルカたちがラビングビーチのレコーディングはとても忙しい。普段のレコーディングは、1~2分に1度、状況を書き込めばいいのに対し、ラビングビーチはできる限り、聞こえた全ての音を文章でも記録しなければならない。私はいつまでたってもビーチから動かないオルカたちに「このままでは倒れる」と感じ、モモちゃんにレコーディングを交代してもらった。しかし、モモちゃんも今期2時間半のラビングを録音した運のある、ラビングガール。砂利の音と興奮した鳴き声はいつまでたっても終わらなかった。
 最初のラビングから4時間後、ようやくオルカたちは東へと移動しはじめた。
 おーい、まだ皮膚残ってる?(;¬д¬) 次にこの群れを見る時は、きっとみんなピンクオルカになっているに違いない…。

 コールが次第に遠くなり、そして消えると、私たちは机に突っ伏した。こんなにがんばったけど今日のディナーは、なし。でも、状況を察してくれたポールが「この間の残り物だよ」と言ってラザニアをデリバリーしてくれた。
 すっかり疲れきったオルカたちは遠い東へと向かって行った。そして、私たちの疲れが取れるまで、翌日もエリア内に戻っては来なかった。
2007-08-20 : 未分類 : コメント : 0 : トラックバック : 0
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8月15日

 午前4時、森の中のトイレから帰って来た私は、これでゆっくり寝られると安心してラボの2階へ戻った。寝袋に入って5分、眠りに戻らなければと努力していると、枕元のスピーカーからコールが聞こえて来た。おおっと、仕事だ。

 録音スタート、しかし…とても近いこのコールは、CPの水中マイクからだ。明らかに、ブラックニー・パスを通過してジョンストン海峡に入りました的な…(´Д`;)どうしてトイレに行ったとき、もっと耳を澄まさなかったのだろう?ジョンストン海峡に消え行くブローのひとつぐらい聞こえたかもしれないのに。
 コールの主は、昨夜ブラックニー・パスに入りかけてやめたA34sのようだった。彼らは東へ向かい、5時半ころ水中マイクのエリアから出て行った。

お客さんの余りもので今日も朝食が支給された☆
ジャムをたっぷり塗ったさくさくのスコーン
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 8時前、東に行っていたオルカたちがいっせいに帰って来た。A30s、A12s、A4s、I15s、I33sと、次々と別の群れのコールが聞こえて来るので、私は朝からてんてこまいで、ヘレナに「WDCSのお客さんたちが帰っちゃうから、ヘッドフォンを置いてちょっとさよならを言いに来なさい。そして、ポールにも挨拶したいでしょう」と言いに来るまで、今日の予定をよく把握していなかった。ていうか、ポールに挨拶?
 ゲストハウスの海岸に出て、ツアー客の荷物をバケツリレー方式でウォータータクシーに運ぶ。重い荷物を運びつつ、阪神タイガースカラーのいつものタクシーにちらっと目をやると…運転手の他に、誰かが乗ってるではないか。
 ええっ、子ポールじゃん!?Σ(゚Д゚ノ)ノ 

 お客さんと荷物を乗せ終わった後、子ポールはウォータータクシーから降りて来た。そういや、ヘレナが以前「子ボールはあとから来るわよ」と言ってたけど、いつ来るのか全く聞いていなかったし、私もモモちゃんもめんどくさくて(忙しくて!)本人にメールして聞くのをすっかり忘れていた。
 子ポールはフランス出身の学生で、オルカラボアシスタント3年目になる。ここ1年ビクトリア大学に留学していて、研究室でオルカラボのアーカイビングを手伝っていたが、フランスに帰る前にもう一度大好きなオルカラボに来られるよう、日程を調整したらしい。そういや彼は昨年のクリスマスもラボに来て、夫妻と過ごしたようだった。すっかり気に入られて、まるでふたりの息子みたいだ。

CPでカメラを担当する子ポール
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 上陸した子ポールに、さっそくポール博士が「CPに行くまでに30分は時間があるから、リラックスするといいよ」とジョークを飛ばす。子ポールが来たのはもちろん、CPの海上カメラを担当するためだ。個体識別もできるし、撮影も上手く、こんなにCPに適した人材はいない。今年は誰もCPのヘルプには行けないから明日からずっとひとりぼっちで、今晩しかヘレナの料理が食べられなくて可哀想だけど(笑)。

 西へと進んだA30sはウェイントン・パスを通過して北へと抜けた。ゆらゆら流れるI15sを連れたA12sは、ブラックフィッシュ・サウンドに出たA30sに「I15sをブラックニー・パスに押し込んでもいい?」と聞いたが、A30sはいったんブラックニー・パスに顔を出し「まだ迎えが来ていないからダメ」と言って、北へと戻っていった。
 A12sはそのままCP沖で数時間待った。午後10時ころ、ようやく北に迎えのA36sが到着。彼らのコールを聞いたA12sはI15sと付き添いのI33sをブラックニー・パスに押し込み、A4sと共に東へと戻っていった。

 A36sはI15sとI33sを連れて北へと進んだ。A12sとA4sはロブソンバイト沖で食事をしているようだった。
 もうすぐ東に消えるだろう、今にもCRPTの角を曲がるだろうと甘く見ていたのが悪かった。A12sはCRPTの角ぎりぎりで鳴き続け、私は午前2時に「僕もレコーディングしたい!」と意気込んでいた子ポールを起こし交代してもらって、もう何の音も聴かないように寝袋に深くもぐり込んで眠った。
2007-08-18 : 未分類 : コメント : 2 : トラックバック : 0
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8月14日

 せっかくぐっすり寝ようと思ったのに、ガラス張りのラボの2階では、日の出後は暑くてとても寝ていられない。
 でも、8月半ばはいつもこんなものなので、睡眠のことは考えずに仕事に集中することに。ラボに入り、ログブックのチェックをして、昨日1日のオルカの動きをまとめ、いつヘレナに聞かれても答えられるよう準備しておく。

小魚を探すオオアオサギたち
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 午前11時半過ぎ、東から引き潮に乗って戻って来たI15sと、付き添いのI33sのコールがCRPTの水中マイクから聞こえて来た。彼らはハンソン島の西端で方向を変えたが、CP沖まで進んだところで海藻か何かに引っかかり、顔は東を指したまま、動かなくなってしまった。1時間くらい引っかかった後、ようやくI15sとI33sは満ち潮に乗って、東へ流れていった。

 キャンプキッチンでパンをかじり、引き返して来たわたしに向かって、ラボの玄関先にいたゆみちゃんが何か大声で叫んできた。
「黒い犬が…」
興奮して何を言ってるのかわからなかったけど、呼ばれてるのはわかったので、とりあえずラボに走る。すると、メインコーブに1隻のボートが入って来た。乗っているのは、男性ひとり、女性ひとり、そして、黒い犬。
「!!」

 私たちは全員で歓声をあげながら海岸へと走り、大きく手を振って、到着するボートを迎え入れた。それは、ジョンストン海峡の歴史に残る偉大なウオッチングボート「ブルーフィヨルド」のキャプテン・マイクとジュディ、そして愛犬シャドウだった。
 昨年末、とても不幸な事故があり、何の前触れもなくブルーフィヨルドは広い海に沈んでいった。乗っていたのはマイクとシャドウだけだったが、どちらも移動用ボートに乗り込んで助かった。でも、ボートに乗っていた思い出はあまりにも大きかった。私たちは、去年ラボを出る時にブルーフィヨルドに1泊し、アラートベイまで送ってもらったのだが、それがあの船とのお別れになってしまった。
 
 でも、私たちの大好きなマイクとジュディは、ジョンストン海峡にやってきた。今年も変わらぬ笑顔で、丸々と太った黒い犬を連れて!!

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 今夜のディナーはサーモン・バーベキューだった。カートがサラウベリーの葉で燻して香りをつけ、美しい焼き色のサーモンがテーブルを彩った。

 ディナー中、A34sとA36sのコールがFIの水中マイクから聞こえて来た。私たちはお皿を抱えたままラボに走り、北の方へスコープと双眼鏡を向けて、彼らが視界に入って来るのを今か今かと待っていたが、急に「やっぱり今じゃなくてもいいや」と思ったのか、彼らは方向を変えて北へと戻ってしまった。

 午後9時頃、コールも聞こえなくなった。ラボの外ではカマイルカの呼吸音が聞こえていた。波は穏やかで、お客さんたちもディナー後、デッキでしばらくいろんな生き物たちの呼吸音を聴きながらハンソン島ツアー最後の夜を楽しんでいた。私たちは万が一のため、いつでも起きられるよう心の準備をしつつ、寝袋に入った。
2007-08-18 : 未分類 : コメント : 2 : トラックバック : 1
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8月13日

 午前6時、枕元のスピーカーから「カカカカカッ」と激しいエコロケーションが聞こえた。寝袋から飛び出てラボへ、ヘッドフォンをつけると…んん?ジョンストン海峡から、A34sのコール?
 別にそれは不可能なことではない。昨日北に行った後、黙ってウェイントン・パスを通過して、ジョンストン海峡に戻ったのかもしれない。でも、どういうわけか私はこのコールの主がハッスルばあちゃんA12とその息子のA33だと強く感じてほっとしていた。彼らはその後ずっと鳴かず、午前8時過ぎにオルカラボの前に現れた。

 やはり、コールの主はA12とA33だった。でも、今日の彼らはひっきりなしに、A34sが好んで出すコールを使っていた。ああ、そうか。娘家族を呼んでいたんだ。どういうわけで2頭が娘家族と行動を別にすることにしたのかはわからないが、こうして猛スピードで北へ向かっているのを見る限り、健康状態に問題はなさそうだった。

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 お昼過ぎ、北で娘家族とどういう会議をしたのだろうか、A12とA33は再び2頭で戻って来た。彼らはとても急いでいた。そのわけはすぐにわかった。彼らが世話してあげなければ、すぐにどこかに流れていってしまうI15sが東から戻って来たから。

 A12とA33はCP沖でI15sを待ち、引き潮に乗って「こっちよ~ん」と鳴きながら流れていくI15sを何とかジョンストン海峡に留めようとしたが、たった2頭では無理な話だった。彼らをウェイントン・パスに置き去りにし、A12とA33は北から再びオルカラボの前に現れた。
 今度は、2頭は急いではいなかった。夕日が沈む前のオレンジ色の光の下、A12とA33は寄り添って、ゆっくり、ゆっくりと仲間の待つジョンストン海峡へ、東へと向かって行った。

 I15sの世話を請け負ったのは、娘家族のA34sだった。
 「お姉様軍団」I15sがいるのといないのとでは、赤ちゃんが増える速度が全く違う。泳がない、動かない、喋ってばかりで、すぐどこかに引っかかるとはいえ、この大雑把な性格のメスたちはとにかくモテるのだ。何とか他の群れが到着してオルカたちのお見合いパーティーが開かれるまで、ジョンストン海峡に留めておかなくてはならない。

本日のデザート、レモンメレンゲパイ!
写真撮る前にちょっと食べちゃったけど
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 午後10時ころ、A34sはI15sとI31sをブラックニー・パスへと連れて来た。辺りはもう真っ暗。オルカたちの呼吸音はブラックニー・パスじゅうに広がり、神秘的に響き渡り、さらに私たちの頭上にはペルセウス座流星群が降り注いでいた。
 WDCSのお客さん、アシスタント全員、そしてポールとヘレナも、ラボのデッキでオルカたちの呼吸音を感じながら、空に走る星たちを見ていた。声を漏らすことすらできない、とても完璧な瞬間。

 しかし。
 どれくらいの時間が経っただろう。私たちは少し前から何となく、目の前のオルカたちのブローがほとんど動いていないことに気がついていた。さらに、雰囲気をぶち壊しにするように、ラボの中からガラス越しに、水中マイクで拾っている「こっちよおぉぉ~ん、んご~、こっちよ~ん」という鳴き声。う、うーん…(;¬д¬)

 I31sは先に行ったのに、I15sは、動かなかった!!それも当然、まだ引き潮。連れられて来たはいいものの、そこから先には進めずに、ぷかぷか浮いたまま潮の流れを待っているようだった。こんなに贅沢な状況のはずなのに、ちっとも進まない彼らの呼吸音。デッキは寒く、次第に脱落者が出始めた。ヘレナはラボの中録音に戻り、ポールはメインハウスに皿洗いに戻り、お客さんたちはゲストハウスに戻ってしまった。
 かわいそうに、A34sは後ろから一生懸命、動かないI15sを押していた。引き潮の流れが弱くなり、満ち潮へと変わりかけたころ、ようやくI15sはジョンストン海峡へ流れていった。彼らがジョンストン海峡に入ったことを見届けると、A34sはA36sの待つ北へと戻っていった。
 
 ジョンストン海峡では、彼らが戻って来るのを待ち受けていたA12とA33が、東へ流れるI15sたちに付き添ったようだった。彼らは東へと向かい、少しだけラビングビーチに立ち寄った。私は3時に録音を止め、2階へ登って寝袋の上に倒れた。
2007-08-17 : 未分類 : コメント : 2 : トラックバック : 0
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8月12日

 私は眠い目をこすりつつ、毎年のことながら、ヘッドフォンから聞こえるこの群れのコールが本当にオルカのものなのかどうか「うーん、うーん」と考えていた。
「こっちよ~ん、こっちよぉ~ん」「ぷるるるおっ」「んご~」などと、ふざけているようにしか思えない鳴きかたで、その群れはオルカラボの前を通過していく。オルカのコールというよりは、人間の声に近いのではないだろうか…。

 その群れの名はI15s。A30sとA11sがジョンストン海峡をうろうろして、ずっと待っていた家族。そして、待ちきれなかったA36sが、北まで迎えにいった家族。ほとんど泳がず、水面に浮かんだまま潮の流れに身を任せてゆらゆら流れ、ふざけたようなコールを出しまくり、それでもとてもみんなに愛されている、ジョンストン海峡名物のお姉様軍団だ。

 A30sとA11sがエスコート役として全体をリード。今年の仕切り役は、どうやらA11sのようだった。目で確認した情報しか言葉にしない、あのシリアスな研究者のグラエム・エリスさんにさえ「A11sはオルカたちの家族をシャッフルしている」とまで言わせるくらい、A11sは張り切っているようだった。他の群れとの親睦を深めさせ、また今年も新しいカップルを誕生させて、コミュニティの未来に繋げるためだろう。

 今回、I15sは親戚のI31sを連れて来たらしく、I31sが発する琴のような不思議な音「ピン」も聞くことができた。I15sの動きが遅いので、後ろからA36sの3兄弟が一生懸命押していく。オルカたちは満ち潮に乗ってジョンストン海峡を東へと進んでいった。午前3時、海はようやく静かになり、私は録音をストップさせた。

 今日はイギリスからのツアー、WDCSが来る日。でも、バスハウスのフロアや鏡やシンクもぴかぴかにしてあるし、掃除してベッドメイキングが終わっているゲストハウスにもお花を生けて、準備ばっちり。

 午前11時過ぎ、東にいたA12sを先頭に、オルカたちが水中マイクのエリアに続々と戻って来た。全てのAポッドがジョンストン海峡に集合し、エリアいっぱい使って泳ぎ回り、I15s、I31sとの再会を楽しんだ。
 午後3時、それぞれオルカたちは方向を変えて東へ。A36sの3兄弟はCP沖にいたが、ちょっとどうしようか迷っているようだった。

 午後4時半過ぎ、I15sたちの世話を、あとのオルカたちに託すことに決めたらしいA36sはオルカラボの前に現れ、北へと向かった。明らかに急いでいるのがわかった。オルカたちのこういう態度を目にしたとき、私たちは何となく期待してしまう、今シーズン初の群れが近づいて来ていることに。
 私たちが冷や汗を流すことになったのは、そのしばらく後のことだった。

濡れた羽を乾かしたいハクトウワシさん
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 A36sを除く全ての群れは、東に向かったと思われていた。しかし、6時ちょっと前にA12sのコールがPIの水中マイクから聞こえて来た。ブラックニー・パスに入って来そうだったので、私はラボの中から双眼鏡で海を見ていた。
 
 まず視界に現れたのは、A12sの美少年、A55だった。彼が群れをリードしていることなんてまれなので、ちょっと驚く。ふだんA12sを率いているのは、1941年生まれ、66歳のハッスルばあちゃんA12だ。
 A55は急いでいた。A36sの後を追い、一刻でも早く北へ行こうと、すごいスピードで泳いでいた。彼の妹や母親のA34が少し遅れて視界に現れた。が、ばあちゃんがいない。そして、ばあちゃんの息子、A33もいない。

 A55とA34sが北に消えてから、私たちはかなり長い間、A12とA33が追いかけて来るのを待った。しかし、2頭の姿はどこにもなかった。ばあちゃんはもちろん高齢、息子のA33は1971年生まれの36歳、オルカのオスの平均寿命を超えている。

 A55より先に行った2頭を、私たちが見逃したのかもしれない。いや、ウェイントン・パスを使って北へ出たのかも…。私たちはどうにかして不安を拭おうとしたが、それを助ける手段はその時はどこにもなかった。

 東に向かっていたA4sとA5sは、ずっとロブソンバイト沖で何かを待っているようだった。すると、いったん東へ行っていたI15sが引き潮に乗って流れて来たので、彼らもCP沖まで付き添った。11時過ぎ、潮は満ち潮に変わり、I15sは東へ流れ出したので、A4sとA5sもクレイクロフト島沿い東に戻ったようだった。コールはCRPTの水中マイクのエリアでとても遠くなり、消えた。
 午前1時過ぎには全員が眠りについた。心の中に、少し不安を抱えながら。
2007-08-17 : 未分類 : コメント : 0 : トラックバック : 0
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8月11日

 前日からレコーディングの間に作りはじめた折り紙の小箱が果てしなく積みあがる。
午前1時、A30sとA11sはようやくCRPTを通過して東へ行った。しかし、その先にはもうひとつ水中マイクが控えている。午前2時、A11sがラビング。いったんコールはなくなったので、私は録音を止めてふらふらと2階へ登り、寝袋にもぐり込んだ。

 午前3時半ころ、遠いコールが聞こえて来た。がばっと起きたものの、ヘッドフォンをつけてがっかり。さっき東へ行ったばかりのA30sとA11sだ。眠気でこっくりこっくりしながら、もう折り紙で遊ぶ気力もなく、コールが聞こえたときのみ、ボールペンを動かす。1時間後、さすがに限界を感じ、どのオルカがいるかもわかっているので、「うう、代わって…」とモモちゃんを起こし、交代してもらって私はぐっすり寝た。

あ、今日は霧だ…。
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 とは言っても、いつまでも寝ているわけにはいかない。今日は次のツアー客が来る前日、つまりゲストハウス設営の日だ。
 いつもの時間に起床し、さっそくログブックをチェック。モモちゃんの字が徐々に眠気で汚くなって行くのがよくわかる…。A30sとA11sは、水中マイクのエリアに入って来て騒いだだけで、結局東に戻ってしまったらしかった。

 お昼ころ、東に戻っていたA30sとA11sは水中マイクのエリアに帰って来た。私たちはヘレナに今日の準備リストをもらっていたので、録音とゲストハウス組にわかれて準備をすることにした。ジョンストン海峡に2家族しかいないので、私も今日はレコーディングから離れてゲストハウス準備組。

 ゲストハウスは、自然の中に建てられているのでどうしても落ち葉や虫が入りやすい。頻繁に掃除しても、またすぐにクモが巣を張ってしまう。私はほこりまみれ&頭からクモの巣だらけになりながらあるゆる場所の掃除をし、くしゃみと鼻水とのどのかゆみが止まらなくなり、いちばん強いアレルギーの薬を飲んだ。

 疲れている所に、強い薬。まだ午後なのに眠気に襲われ、ゆらゆら揺れながらレコーディング。しかもせっかくベッドメイキングしたのに、夕方から強い雨が降って来た。ウォータープルーフではない方のテントがやばそうだったので、みんなでブルーシートを張り直す。明日まで大丈夫だといいけれど…。

 5時半ころ、A30sがオルカラボの前に現れた。彼らに続いて、A11sも現れた。ここ数日、違う家族のオルカとの親交を深めたスプリンガーは、今日はちゃんと家族に戻り、A11とA56の間でちょこんと泳いでいた。

歳を重ねるごとにますます似て来たA30sのオス2頭
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 実は彼らがジョンストン海峡を行ったり来たりして、北へと顔を向け、鳴き声に耳を済ませ、今か今かと待っていた群れは、もう、すぐそこまで来ていた。…来ていたのだがその群れは、はてしなく進むスピードが遅かった!!

 今日もディナーがなかったので、疲れ果てた私たちは午後9時には何も食べずに寝袋に入り、すやすやと寝ていた。泳ぐのが遅い例の群れを北でようやく捕まえたA30sとA11sは、方向を変えて、オルカラボの方へと戻って来た。
 午後10時半過ぎ、私は飛び起きた。枕元のスピーカーから、とてもオルカとは思えない、変な鳴き声が聞こえていた。
2007-08-15 : 未分類 : コメント : 0 : トラックバック : 0
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8月10日

 早寝したのは正解だった。再びコールが聞こえ出したのは午前2時。私は果てしなく低い血圧と戦いながら、ふらふらと1階に降りて、録音をスタートさせた。コールを識別できるほどの気力はなかったが、ありがたいことに、東から戻って来たのは最も聞き分けが簡単なA30s、A4s、A5sというメンバーだった。

 オルカたちはロブソンバイトのエリアから動かなかった。午前4時ころ、ポールが真っ青な顔をして「システムは大丈夫か」とラボに走って来た。聞けば、ふだんは電圧のメーターが残量11.5以下で停電になるのに、現在のボルテージはそれをはるかに超えた10.4まで下がっているのだと言う。これでは、なぜ普通に録音が続けられるのか不思議なくらいだ。ポールは発電機を始動させようと思ったらしいが、そうするとレコーディングに小さなノイズが入るので、どうしようか迷って私に聞きに来たらしい。
 オルカたちは保護区のエリアにいて、鳴き声はとても美しかったものの、少しばかりボートの音が入ってしまっているから、発電機のノイズが入ってもあまり変わらないことをポールに伝えると、彼は発電機のエンジンをスタートさせに行き、コーヒーを入れて戻って来た。

「トモコ、外に出なさい」
コーヒーを持って来たポールが、なぜか外に行けと急かすので、私は懐中電灯で足下を照らしながらラボの玄関先に出た。
「ほら、見なさい、ビューティフルだ」
ポールが指したのは南東の空。どす黒い雲と、どす黒い島の間の空がちょっと途切れて、灰色になっている。私は自分の目がひどい鳥目だから、真っ暗で何もいいものが見えないのかなとゴシゴシ目をこすったが、ポールは両拳に力を入れて、
「新しい日だ」
と言った。

 発電機を始動させ、電力の心配がなくなって絶好調のポールは、その後もアーカイビングのテープをセットするために何度かラボとメインハウスの間を行き来したが、ラボに入る度にちょっとずつ白みが増す灰色の空を指さして笑顔を見せるので、私も合わせて「ビューティフル」と言い続けた。天気はくもり、空は灰色のまま太陽が昇り、辺りは明るくなって行った。

 A30s、A4s、A5sはゆっくり西へ進んで来ると、10時前にオルカラボの前を通過して北へと向かって行った。再びごちゃ混ぜグループで、スプリンガーはまたしてもA11sとは違う群れ(おそらくA35s)と一緒に泳いでいた。これだりの数のオルカが1カ所に集まり,食べものの量の心配をすることなく、一緒に泳ぎ回れるのは、サーモンが豊富な夏のこのシーズンだけだ。社交的なオルカたちにとって、この季節はどんなに楽しいことだろう。

 彼らは北に出ると、ウェイントン・パスを通過してジョンストン海峡へ戻った。スプリンガーは今度は養ってもらっているA11sの後ろで、A8sと一緒に泳いでいた。全体をリードしているのは、何と先日赤ちゃんを失ったばかりのA56だった。お母さんが亡くなると自分も心労で死んでしまうことが多いオスに比べて、メスはやはり精神的に強いようだ。自分が生きて、新たに子供を産み、自分の家庭を作って行かないと、この小さなコミュニティの未来はない。ただひたすら、前向きに。

 私たちは交代でずっとレコーディングをしていた。暗くなってラボの電気がつけられたころ、私たちはレコーディングのかたわら、新しい遊びに夢中になっていた…それは、折り紙。えっと…なぜ今さら折り紙(;¬д¬) ?って感じだが、サウンドバムで来た友達が、英訳つきの折り紙の本をヘレナにプレゼントし、ヘレナが「見本つくってみて」とラボに持ってきたので、「めんどくさそうだなぁ」と思いつついろいろ作ってみたら、めちゃくちゃ楽しいじゃないですか折り紙!和の心!

折り紙の小箱の中に小箱
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レコーディング中はヘッドフォンを外せないし、イスから立ち上がって動き回ることもできないが、聞こえて来る音をログブックに書き込む合間に、手は動かせる。私たちは無心に箱を作り続けた。オルカたちはなかなか鳴き止まず、箱は次第に積み上げられて行った。A30sとA11sは東向きでCPの前を通過。残りのA4sとA5sはCPRTを通過した。長い夜になりそうだった。
2007-08-15 : 未分類 : コメント : 0 : トラックバック : 0
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8月9日

8月9日

 午前6時半、I11sとA30s、そして彼らに続いてA12s、A24s、A51sとA43sが東から戻って来た。まだとても遠いコールだったが、すやすや眠っていた私の中の何かが反応し、飛び起きて録音開始。

 今日はサウンドバムのお客さんたちが島を出る日。録音の途中、モモちゃんに代わってもらってトイレに走ろうとすると、サウンドバムで来てくれた友達が、ここでどうしても見たかったミソサザイが見られないのと言って悲しそうにしていたので、バスハウスの裏の木の下に連れて行って、いつもいる子を見せてあげた。茶色くて、小さくて、見かけより全然大きな声で鳴くとても可愛い鳥。でも暗がりにしかいないから、なかなか写真には撮れない。
 今年は本当に鳥に恵まれた年だ。

サウンドバムをラボのデッキから見送るリオ
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 9時過ぎ、私たちに「食べ物をいっぱい残しておいたから」との言葉を残して、サウンドバムの一行は帰って行った。私たちはボートが見えなくなるとゲストハウスに走り、残されたたからものをチェックした。まだ箱が開いていないシリアルやジュースなどは、ポールの朝ご飯にとヘレナに没収されたが、野菜やお菓子などは私たちがもらえることになり、さらにビールとジンジャエールまで支給された。たからものを目の前にして、私たちはウキウキで使い終わったシーツやタオルなどの後片付けをした。

 オルカたちはCP前でしばらく遊び、I11sの中の1頭がブラックニー・パスまで入って来て魚を捕った。しかし、後続が来ることはなく、入って来たオスもジョンストン海峡へ帰って行った。

 オルカたちは西へと進んだ。A30sはI11sをウェイントン・パスまで見送り、I11sはA30sにさようならを言って北へと向かい、その他のオルカたちは全員ターンして東へと向かった。
 モモちゃんとゆみちゃんは、ツアーのお客さんを無事帰して気が抜けてしまったのか、疲労で眠ってしまったので、私はずっとひとりでレコーディングしていた。午後7時、北へ抜けたI11sのコールがFIの水中マイクから聞こえて来た。彼らのコールが聞こえなくなったころ、無線で不思議な情報が飛びこんできた。

 それは、オルカラボの向かい、ホワイトビーチでキャンプをしている人たちからの情報だった。オルカの群れが、ホワイトビーチ沖を北へと向かっているという。

 キャンプしている人たちは、北のブラックフィッシュ・サウンドの方を見ているのだろうか?しかし、倍率の高いスコープでも持っていない限り、見るのは難しいだろう。東へ向かって行ったと思われる群れの一部が、こっそりブラックニー・パスへ入って来たのだろうか?

 ヘレナが、どんな音が聞こえているのかとログブックをチェックしに来た。私は、無線でレポートしてくれた人が「ホワイトビーチ・パスからオルカが出て来た」と言っていたのではないかと思って、ラボの中から双眼鏡で対岸を見た。すると、ブローらしきものが見えた。
 コールもなしにこんな水路を通って来るのは…A24sか、トランジェントしかいない。

「オルカ!!」

 私は2階の寝ているふたりに向かって叫び、すぐにスコープを持ってデッキに出た。ヘレナは、北のドネガル・ヘッド沖で釣りをしていたジェレッドに連絡。新しいIDカタログの編集者のひとりであり、公式に写真を撮る許可を得ているジェレッドは、すぐにボートをラボ前まで飛ばして、その群れがトランジェントのT100sだと識別してくれた。

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 T100sは、きらきらとした夕暮れの青い海の中を、家族一緒に、とてもゆっくりと泳いでいた。何度も水面に出て呼吸をし、スピードも遅かったので、私たちはこの群れがあまり健康な状態ではないのかと心配したが、彼らは黙って、ジョンストン海峡の方へと消えて行った。

 A30s、A12s、A24s、A51sとA43sは、そのままずっと東へ進み、ロブソンバイトで少しだけ魚を捕って、水中マイクのエリアを出た。
 今日はゲストが帰った日でヘレナも休息が必要なので、メインハウスでのディナーはなし。ゆみちゃんが、残り物の白いご飯を焦がし醤油で炒め、焼きおにぎりを作ってくれた。

暗くなる空がピンク色に染まっていた。私たちは翌日に備え、早めに眠りにつくことにした。

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2007-08-14 : 未分類 : コメント : 0 : トラックバック : 0
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8月8日

 午前4時、枕元のスピーカーから何か聞こえたような気がしたので、ラボに降りて北のFIの水中マイクの音量を上げると、聞こえるか聞こえないかわからないようなコール。
 どうやら、A30sが北で仲間を見つけたようだった。コールはいったん途切れて、私は録音を止めた。

 午前6時、今度は大きなコールがFIの水中マイクから聞こえて来た。A30sは、A4sとA5sを連れて来たらしい。30分ほどすると、オルカたちが視界に現れた。サウンドバムのお客さんに知らせなければならない。私たちは「オルカー!!」とゲストハウスに向かって叫んだが、反応がなかったので、直接呼びに行った。

 お客さんたちがカメラを抱え、わらわらとデッキに集まって来る。A5sを先頭にして、たくさんのオルカがラボの前を通過した。スプリンガーはごちゃ混ぜになった群れと一緒に泳ぎ、普段彼女の世話をしてくれているA11とA13は、ごちゃ混ぜの群れからかなり遅れて、最後尾で全ての群れを見守るように泳いでいた。

 彼らがジョンストン海峡へ行ってしまうと、今度はA30sとI11sが北から現れた。彼らはきっちり家族でまとまって泳いでいたので、個体識別もラクだった。全てのオルカがジョンストン海峡へ消えたとき、時刻はすでに10時近くになっていた。

 モモちゃんに交代してもらって少し仮眠、でもコールが止まないので2時間で起きて再びレコーディングに入る。
 A4sとA5sはラビングビーチに立ち寄ったあとそのまま東に進んだが、A30sとI11sは、ラビングの後方向を変えて西の方へ進んで来た。

午後の優しい光の中でお昼寝する博士
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 A30sたちがカイカシュ川沖を通過しているころ、東からA36sが戻って来た。A36sは西へと進み、西のワステル沖まで進んだA30sとI11sもA36sに会うために方向を変えてCPの方へ進んで行ったが、彼らはCP沖でちょっと挨拶してすれ違った。A36sはブラックニー・パスに入り、オルカラボの前に現れた。A30sとI11sは、東へと向かって行った。

 再びお客さんたちがデッキに呼ばれる。A36sの3兄弟は並んで、凄いスピードで北へと向かって行った。陸上からでもこれだけオルカが見られるのだから、お客さんたちもはるばる日本から来たかいがあっただろう。
 
 夕方から、元すし職人のゆみちゃんはヘレナに呼ばれてメインハウスでせっせとお寿司を作っていた。ディナーの時にヘレナの料理と共に美しい巻き寿司が食卓に並び、私たちは久しぶりの日本の味に涙した。

 A30sとI11sは東へと進み、水中マイクのエリアから出て行った。今夜はしっかり寝られるのだろうか。サウンドバム最後の夜だったが、私たちはあまり寝ていなくて、もういたずらを考えることはできなかった。デザートにヘレナ特製のアップルクリスプを食べ、私たちはラボに戻って倒れ込むようにして眠った。
 A30sとI11sは、暗くなってゆく東の海で、仲間の声を捜していた。
2007-08-14 : 未分類 : コメント : 0 : トラックバック : 0
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8月7日

 A12sとA24sは西へと進んできた。モモちゃんがレコーディングを続けてくれていたが、CPの水中マイクから近いコールが聞こえて来たので、私も寝られたものではなかった。オルカたちはラボの前を通過して北へ向かった。暗闇に彼らの呼吸音が響き渡った。サウンドバムのお客さんにとってはいい瞬間だっただろう。
 午前1時過ぎにコールも聞こえなくなった。オルカたちは北へと消えて行った。

 霧がひどい。白い壁のせいで、対岸があるのかどうかすらわからないくらい。
 午前11時過ぎ、A12sとA24sが北からこっちへ近づいていることが判明し、私は録音の準備をしようと水中マイクの音量の調節をした。すると、CRPTのひどかったボートノイズが遮断された瞬間、北のFIの水中マイクからレスティングコールが聞こえて来た。A12sたちはまだ水中マイクのエリア外、ということは、これは近くにいたA30sか。

 霧の中、彼らの呼吸音は南へと進んだ。お昼過ぎ、ようやく北にいたA12sとA24sもウェイントン・パスを通過してジョンストン海峡へと入った。

 ラボの前にはアメリカヒレアシシギがうじゃうじゃ。
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 私たちがジョンストン海峡をウロウロするオルカたちのレコーディングに追われていると、ラボの前の海を青いバイダルカが通過した。お客さんたちが3人乗りで楽しんでいるのだろうか。デッキへ出て、双眼鏡で見ると…あっ、最後尾がヒデさんだ!!

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 ゆみちゃんはディナーの準備でヘレナの手伝いに行くので、私とモモちゃんが交代でレコーディング。A24sとA12sは、ラビングビーチへ立ち寄った後、東へ進んで行った。彼らとすれ違って西へ向かったA30sは、ウェイントン・パスを通過して北へと抜けた。

 さて、お客さんからのタレコミで、今回のツアーに同行している新人のバンクーバーのツアーガイドさん(男性)が、必要以上に恐がりということが判明した。ベテランの旅行会社のEさんと、音の専門で同行している先生の両スタッフが「思い出作りのためにびっくりさせてあげようよ」と言って来たので、わたしとモモちゃんはいたずら心に火がついた。普段、わたしたちをストップさせてくれるゆみちゃんまで巻き込んでの大プロジェクト!!

 私たちはとっぷり暗くなってからラボの電気を消した。旅行会社のスタッフさんと音声の先生、そして私とモモちゃんは、音をたてないようそっとデッキに回り込み、息をひそめた。
 ゆみちゃんが「メールを確認してもらえますか」とゲストハウスまでガイドさんを呼びに行った。ちょうど仕事のメールを確認するところだったので、ガイドさんは何の疑いもなくゆみちゃんについて行った。
「ラボの中、電気つかないんですよ」
ゆみちゃんは懐中電灯でパソコンを照らし、彼に勧めた。彼がパソコンの前に立ったところで、デッキに立っているモモちゃんがガラス越しに…

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(こっちの方が怖いので、ゆみちゃんで再現)

「うわああああ!!」
ガイドさんはのけぞって自ら後ろに吹っ飛び、イスに突っ伏してプルプル震えた。様子を見守っていたゆみちゃんは、彼が小さい声で「マ、ママン…」とつぶやくのを聞いた。私たちは大爆笑しながらスタッフさんと共にラボ前に走り、ネタばらし。ガイドさんは5人もの人数がこのプロジェクトに関わっていたことにさらに驚いたが「もう少しでちびるところでしたよ…」とようやく言葉を絞り出した。
 彼の恐がりが本当なのかキャラ作りなのかはわからないけど、とにかく忘れられない思い出になったことだろう。(今回はツアースタッフどうしのいたずらなので乗ったけど、ツアーに参加するお客さんにはこんなことはしません、念のため!)

 再びコールが聞こえて来る様子はなかった。私たちは笑いすぎて疲れ、満足して、そして安心して寝袋に入った。
 クイーンシャーロット海峡に出たA30sは、北西の方角に顔を向けて、この広く暗い海の中のどこかにいる仲間の声を聞こうと、耳を澄ませていた。
2007-08-11 : 未分類 : コメント : 6 : トラックバック : 0
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8月6日

 7時過ぎに目覚めたものの、寒くてなかなか寝袋から出られず、かなりの時間もぞもぞして過ごしていると、8時前に枕元のスピーカーから勢い良くカカカカカッ、とエコロケーションの音が聞こえて来た。何よりの目覚まし!

 レコーディングスタート、エコロケーションの主は東から戻って来たA30sだった。彼らは西へと進み、お昼前に東へとターンした。

なんかちょっと不思議な雲
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 ヘレナが昨日の残り物とケーキを持って来てくれたので、私たちとヒデさん、そしてジーナとて一緒にお昼を食べることにした。
 昨日、サウンドバムと一緒に島にやってきたジーナは、イギリスの保護団体から派遣されているビジターさん。1ヶ月の予定でアダプション対象個体の観察をし、レポートにまとめるのだが、それだけでは手持ち無沙汰になってしまうので、スキャニングなどちょっとした仕事も手伝ってくれることになった。もちろん、アシスタントではないのでこき使うわけにはいかないが、それでもありがたい存在だ。

 私がラボに閉じ込められずっとレコーディングしている間、モモちゃんとゆみちゃんは「ヘレナズリスト」という恐ろしい紙のおかげで、息をつく暇もなく働いていた。A4のその紙には、今日やるべき仕事がずらりとリストアップされていた。はしごをかけてバスハウスの窓をふき、流木を拾い集め、森の掃除をし、メインハウスの壁の窓をみがいた。モモちゃんはあまりにも窓ふきがうまいので、ヘレナに「スパイダーガール」という愛称を与えられた。

 午後3時半、ロブソンバイトにいたA30sは、食事を終え西へターン。
 同じころ、ポールがツアーのお客さんをラボに連れて来て、ラボの説明が開始された。たくさんの人に見られ、写真を撮られながら録音するのは冷や汗が出るけれど、これもオルカラボでの大切な仕事のひとつだから仕方がない…。一般観光客を受け入れないぶん、ツアーで高いお金を払って来てくれるお客さんは、思う存分好きな写真を撮ってもらい、心ゆくまで説明してあげて、来てよかったと思って帰ってもらわなくてはならない。

ラボ前にはシノリガモが飛来しはじめた
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 夕方、ディナーの準備に行ったモモちゃんとゆみちゃんは、いつものように、ポールに何を飲みたいか聞かれた。
 ポールはまずゆみちゃんに「ゆみはオレンジジュースでいいかい?」と聞いた。ゆみちゃんはイエスと答えたが、次にポールはモモちゃんに「モモコはオレンジジュースとパイナップルジュース、どっちがいい?」と聞いた。
 パイナップルジュースが冷蔵庫に入っていた覚えはなかったが、昨日街へ行った時に買って来たのかなと思ったふたりは、そんないいものがあるのかと「パイナップルジュースがいい」と答えた。ポールは、ゆみちゃんまでもがパイナップルと答えたことにうーんと首をかしげたが、しばらくしてグラスについだジュースを持って来て「じゃあトライしてみなさい」と言った。
 やはり、モモちゃんは何の疑問もなくごくごくとそれを飲んだ。ゆみちゃんは少し飲んだが、甘すぎるその味に、ある疑惑が心に浮かんだ。
 今日のメインディッシュは、ハワイアン・サーモン。キッチンのカウンターを見ると、そこには空になったパイナップルの缶詰があった…。
 繊細なゆみちゃんにはちょっとトラウマになったみたいだけど、それにしてもポール、博士らしく、ちゃんとアシスタントの性格を把握していることが判明…。

 ディナー後、サウンドバムのメンバーと一緒にポールのレクチャーを聞いていると、メインハウスのスピーカーから、レスティングコールが聞こえた。
 急いでラボに走る。しばらく行方がわからなかったA30sが北へ出たようだった。ラボのデッキはレクチャー時で無人、ウォッチングボートも夜遅くてもう出ていなかったので、ウェイントン・パス、ブラックニー・パス、どちらを通過して北に出たのかはわからなかった。

 午後11時、A12sとA24sが東から戻って来た。私を寝かせようとしてモモちゃんが録音を買って出た。しかし枕元のスピーカーからは大きなコールが聞こえ続けた。私は万が一の時のためにメモを取りながら、できるだけ横になるように努力した。
 翌日へと続く。
2007-08-09 : 未分類 : コメント : 2 : トラックバック : 0
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8月5日

 がばっと飛び起きたのは午前3時。1階に飛び降りて録音ボタンを押し、ヘレナのもとへ走って「A24が東から戻って来た!」と伝え、ラボに戻ると、モモちゃんが起きてラボへ降りて来ていた。
「今日はゲストが来るから1日じゅう忙しいし、交代で録音しないと死んじゃうよ」
モモちゃんがしきりに言うので、1時間交代という約束にして私は寝に戻る。しばらくうつらうつらしながら2階のスピーカーから音を聞いていて、4時すぎにモモちゃんに呼ばれて交代。5時過ぎにA24sは鳴くのをやめ、進んだ方向を知らせることなく、ボートノイズの中に消えて行った。

 今日は、ジェシー&アニーの家族と入れ違いで、日本からのツアーがやってくる。準備にとても忙しくなるから、みんなと7時起きの約束。時間になったので2階にのぼってモモちゃん、ゆみちゃんを起こした。ゆみちゃんは飛び起きたが、あまり寝ていないモモちゃんが「起きたくない~」と寝袋の中でもぞもぞ言う。
 私とゆみちゃんは、昨日の夜寝る前に、なぜかモモちゃんが急にA24の写真を見たくなり、実際に見て激しく笑い出したことを思い出し、午前3時の悪夢はそのせいだとモモちゃんをさんざ責め立てたが、そのうち私もつられて起きるのがいやになり、寝袋にもぐってゆみちゃんに叱られた。

 全部A24sのせいだ。昨日のA12sのふるまいは素晴らしかったし、A36sですら夜の間は鳴かなかったのに…勝手に水中マイクをしずめて彼らの鳴き声を盗聴しておいて(でも頻繁に来る家族はラボから観察されてることや音を拾われていることは知ってると思うが…)、悪口をいうのもおかしいけど。

今朝はヘレナがスコーンを焼いてくれた。
でも今回は写真を撮るのを待てずに口の中へ。
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 朝ご飯をすませ、ヘレナに言われていたバスハウスの掃除に取りかかる。フロアマットを干したら、その下の床がとてもつるつる滑るので、楽しくて掃除も忘れてキャッキャッと滑って遊んでいたら、ゆみちゃんに「こら!!」と叱られてしまった。今年はお母さん役のゆみちゃんがいて良かった。私とモモちゃんだけだったら、暴走して収拾がつかなくなっていたに違いない。
 次にゲストがつまずきそうな流木や石をどけて、海岸への道を整備し、周辺に散らばっていたがらくたを片付け、ひと段落してちょっと休憩。でもすぐにジョナサンが「遊ぼうよ~」と2階に登って来た。
 彼と同じ9歳のジェニファーと2週間過ごした私たちには、構ってくれモードの時には仕事を手伝わせればいいとわかっていたので、一緒に海岸へ出て、引き潮の海岸に横たわっていたケルプをコンポストまで運ぶのを手伝ってもらい、ついでにゲストハウスの暖炉用の小さい流木を拾うのも手伝ってもらった。仕事意欲に火がついた彼は、私たちがラボに戻ろうとしても「僕はまきを割る」と木材倉庫から離れず、果敢に大きな丸太にチャレンジしていた。

 一家はたっぷりハンソン島でのリゾートを楽しんだ後、午後2時に帰って行った。今日はアラートベイで買い物したりする時間はほとんどないのに、なぜか今日の準備において貴重な戦力のはずのヒデさんがボートに同行。カートも自分のボートでちょっとお出かけしていて留守なので、ハンソン島は、ヘレナと私たち3人の女の島になった。

 ヘレナがくれた昨日の残り物をランチに食べて、いざ行動開始!
 まずはゲストハウスに入り、シーツなどをはがして洗濯物をまとめ、室内とテントの内部をきれいに掃除して新しいマットを並べ、清潔なシーツと枕を運び入れ、9人分のベッドメイキング。同時に、ずり落ちたデッキのブルーシートも修理、周辺の落ち葉を掃き、暖炉用の流木を新たに積み上げる。ヘレナはゲストハウスとメインハウスを行ったり来たりして、料理と同時進行でベッドメイキングの監督をつとめなくてはならなかった。
 午後3時、ショッキングなことにA24sが東から帰って来てラビングを始めた。5時前には、北にいたA12sもウェイントン・パスを通過してジョンストン海峡に入り、鳴きはじめた。北でA12sの前にいたはずのA36sは…消えた。録音にひとり取られると、ゲストを迎え入れる準備ができなくなってしまう。私はスピーカーから聞こえる音の変化に気をつけつつ、ラボとゲストハウス間を何度も往復した。ああ、どうして今朝の録音のあと寝なかったんだろう…。

 午後6時、ゲストが訪れるほんの少し前に、ようやく準備完了、しばらくして無事にゲストたちは到着。今回のツアーは、日本からの「サウンドバム」というツアーだ。ひとりひとりが録音機材を持ち、風に揺れる木々の音や、朝一番の鳥の声、オルカたちの呼吸音、鳴き声、キャンドルの火に照らされたディナー時の談笑や、繰り返す波の音など、好きな音を思う存分持って帰る。
 今回はハンソン島に来るのが2回目、3回目というお客さんが4人もいた。またこの島で会えたという感動と、ここに戻って来たくてお金を貯めてくれてたんだなぁという気持ちが嬉しくて、抱擁!

 お客さんの荷物も運び終わり、レコーディングに戻る。しばらくすると、メインハウスでディナーの手伝いをしていたモモちゃんが、「もう知ってるかもしれないけどね、A12sとA24sがジョンストン海峡で出会って、いまCPのあたりにいるらしいよ」と情報を持って来てくれた。「了解、A36sは行方不明のままだよ。たぶん、いつもの北から動かないだけだと思うけど…」私は背伸びをした。
 モモちゃんがメインハウスに戻ったので、デッキに誰もいないのにしばらく監視もしてなかったし、じゃあちょっと真面目に働こうかと双眼鏡を手に取って、ハンソン島の角をチラリと見たその瞬間、ふたつの大きな黒い背びれが双眼鏡の視界いっぱいに飛び込んで来た。うわああああああああ~!!

「オ、オルカーっ!!」
すぐにラボのドアを開けて叫ぶ。まだメインハウスに向かって歩いていたモモちゃんもびっくり仰天、続けて森に向かってオルカー!!と叫んだ。お客さんたちには聞こえただろうか。外に出ているスコープが足りない。慌てて、立てかけられているひとつを掴んで外に出ようとすると、他のスコープが次々と倒れて来て私は挟まってしまった。モモちゃんに救助してもらい、ようやく外に出る。
 
 視界に現れたのは、北から動かなかったはずのA36sだった。長男と三男が一緒で、次男は少しリードしていた。彼らは非常にゆっくり呼吸をしつつ、南へと向かった。しかも、ラボから200メートル沖を泳ぎ、けっこう近かった。8月1日から何度も、ハンソン島の角を曲がったところまで来ていたのに、決して私たちには姿を見せなかった3兄弟。それが、お客さんがきて1時間もたたないうちにこれですか…。もう、A1ポッド大好き。

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 お客さんが来ている間は、ゆみちゃんがヘレナの右腕としてキッチンをサポートすることになったので、私とモモちゃんはラボ係。今日の夕飯時はモモちゃんがラボにいてくれたので、私は再会したお客さんたちとの時間をゆっくりとることができた。

 A1ポッドは優しかった。A12sはA24sをなだめて東へと連れて行き、A36sはめったに行かないラビングビーチで、リラックスして遊ぶ声を存分にお客さんたちに聞かせ、東へと向かった。
 私は日付が変わるころ録音を止め、寝袋へ入った。私たち三人も、ヘレナも、非常に疲れていた。私は万が一のために耳をすませていたが、次の日の朝まで彼らが戻って来ることはなかった。
2007-08-08 : 未分類 : コメント : 0 : トラックバック : 0
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8月4日

 午前1時前。PIの水中マイクからコールが聞こえて来たので、私はモモちゃんとゆみちゃんを起こしてデッキに出てもらい、寝ているヘレナにオルカが来ることを伝えた。
 A12sとA36sは真っ暗な中オルカラボの前を通過。北に消え、午前2時半には鳴き声も聞こえなくなり、私も3時半には2階へのぼり、耳をすませたまますやすやと眠った。

 鳴き声が聞こえたのは午前9時半すぎだった。
 ラボの中へ入ると、レポートを聞いて事前にラボの中で待機していたモモちゃんが録音を開始したところだった。
 A12sのコールだということをログブックに書き込んでもらい、外へ出てスコープにつこうとすると、無人に見えたデッキにはすでにヒデさんがいて、ストレッチをしていた。でもまぁ、ヒデさんはスコープをのぞこうとしないのでそっとしておいて、海の監視。

 30分くらい待ったころ、A12sが視界に現れた。ばあちゃんA12とA33はハンソン島ぞいを、娘家族のA34sは海峡の真ん中を通過して行った。

今日もハッスルばあちゃんの介護、孝行息子のA33

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 美しいその姿にみとれていると、大きなボートの音がして、ジューン・コーブが視界に現れた。昨日、アラートベイにお泊まりに行っていたポールが、ジェシーとアニー・ゴードン夫妻とその娘家族を連れて来たのだ。

 私たちはちょっとがっかりした。せっかくゲストが来たというのに、A12sは入れ違いでジョンストン海峡に消えてしまった。A12sはジョンストン海峡を仕切ってるんだから、もうちょっと空気を読んでくれてもいいのに…。

 本日のゲストのジェシー&アニー・ゴードン夫妻は、アラートベイ在住のオルカライブの電脳スタッフ。ジェシーがいなかったら、オルカライブは実現しなかっただろう。ポールの友人である夫妻の家はアラートベイの東端の高台にあり、偶然にもそこからCPが見えることがわかった。現在、CP~アラートベイのジェシーの家は、見えない線でつながっている。

 そして何よりジェシーとアニーの家は、私の貴重なリゾート!今年も、ハンソン島入りする前にモモちゃん、ゆみちゃんごとお邪魔して、バーベキューサーモンや、ハリバットのライム漬けをごちそうになり、ビールを飲まされ、露天風呂つきの離れに泊めてもらった。さらにクルマで港まで送ってもらった。この家族がハンソン島に来るとなっては、もてなさないわけにはいかない。

「ハロー、ガールズ!元気にしてた?」
アニーが豪快にラボのドアを開けて登場した。その片手にはビニール袋、そして透けて見えるのは…魚らしきものと、ビール。
「さあさあ、1本ずつ飲みなさい、早く飲まないとぬるくなるから。ひとりアルコールを飲まない人がいたわよね、あなたにはジンジャーエール」
 あまりの状況に呆然とする私とモモちゃんとヒデさんの手にアニーはビールを持たせ、ゆみちゃんには炭酸を渡し、あと袋には大きな紅鮭とスモークしたアイナメの切り身が入っていて、今日のディナーに使ってもらうのだとアニーは説明し、笑い、ラボを去って行った。
 私たちの手には冷たいビール。時計を見るとまだ午後1時。

「…いいのかな」
「…でも、ゲストが飲めって言ってるんだから、仕方なくない?」

 私とモモちゃんは、ドン引きするゆみちゃんをさしおいて大喜びしながらラボ内でプシュッと缶を開け、「アニー万歳!!」と高らかに乾杯して、仕事中なのに冷たいビールをごくごく飲んだ…。昼間から飲む冷えたビールは最高においしかった。でも、もてなす予定だったのに、なんでこっちがもてなされてるんだろう?
 しばらくするとヘレナがラボに入って来た。もうビールは空だったので、足音が聞こえた段階で缶をさっとカウンターの下に隠し、息がビール臭くないか確かめ、ニッコリ笑ってヘレナを迎え入れた。

「A12sのコールはしばらく聞こえていないでしょう?」ヘレナが言った。ジョンストン海峡に入ると、A12sのコールは凄く遠くなってやがて聞こえなくなったので、ゆみちゃんがちょっと前に録音を止めていた。
「A12sは東へは向かわずに、ジョンストン海峡に入ってから西へ行ったらしいのよ。これはすごくまれなことで、ノーザン・レジデントの行動にしてはかなりおかしいわね。そのあと、彼らはテレグラフコーブに行って…」
「ええ~?テレグラフコーブに、何しに…?」私は思わず聞いた。
「ほんと何しに行ったんでしょうね、買い物かしら?そして、そのあとまた西に向かって、ビーバーコーブに入って行ったらしいわ」
 
 A12sが変な行動をとっている間、A36sはまだ北にいた。彼らは何を待っていたのだろうか、今日も大好きなブラックフィッシュ・サウンドから一歩も動かず、私たちは1時間に1度くらい聞こえる彼らのコールに悩まされながら、来ないとわかっている3兄弟が、万が一来た時のために北の方向を監視し続け、すっかり目が痛くなって、凍えた。

 ゲストが来たのに、オルカが1度も見られないのではかわいそうだが、A36sにはもう期待できない。私たちは東に進むA12sが、何とかして方向を変えるのを祈った。そして、ジェシーとアニーの孫のジョナサン(9歳)と一緒にケルプホーンを吹いてA12sを待つことにした。

ケルプホーン初挑戦のジョナサン
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 祈りが通じたのか、ケルプホーンが効いたのか。ラビング後A12sは西へと戻って来た。しかし、テレグラフコーブで買い物(?)ビーバーコーブで観光、ラビングビーチでお風呂、ロブソンバイトで食事だなんて、A12sはずいぶんいい1日を過ごしたようだ。

 暗くなる直前に、A12sはオルカラボの前に現れた。北から動かないA36sとは違って、ゲストの前、薄暗いとはいえオルカラボ寄りを泳ぐ彼らの姿は神々しく見えた。鳴き声も午後10時過ぎには聞こえなくなり、私たちはお皿を洗って無事に寝袋に入った。

 東の海で、何者かが行動を始めているのにも気づかずに。
2007-08-07 : 未分類 : コメント : 0 : トラックバック : 0
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8月3日

 朝の光を浴びながらストレッチ、身体がきしむ。
 自分のクーラーボックスからブルーベリーベーグルを出し、キャンプキッチンへ持って行こうとすると、キッチンのスピーカーからコールが聞こえて来た。
「あ、私が行くよ」
朝ご飯をほとんど食べ終わっていたモモちゃんが、コーヒーの残りを急いで口に入れ、ラボに走ってくれた。私はベーグルを焼いてコーヒーを入れ、ゆっくりとラボに向かった。

 モモちゃんがレコーディングしてくれている。デッキではゆみちゃんがすでにスコープについてオルカを待ち受けている。私はちょっと出遅れてしまったので、デッキで朝ご飯を済ませ、ギタレレを持ち出して、少し練習しながらオルカを待つことにした。
 しばらくすると、そこにステラーズ・ジェイの咲が飛んで来た。彼女はデッキに止まり、首をかしげながら、私のへたくそな演奏をいつまでも聞いていた。

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 窓ふき、船みがきにつづく、ゲストを迎え入れるにあたってのぴかぴかプロジェクトその3が開始された。今日は…世にも恐ろしいバスハウスの床下そうじ。
 ポールは思い出が大好きらしく、どんなに使えないものでも捨てずにとっておく。その代表例が、「水中テント」。鉄でできた重いテントを空気ごとCP前の海に沈めて、中からオルカを観察するという…とんでもない代物だった。
 鉄のテントは実際にCP前に沈められ、ポールと、ブルー・フィヨルドのキャプテン・マイクがダイビングして下から入り、中でビールで乾杯。それですっかり満足してしまったらしく、このプロジェクトはここで終了。しかし、このメチャクチャなアイデアが、後に水中カメラとインターネットという文明の利器を得て、オルカライブに繋がったのだから、彼のひらめきはあなどれない。
 テントは大切な思い出の品として、今でもゲストハウスの床下に保存されている。

 しかし、いくら物が捨てられないとは言っても、ゴミのようなものをためておくには限度がある。ヘレナに指図されて、ポールはしぶしぶバスハウスの床下の物を運び出した。
 じいちゃんのたからものが次々と出て来る。歴代のクルマについていたと思われる古いタイヤ、昔の船についていたスクリュー、薄汚いタイル、割れて使えなくなったポリタンク、先端がすりきれたほうきの柄、古すぎて穴のあいたスカスカのブルーシート。何やらリンゴ箱に手縫いでクッションをつけたようなものまで出て来た。聞けば、生まれたばかりのころのアナ(娘)を入れていた保育箱だという…。
 ヒデさんとモモちゃんが手を貸して、リサイクルにまわすものと燃料として燃やせる物に分別。ポールはちょっと寂しそうだったが、床下はすっかりきれいになった。

 A30sは午後2時半ごろオルカラボの前に現れた。彼らは青い海の中、ふたつの妹家族に兄がそれぞれ1頭ずつ付き添って、母親と共に家族仲良くジョンストン海峡へ向かって行った。

 私たちの前に姿を見せることなく北で2日間を過ごしたA36sは、何をたくらんでいるのか、わざわざブラックフィッシュ・サウンドを引き返し、ウェイントン・パスからジョンストン海峡に入った。A30sはそのまま東へと進んで行ったが、かわりにA12sが東から出て来て、A36sと出会い、喜びの声をあげた。

 ポールがアラートベイのジェシーとアニー夫妻の家にお泊まりに行ってしまったので、今日はメインハウスでのディナーはなし。かわりに、ヘレナが昨日の残り物をどっさり持って来てくれた。ヒデさんが全部を温めてくれて、キャンプキッチンでみんなで食事。

 A12sとA36sは再びコールを出し始めた。彼らがロブソンバイトで楽しい時間を過ごしていると、東からこっそり出て来たA24sもその輪の中に参加したようだった。しかし、A24sの鳴き声がきけたのはここまで。不穏な空気を残し、A24sは消えた。

 底冷えのする夜だった。私は寝袋にくるまって震えながら録音を続けた。オルカたちは少しずつ、西へと進んで来ていた。
2007-08-05 : 未分類 : コメント : 6 : トラックバック : 0
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8月2日

 もし日付が変わる前に聞いたあのブローが、A36sの3兄弟だとしたら、このままで終わるはずがない。私はゆみちゃんにお願いしてデッキで寝てもらい、自分も2階へは登らず、ラボの中にいすを3つ並べて寝袋を敷き、DATの電源を入れ、水中マイクのセッティングも済ませて、コールが聞こえたらむくっと身体を起こして録音ボタンを押すだけに準備しておいた。

 午前3時。気がつけば、何故か床で寝ている…。落ちた覚えもないのに…。水中マイクからは遠いエコロケーションが聞こえていた。どうも、これで起きたらしい。録音スタート、しかし、これは待っていた3兄弟じゃなくて、東から戻って来たA30sとRs、そしてA24sのようだった。

 2時間後、A30sは動く気配なし。RsとA24sは…消えた。しかし、とうとうA36sが北で鳴きはじめた。やはり昨日のブローの主はあなたたちだったか…と思いつつ、ガラスを叩いてデッキで寝ていたゆみちゃんを起こし「オルカ来るよ」と伝える。
 A36sはものすごい霧の中、2回もオルカラボの前に現れたが、結局2回とも北へ戻って行った。私は午前9時まで録音を続け、眠気に勝てずに、2階ですやすや寝ていたモモちゃんを起こして交代してもらった。モモちゃんは11時まで録音した後、私を寝かせておいてくれたまま、今日のぶんのボートみがきにまで行ってくれた。

 午後1時にがばっと起きた。4時間近くも寝てしまった。急いでヘレナのもとへ走り、寝ている間に何がどうなったのか聞きに行く。ヘレナは苦笑いして、「こんなこと聞くのはとても嫌だと思うけど、R7sとA24sは、北でA36sと一緒にいるところを発見されたわよ」と言った。えーっ!!<(゚ロ゚;)>
 A30sがブラックニー・パスの入り口でしきりに鳴いておとりになっている間、A24sはRsをつれて黙ったままこっそりウェイントン・パスを使って北へ出た。そしてA30sのコールを聞きながら「うーん、まだかなー、遅いなー」とブラックニー・パスを覗き込んでいた3兄弟の背後に回って「ばあ~っ!」と脅かした(私たちの想像…)。とうとう捕まってしまったA36sは、A24sに連れられて、北へRsを見送りに行く付き添いをするはめになった。

虹のある風景
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 午後3時ころA36sは見送りの役目を終え、戻って来て、大好きなブラックフィッシュ・サウンドに落ち着いた。雰囲気で「こっちには来ない」とわかっているのに、彼らの鳴き声がFIの水中マイクから聞こえるので、私たちは交代でデッキに見張りをたてなければならず、強い風と寒さにすっかり凍えた。
 一方、A24sはウェイントン・パスを通過してジョンストン海峡へ入り、ラビングビーチで遊んで東へ。A30sが彼らと入れ違いで東から出て来て、すっかり暗くなってからオルカラボの前を通過すると、A36sの待つ北へと向かった。

 私たちは連日のボート掃除と夜中のオルカでとても疲れていた。が、疲れていたのはポール博士も同じだったらしい。当然だ、夜中のブローが聞こえる時にはちゃんと起きて来るのに、昼間はボートの下にもぐり、うなり声をあげながら、いちばん気合いを入れていちばん汗を流して、緑色の汁まみれになってボートをみがいていたのだから。

 A30sが北に消え、ヒデさんがさあテントに帰って寝ようとデッキを戻ろうとしたその時、通路に置いてある古いスクールデスクに、何者かが突っ伏していた。突然その頭部を懐中電灯で照らしてしまったヒデさんは、また見てはいけないものを見てしまったと思って一瞬息を飲み、叫んだ。
「うわっ…びっくりした!!」
 突っ伏していたのはポールだった。ブローを聞きに来たものの、あまりにも眠くて、授業中の生徒のようにスクールデスクにちょこんと座って眠ってしまったらしい。ポールはヒデさんの声にびっくりして目を覚ますと、「ごめん、ごめん…」とつぶやきながらメインハウスへ帰って行った。

その時の様子を再現するモモちゃん
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 A30sのコールも午後11時半には消えた。私たちは、日付が変わる前に録音を終了すると、そのまま倒れるように眠った。
 稲光が空を舞っていた。雷の振動が8月の始まりを感じさせていた。
2007-08-04 : 未分類 : コメント : 0 : トラックバック : 0
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8月1日

 今日は楽しい船掃除♪
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 霧の中に浮かぶジューン・コーブ。ゲストが来る前に、送り迎えを担当するこのボートもぴかぴかに仕上げておかなくてはならない。
 満ち潮のときにポールが陸にあげておいてくれたボートを見て私たちは呆然とした。舟底はまるでペンキで塗ったかのような緑。それは全部、藻でできている。とっても磯臭い…。しかも、金属であるボートに生えるくらい頑丈な奴なので、ちょっとやそっと、こすったくらいでは取れない。それに混じって無数のフジツボ。た、楽しい船掃除…。

 デッキブラシ、金タワシ、激落ち君を総動員。ポールとモモちゃんが舟底に寝転がって入り、こすればこするほど体中に降り注ぐ緑色の液と戦い、私たちも金タワシで指を切りながら全身の力を使い必死になって何とか深ミドリをペールグリーンにまで仕上げ、ポールの「みんな、よくやった。今日はここまでにしておこう」と言う言葉を聞いた時には、すっかり体力を消耗して、まっすぐ歩けないほどに弱っていた。

 少し遅いランチ後、残り少ない貴重な緑茶をいれて、各自日本から送られて来た酢こんぶやえびせんべいを持ち寄り、ぽかぽかの太陽の下でいっぷく。急に年寄りになった気分だったけど、本当に疲れた場合、やはり心を癒すのはこういった味なのかもしれない…。
 日本人でよかった…。

 オルカたちは北組と東組にわかれて、水中マイクのエリアから遠く離れている。私たちはスキャニングとアーカイビングの仕事を続けながら残りの午後を過ごした。すると、ポールが「今日はメインハウスでのディナーはないんだ。でも、これを作ったよ。みんなで食べなさい」と、焼きたてのバナナブレッドと、昨日の残りのピザを持って来た。

 モモちゃん、ゆみちゃん、私は、その後ポールがアーカイビングのことについて何か言ってるのをまともに聞かずにピザの皿を覗き込み、彼がラボを出て行った後わーいわーいと皿をデッキに運んで、ピザにかぶりついた。冷めてはいても、生地はヘレナの手作りだからふっくらしていて、上に盛られたトマト、オリーブ、パイナップルやカッテージチーズもとてもジューシーで、私たちのぶんはあっという間になくなった。私とモモちゃんは皿に残った最後のピースをじっと見つめていたが、ゆみちゃんに「ヒデさんのぶんだから!」と止められてしまった。

なんだか邪悪な雰囲気が漂う霧
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午後5時半すぎ。ゆみちゃんとモモちゃんはまき割り、私はヘレナに急かされてラボで7月のインシデンツを作っていた。すると、ラボのスピーカーから何かが聞こえたような気がした。レコーディング・スタート、ヘッドフォンをつける。
 聞こえて来たのはA1ポッドらしいレスティングコールだった。A12sは東だし、A30sは今日ポートハーディ沖に向かっているのが目撃されている。とすると、北をうろうろしているA36sか。しかし、それにしてはコールの数が多いような…。

 謎の群れはオルカラボの方へと向かって来た。全員がデッキに並び、最初の1頭が見えると同時に個体識別開始。しかし、最初の1頭は…メスだった。私は空を見た。今日は不吉なバッテンは出ていない。
 しばらくするとオスも私たちの視界に現れた。デッキのみんなの声が色めきだつ。まさか、まさか。オスとメスを含むA1ポッドは…。

「これがA30sのわけがないよ、彼らはポートハーディの方に向かっていたんだ」
ポールの声が裏返った。

 オルカたちは対岸寄りに進み、間隔をあけて泳いでいたので、スコープでの個体識別は難しかった。しかし、オルカたちがいちばん識別しやすいラボ向かいにさしかかったとき、私とヘレナは、小さな背びれ軍団の中に、背びれ前方にキズのある特徴的な子の姿を見つけた。私たちは同時にキャーと叫んで、両手を掲げた。

「A30sだ!」

 ここにいるはずのないA30sは、ポートハーディという遠い距離から、明るいのに誰にも目撃されることなく、微かに残った霧の中を進み、釣り船、ウオッチングボート、観測ポイント、全ての監視をすり抜けてオルカラボの前に現れた。決まり手はA72、ベンド君だった。事前にどんな情報があったとしても、決して誰にも間違われることはないその背びれ。

 6月末にその声を聞いてから1ヶ月。ようやくA30sに出会えた私たちは,夕方の美しい景色の中、南へと進んで行くオルカらしい彼らの姿を見送った。しかし、私たちの心にはちょっとした疑問が残っていた。
 A30sのみにしては、メスの数が多すぎるのではないだろうか。
 
 スコープでもサドルパッチがはっきり見える距離ではなかったので、疑問は解消されないまま彼らはジョンストン海峡へ消えて行った。私は急いでラボに戻り、ヘッドフォンをつけてPIの水中マイクの音量を上げた。そして、次の瞬間飛び上がって、隣にいたモモちゃんに
「Rだよ、R!!ヘレナ呼んで来て!!」と叫んだ。

 A30sは北で小さなRの群れ、R7sを見つけて、急いでジョンストン海峡に連れて来たのだ。彼らの鳴き声はとても美しくラボの中に響き渡った。彼らがジョンストン海峡に入ると、東からA24sが出て来て、A30sとRsを迎え入れている様子だった。全ての群れは東へと向かい、午後9時前には水中マイクのエリアから出て行った。

 これで寝られると安心した私はバスハウスへ行って歯を磨き、森の中のトイレに行って、さあラボに戻ろうとすると、海の方からポールが「オルカー!!」と叫ぶ声が聞こえた。
 うそ!?このタイミングで??

 急いでラボにかけ戻るとヘレナがレコーディングを始めたところだった。
「ブローが聞こえたらしいから、誰かデッキに出てもらえる?まだ鳴いてないわ」
ヘレナがそのまま中にいてくれる感じだったので、急いでジャケットをつかんでデッキに出る。足音と話し声を聞いて、もう寝袋に入っていたモモちゃんとゆみちゃんも起きてデッキに出て来た。全部で3つの呼吸音がブラックニー・パスを南へと向かっていた。1頭が大きく方向を変えてラボの方へ近づき、ゲストハウス横の入り江へ入りかけた。鳥目の私にはただ大きい呼吸音が聞こえるだけだったが、目のいいゆみちゃんにはオスの大きな背びれが見えたらしかった。

 3つのブローは、全く鳴かずに方向を変えて北へと戻って行った。A36sの3兄弟であることは何となく予想できたが、それが確信に変わるのは日付が変わってからだった。
2007-08-04 : 未分類 : コメント : 0 : トラックバック : 0
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7月31日

 ハイパー・ロータイド!
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 午前9時半。とても丁度いい時間に大きな引き潮が来たので、私たちは昨日さんざん引き潮で遊んだヒデさんにラボ番を頼み、3人で海岸へ出て遊んだ。今日は、今月いちばん潮が低い日。ふだん海の中で見えないイソギンチャクや、ヒトデや、ウニなどがしっかり観察できる。

 私たちが写真を撮ったりして遊んでいる間、ミンクも引き潮の海岸に降りて食べ物を探していた。彼はまるでカモメのうにちゃんみたいに、大きなウニをケルプの下から引きずり出して、器用に岩にぶつけて割り、中身を食べていた。

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 遊び終わって満足したら、今日はメインハウスの窓ふきプロジェクトだ。
 8月のオルカラボは忙しい。あと1週間もすれば最初のツアーが来る。それからは入れ替わり立ち替わりツアーが訪れるので、しっかり受け入れ準備を整えておかなくてはならない。メインハウスは光を取り入れるためにガラス張り、磨くのはけっこうな重労働だ。私たちがヘレナと一緒にガラスをふきあげている間に、ポールは森のトイレの修復。つや出しの塗料を塗って、ぴかぴかに仕上げてくれた。

 薪もたくさん割り、メインハウスへ運びこみ、ひと段落したのでご飯を食べようとすると、ヘレナが「オルカたちが東から戻って来ているわよ!耳を澄ませておいてね」と情報を持って来てくれた。ラボに戻り、録音待機。
 午後3時過ぎ、ラビングビーチの水中マイクからA24sのコールが聞こえて来た。A30sと共に、西へと進んで来ているらしかった。彼らはロブソンバイトで魚を少し食べ、CP沖を通過し、ブラックニー・パスには目もくれずに西へと向かって行った。

 私とモモちゃんは、飛行機雲で描かれた、空に浮かぶ不吉なバツ印を見ていた。今シーズン、散々あの群れに振り回された私たちは、もう何となく気づいていた。A24sが何かしでかす時は、空にバツ印が現れることを。しかも、今日のバツ印は、ダブルだった。

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 オルカたちはウェイントン・パスへ向かい、コールは途切れた。録音は中断され、私たちはディナーを食べるためにメインハウスへ集合。ポールがグラスにビールを注いでくれたので、それを飲みながらヘレナが生地からこねたピザが焼けるのを待っていると、無線で「ウェイントン・パスを通過して北に出たオルカたちが、ハンソン島ぞいに方向を変えて、ブラックニー・パスの方へと鼻先を向けているよ」との連絡が入って来た。

 ウェイントン・パスを通って北に出たあと、そのままブラックニー・パスを通過してジョンストン海峡に入るなんて、オルカたちにとってはけっこう無意味なことなので、新しい群れの到着を待っているなど、そわそわしている時くらいしか起こらない。ブラックニー・パスの方に鼻先を向けたとは言っても、魚を捕るためにちょっと寄り道しているだけかもしれない。
 それでも、オルカがこっちへ向かっているという情報をもらっておきながら、ラボに誰もいないのは無謀すぎるので、私はビールの入ったグラスを片手にラボへ向かった。

 ヘッドフォンをつけ、北のFIの水中マイクの音量を上げる。
 しばらくすると、レスティングコールが聞こえて来た。おっと、本当にこっちに向かって来ているみたいだ。急いでレコーディング・スタート。メインハウスに戻り、ポールとヘレナに報告。またラボに戻り、双眼鏡でガラス越しに海の様子を確認しながら、ログブックに録音のセッティングを書き込む。

 A30sが高らかに鳴き声をあげはじめた。彼らのエコロケーションの音も聞こえて来た。明らかにオルカたちはこっちへ向かって来ている。もう、いつ視界に現れてもおかしくはない。そういえば、私たちがハンソン島に着いた翌日、6月30日にA30sがこの海峡に来てからというもの、彼らは真夜中しかオルカラボの前を通らず、私たちは姿を見ることはできなかった。CPで日中彼らの姿を見ているポールを除いて、みんなA30sを見たくて、飢えていた。特にA30sがいちばん好きなヘレナにとっては、長い日々だったろう。
 苦節1ヶ月、ようやくあなたたちの姿を拝めるのか…。

 モモちゃんが焼きたてのピザを持って来てくれた。そのままデッキに出て監視にまわってくれたので、私はピザを頬張り、止まらないA30sのコールを聞きながら、カメラの準備をしていた。しばらくして、FIの水中マイクからのコールは止まった。彼らがFIの水中マイクのエリアを通過してこっちに向かっていると思われた。

「オルカ!!」
モモちゃんが叫ぶ。先頭のメスのオルカが視界に現れた。メインハウスにいたみんなはディナーを中断して、デッキに走って来た。A30sに会える!!
 それぞれが我れ先にとスコープについて、個体識別を開始する。…が、オルカたちは私たちのほうに頭を向けていて、タテにしか背びれが見えない。それでも大人のオスではない、とはっきりわかる小さな背びれが4つ現れた。その中の1頭は、ほかの3頭を置いて勝手にぐんぐん南へ進んでいる。うーん…。

 みんなが心の奥に閉まっていた不安が隠しきれなくなった。私はつい数時間前に空に出ていた2つのバッテンを思い出した。そしてヘレナに言われてズームつきのスコープをのぞき、先頭のメスの背びれとサドルパッチを確認して、みんなを心から落胆させる言葉を吐いた。

「A24だ…。ごめん…。」

 なんで個体識別して謝らなければならないのか。その場にいた全員がため息をついて一瞬スコープから離れた。ほんの少し角を曲がったところまで来ていたであろうA30sは、消えた。代わりに全く鳴かなかったA24sが、どんどん暗くなる景色の中ジョンストン海峡へと向かって行った。

 ポールが大きなかごに温かいお茶のポットとティーカップを並べて持って来た。冷えきった私たちは、少しでも暖まろうとお茶に手を伸ばした。A24sは潮に逆らって、いつものように1時間以上かけてオルカラボの前を通過した。そしてジョンストン海峡に入るとき、A12sのコールの真似をして、東にいる彼らのことを呼んでいるようだった。
 A24sはちょっとだけラビングビーチに寄り、A12sの姿を求めて東へと消えて行った。
2007-08-03 : 未分類 : コメント : 0 : トラックバック : 2
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7月30日

 晴れ渡った空。
 夜の間オルカは戻ってこなかったので、ぐっすり寝られた。コーヒーをいれて、朝ご飯がわりにクッキーを2枚食べ、まだ誰もいないラボへ入ってスキャニングの仕事開始。
 しばらくするとヘレナがラボにやってきて、デッキを指し「ほら見て、ヒデが海岸で遊んでいるわ」と笑うので、双眼鏡で見てみると、引き潮の海岸を長ぐつでうろうろ歩き回るヒデさんの姿が見えた。何か食べられるものでも探しているのだろうか。今日、明日の朝はかなりの引き潮の日だ。

 全員がラボに集まって、それぞれ仕事をはじめたころ、ポールが嬉しそうに「これはヘレナからのプレゼントだよ」とバスケットを抱えて来た。その匂いと、中身を見て、私たちは失神しそうになった。ややや、焼きたてのマフィンだ~!!

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 私たちは歓声をあげながらバスケットを掲げてデッキへ走り、そこで寝転がってストレッチをしていたヒデさんを叩き起こし「マフィンが来たよ!」と大騒ぎした。まだ余熱の残るマフィンはひとり2個ずつ支給された。しかし、どういうわけか全てを食べ尽くすには5分もかからなかった。

 北にいたA12sは、マルコム島リザード・ポイント沖から、スワンソン島の方向へ進んで来ていたので、ゆみちゃんがデッキにスコープを並べてくれたのだが、彼らはこっちへ顔を向けず、めったに行かない北の小さな島々の間の水路に入って行っていた。ヘレナが「やっぱり1年に1度くらいは、アレックス(研究者のアレキサンドラ・モートンさん)に挨拶しに行くのね」と言ってにこにこしていた。
 東にいたA24sは、順調に西へと進んで、お昼前に水中マイクのエリアに入って来た。

 迷路のような水路から出たA12sは、午後2時ごろオルカラボの前を通過してジョンストン海峡に入り、ハンソン島東端まで来ていたA24sと出会った。彼らはお腹が空いていたのか、CPの前で1時間以上魚を捕って動き回り、4時過ぎにようやく東へ進みはじめた。

 オルカラボの重要な観測ポイント・CPは、ハンソン島のとなりクレイクロフト島の先端にある。ジョンストン海峡とブラックニー・パスの両方に面していて、オルカの動きを知るにはもってこいの立地。さらに、目の前のケルプの森には魚がいっぱいいて、オルカはもちろん、アザラシ、トド、ザトウクジラなどもとても近くで見られるすばらしい場所だ。
 でも、今年は私、モモちゃん、ゆみちゃんの3人しかアシスタントがいない。版画家のヒデさんもたまに仕事を手伝ってくれるが、基本的に数には入っていない。この人数からCP担当者を出したら私たちは倒れてしまう。
 ここ2年ぐらいCPを任されている子ポールは、8月に入ってからじゃないと来られないらしいので、それまではCPは無人のまま。この間ちょっとカメラマンが滞在したのと、日中にオルカが来そうな時だけ、ポール(博士のほう)が、数十分行く程度だ。
 今日のオルカたちはCP前でとてもゆっくりしてくれたので、博士も仕事のしがいがあっただろう。

 3日ぶりにメインハウスでディナーが食べられることになった。ヘレナはどうもスパゲティは手抜きだと思っているらしく、いつも「スパゲティでごめんね」と言うのだが、トマトソースはハーブを入れて自分で味付けして作っているものだし、私たちの大好物なので、なにを謝る必要があるのかさっぱりわからない。
 スパゲティと、これまたヘレナお手製のガーリックブレッドが美味しすぎて、私たちは満腹で苦しむぐらいに食べた。皿洗いを終え、外に出ると、赤みを帯びた丸い月が昇ったところだった。オルカたちも東でこの月を見ているのだろうか。翌日の午後まで、彼らは戻って来ることはなかった。

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2007-08-02 : 未分類 : コメント : 3 : トラックバック : 0
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7月29日

7月29日

最近ようやく姿を見せ始めた田中さん
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 午前零時、私たちは睡眠欲と戦いつつ、録音するわたしとデッキでブロー待ち組に分かれて、それぞれ寒さに震えていた。屋根に叩き付けるような雨と激しい風。波の音はひどく、ブローは全く聞こえない状態で、モモちゃん、ゆみちゃんとなぜか一緒にデッキに出ていたポール(博士…)は、真夜中にただ凍えただけのとてもムダな時間を過ごした。

 A30sは私たちに呼吸音を聞かせることはなく、大荒れの海の中、たっぷり1時間ほどかけたジョンストン海峡へ。1時からモモちゃんが録音交代してくれたので、私は2時間仮眠。午前3時にまた起きてモモちゃんと交代、ラビングビーチで遊ぶ彼らの鳴き声を延々とレコーディングし、ログブックに全ての音を書き取り、また寝袋に戻ることができたのは午前4時半だった。

 ヘレナのボイスノート(録音時にテープに吹き込む水中マイクのセッティングやオルカの情報)で飛び起きた。時計を確認すると、午前9時過ぎ。ありがたい、オルカが戻って来るまで5時間近くは寝られた。
 1階へ降りてヘレナに「何か聞こえたの?」と聞くと、「まだコールはないんだけど、北からA12sのご一行が来ているみたいよ」と教えてくれた。

 10時半ころ、先頭グループがオルカラボの前に現れた。A8sはハンソン島寄り、他のオルカたちは向こう岸寄りで、とてもゆっくりジョンストン海峡へと向かって行った。
 私たちは個体識別をしながら、この群れにA4ポッドのオルカがいないことに気づいた。A24sは東にいるから、A11sとA35sがここにいないことになる。

 朝ご飯を食べるヒマがなく、ヘレナが持って来てくれたコーヒーだけで動いていたので、お腹がぐーぐー鳴っていた。オルカが海峡に消え、個体識別でデッキに出ていたみんなも散り、私はラボにひとりそのまま録音を続けていたら、ゆみちゃんがお皿に山盛りのナポリタンを作って来てくれた。ああ、懐かしい日本の味…。でも何の陰謀か量多すぎ…。

 A12sとA5sがロブソンバイトの方へと進むと、東からA36sが戻って来て彼らと合流した。行方がわからなかったA35sは、何故みんなと一緒に行動しなかったのか…ウェイントン・パスを通過してジョンストン海峡に入った。
 A35sを西のブリンクホーンまで迎えに行ったA36sは、そのまま凄いスピードでウェイントン・パスへと進んで行った。北にまた別の群れが来ていたから、そのまま進んだ方が早かったのだろう。A12sとA5sは、ブラックニー・パスの方が近かったので、A35sが追いつくのを待ってそちらへ向かった。

 北から近づいて来た群れは、行方がわからなかった最後の家族、A11sだった。コールで彼らの正体はわかっていたので、私たちはデッキに出て、心の準備をして、スコープを構えていた。

 最初にブラックニー・パスに現れたのは、スプリンガーだった。
 そしてスプリンガーと並ぶようにして、1頭のメスが現れた。

 私とヘレナはそのメスの姿を何度も確認した。スコープを使い、ズームを使い、持てる手段を全て尽くして、そのメスの個体識別に間違いがないか、自分たちの心に浮かんだ不安を何とか打ち消そうとした。

 スプリンガーと一緒に現れたメスは背びれにキズがなく、右側とは言えどサドルの模様も典型的。A11sのA56だと思われた。その隣に、数日前にはいたはずの赤ちゃんは、いなかった。

 しばらくして、ハンソン島の角からA13とA11が現れた。A11の側にも、赤ちゃんはいなかった。A11sの背後にはA36sが来ている、でも彼らはわかりやすい3頭のオスだ。もし、A56と赤ちゃんがまだハンソン島の影に隠れていて、私たちの視界に入っていないとしたら、スプリンガーと並んで現れたあのメスは一体誰だと言うのだろう…。

今日のスプリンガー
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今日のA13
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 私たちの心境とは正反対にそれはとても美しい夕暮れだった。A56らしきオルカとスプリンガーはラボの沖までゆっくり進んだ。私たちは、南からもオルカが来るのを確認した。A12s、A5sとA35sだった。彼らが進んで来るのを確認すると、スプリンガーとA56らしきオルカ、そしてハンソン島の角にいたA11とA13は先導するかのようにゆっくりと方向を変えた。スプリンガーはA51sの中へ飛び込み、A51の赤ちゃんと戯れ、スパイホッブしたり軽くブリーチしたりして遊んでいた。オルカたちは非常にリラックスした様子で、ブラックフィッシュ・サウンドへと進んだ。


 あまりもの美しさと、奇妙な動きに私たちはデッキでただ言葉をなくしていた。ただでさえ、通路であるブラックニー・パスを落ち合う場所に使うのはまれだ。A56はこの数日間で赤ちゃんを亡くしたのだろうか。もしそうだとしても、子供を亡くしたばかりのオルカが先頭に立って他の群れを迎えに行くだろうか…、あんなに落ち着いた様子で…。
 でもまだ、スプリンガーと一緒に現れたオルカがA56ではない、という可能性もゼロパーセントとは言えない。もしかしたら、さほど遠くには行っていないと思われるCsかDsの誰かが、群れから遠く離れて、スプリンガーと一緒にブラックニー・パスの様子を見に来たのかもしれない…いや、面倒見のいいA36sの3兄弟が、他の群れを迎えに行くA56とスプリンガーに変わって、ちょっとの間だけ赤ちゃんを見ていてくれたのかも…。いや、赤ちゃんが小さすぎて、私たちには見えにくかったのかも…。…どうなんだろう…。

 次の日になれば、また目撃情報が変わるかもしれない。私たちの方向から見えにくかったものでも、海に出ている2メートルを超す巨人、ジェレッド(トゥアンのキャプテンであり、新しいIDカタログを編集した中のひとり)からなら確認できるかもしれない。
 でも、次の日、というのはあるだろうか。ヘレナと私は、7月の終わりにはA4sがこの海峡をしばらく留守にする傾向が強いことを感じていた。

 オルカたちはほとんどコールを出さずに北へと向かって行った。メインハウスでのディナーはなかったので、疲れきった私たちは夕食も食べずに寝袋へもぐり込んだ。
2007-08-01 : 未分類 : コメント : 0 : トラックバック : 0
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プロフィール

Tomoko(Orcalab Japan)

Author:Tomoko(Orcalab Japan)
カナダ・BC州の海洋生物研究所「オルカラボ」で、野生オルカ(シャチ)の鳴き声の解析スタッフをしています。
夏の間は研究のためオルカラボのあるハンソン島に滞在。日本ではよくライブハウスにいます
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